序章‐勧誘
「以上、質問があるものは個別に訪れるように」
国家機関・対怨赤対策部隊紅隊。入隊式の締めの言葉が終わった。大して広くもない狭い会議室の中で、私達のひっそりとした入隊式は幕を閉じた。めでたい日に合わない曇天とした日があまり感じられない空を窓から確認した。自分を抜いても10人もいない今年の入隊のメンバーへの簡易的な入隊式兼説明会が終わり私は伸びをしつつ隣に座る兄に声をかける。
「ペアでいいよね?」
この紅隊くれないたいでは4〜7人で構成される班といわれるグループと二人で行動するペアの二種類の組み方がある。また、班に至ってはその中に事務・サポートメインの補助者を最低一人、多くても二人入れなければならない。補助者は別での入隊になる為ここにはいない。そのため、基本的に新人が実践に出れるようになるには班に所属するか信頼できるペアを見つけるしか方法はない。殆どの場合そう簡単に班に入れないしペアも決まらない。当たり前だ、命を預ける相手に妥協は誰だってできない。
しかし、私には唯一の肉親である双子の兄めぐむがいる。同じ場所で育ち、同じものを食べ、同じように育った自分の半身のような存在に分かり切っている問いを声に出す。
「当たり前だろ。ほかの誰と組むんだよ」
わざわざ聞くなと言いたげな顔をし必要書類に記載を始めていた。
ほかの人たちは部屋を出ていった上官を追いかけたり先ほどの話の感想を言い合ったりして各々好き勝手にしている。その中で、少ない会話ながらお互いの意思を確認する私達は周りとはまた違った空気を抱えていた。
「班に、興味ないのかとおもってねぇ」
そういいながら、自分の必要書類を渡し机に頬杖をつく。
私は壊滅的に字が汚いためすべて兄に任せている。何の疑問もなく当たり前のように私の書類にも記載を始めるめぐむは表情を変えることなく言葉を発する。
「興味が無いわけじゃないが、、、新人を入れる物好き居ないだろ」
「それはまぁ、そうだね」
めぐむが書き終わるまでの間暇な為めぐむの手元を見て時間を潰す。
私よりも白い肌で、身長に合わず少し大きな手そして何より私と違う鉛筆を握る利き手が大半の人と同じであるめぐむを見るといいなと思うことは多々あった。まぁ、この利き手のほうが色々と都合がいいので結局はただのないものねだりではあるのだけれどね。
そうやって二人でいつものようにやっていると少し部屋が静かになった。
「物好きで悪かったな」
突如上から降ってきた声に二人して驚きそちらを見る。
切れ目に私達と同じ赤い瞳、さわやかな印象を与える短い青みがかった黒色の髪を持つ男性が背後に立っていた。
「桜田教官?!」
桜田 誠遥
訓練生時代に実技の時間に教官をしてくださっていた方だ。教官は現役の紅隊隊員が行っているので桜田教官がいることは何も不思議はないのだが、ここに来るとは全く思わなかった人物の為私は声を荒げた。
しかし、後ろに立たれていたのに全く気が付かなかったことにくやしいやら情けないやらという気持ちを持つ。
「お前たち、俺の作る班に入らないか?」
それは、想定外の言葉に私たちは茫然とするしかなかった。
序章「勧誘」
桜田さんはここ数年教官としての任務を主に行っていたと聞いている。私たちが訓練生として教習所に入った時にはすでにそこにいたから聞いた話だけれど。そして、その前はペアで前線にいたとも聞いている。なぜ、ペアを解消したのかはデリケートな話になるから聞けてないけれど。
「あと一人は目星をつけている、どうだ?」
茫然とする私達に再度そう声をかける桜田さん。そこでようやく事態を飲み込めてきためぐむがハッとし大事なことを聞く。
「階級制限はどうするんですか?」
階級制限。これは階級が丹以上を平均としたメンバーでしか班を組めないとされている。これは、実力がない者たちでの構成が出ないようにするために設けられている決まり事だ。
階級は上から紅・緋・朱・茜・丹・桃・赭の七階級に分かれている、丹といえば下から三番目だ。現在の私達の階級は桃。つまり、もう一人の階級次第では桜田さんは紅の階級でないといけない。
また、通常新隊員は一番下の赭からであるが私は実技、めぐむは筆記で歴代最高点を出した為一つ上の桃からの開始となった。
