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真実に目覚めた俺は愚民を教導する!

作者: Xsara

真鍋樹、19歳、浪人生。予備校の蛍光灯の下で、彼は参考書の数式を睨みながら、頭の中で別の計算をしていた。「なぜ俺の人生はこんなに上手くいかない?」

樹の部屋は、かつては整然としていた。だが今、壁には付箋が乱雑に貼られ、「在日」「ディープステート」「愚民」と赤ペンで殴り書きされた紙が散らばる。机の上には、YouTubeの「真相究明チャンネル」のタブが30個開かれたノートパソコン。画面には、目を見開いた男が「日本を裏で操る者たち」と叫んでいる。

きっかけは半年ほど前、ネットの片隅で見た「在日特権」のスレッドだった。「在日朝鮮人が日本の受験制度を牛耳り、優秀な日本人を排除している」と書かれていた。樹は最初、笑いものだと思った。だが、模試の結果がC判定続きで、母親の「いつまで浪人するの?」という声が耳に刺さるたび、その言葉が脳にこびりついた。「そうか、俺が落ちるのは俺のせいじゃない。奴らのせいだ」。

彼は「目覚めた」。ネットの深淵に潜り