「お前たちは俺の階級を知らなかったのか。俺の階級は緋だ」
あっけらかんと、そう伝えてくる桜田さんに心の中で苦笑いするが階級が上がることはそう簡単ではない上紅、緋まで来ると本来は前線に立つより上層部に入り運営側に回るのが普通の中この人は現役でここにまだいるということでもある
しかし、あと一人はサポーターで桃以上の人ということだが基本的に優秀な人は早くにほかの班にとられるのが普通だ。まぁ、この人のことが何か考えがあるのだろう、、、、
「少し、二人で相談させていただいてもよろしいですか?」
「あぁ、ゆっくり悩め」
絞りだしたような私の回答に桜田さんはそれだけ返し部屋を立ち去る背を見送る。扉が閉まったところでめぐむのほうを見ると向こうも同じタイミングでこちらを見たようで目が合う。
その時間は長くなくすぐにお互い視線を逸らし私は手元を見つめる。想定外の提案に困惑するお互いの空気を察しながらも言葉が出てこない。
話がうますぎる。新人に班の誘いはこれ以上に無いぐらい、いい話なのだ。自分よりも経験者のもとで実践形式で学ぶことができるのだから。
「断ることもできるが、、、、、」
そうつぶやくように発した、めぐむの言葉に同意を心の中だけでする。そう、断れないわけじゃない。これが知らない人なら遠慮なく断ってるぐらいには怪しい話だが私達二人ともが世話になった方の話だと思うととてもいい話なのだ。
結局、答えが出ないまま私たちはそのまま帰宅することになった。
紅隊がある国の中枢部から離れたどちらかというとボロイと言われる家が立ち並ぶ貧民街のほうに私たちは家を構えている。段々と活気がなくなっていく帰路。初めての出勤はなかなかの体験としていたがめぐむと並んで帰る夕暮れ時の長い影が伸びる道は無言なこともありただ静かだった。
狭い、一部屋しかない家、浮浪者が決して少ないとは言えない国政の中なんとか食つなぐことができているのが今の私たちの生活である。特に昨日までの訓練生時代の少ない賃金で借りられる場所など殆どなく、二人で暮らせるギリギリの広さの家だ。
「引っ越しも考えないとな」
「初任給がでてからだね」
数着しかない服に着替え夕餉の支度をする。
二人暮らしだが、掃除洗濯はめぐむ。料理、家計管理は私だ。めぐむは壊滅的に料理ができない。油を入れてないのに火柱ができたときは正気を疑ったのもいい思い出だ。あれ以降、一度も火を使わせていない。まぁ、私の特段できるわけじゃないのだけれど。
少ない米を炊き、みそ汁を作る。質素ないつも通りの献立。あと、ひと月の我慢だと言い聞かせながら配膳をする。
「ありがと、いただきます」
「いただきます」
丁寧に手を合わせ食べ始める兄さんに続き自分も箸を動かす。
礼や返事はするがあまりおしゃべりではない兄、それとは反対に話すのが好きな私だけれど今日は会話は始まらない。
先ほどのことで二人ともまだ決めかねているのが原因なのは明白だ。
この時間が苦しいわけではないがいまいちいつもの調子でないのはやりにくいと感じてしまう。
結局、二人とも寝るまでその日は会話らしい会話をすることもないまま過ごすことになった。
「おはよ、、、、」
朝日の光で目が覚める。先に起きていた兄さんにそう声をかけるが返事はない、あれ?と思いそちらを見ると机にふっして寝ていた。
これは、悩みすぎて寝れなくて机で寝落ちたな、、、、とすぐさま夜中の出来事が想像できた。布団をかけようにも元々眠りの浅い人だから起きてしまうだろうと思うとそのままが一番な気がして朝餉の支度をはじめた。
「おはよう」
ご飯の香りか音かは分からないがめぐむが起床してきて私に朝の挨拶をする。
相変わらずあさは強く眠そうなそぶり一つ無い。身支度を先に済ませようと着替え始めるのを確認してこちらも最後と味噌をとく。味見などをしていたら横に立っためぐむが茶碗を持ちご飯を盛り始めたのでこちらも身支度を済ませに行く。そして終わるころにはしっかりと整えられた朝餉があった。
「いただきます」
「いただきまーす」
二人でいつものようにご飯を食べ始めて数口食べたところで口にする。
「どうするか決まった?」
私の問いになにも聞かないでそのまま食事を進めるめぐむは表情も変えずに答えた。
「あぁ」ーーー短いがそれで私には伝わった。




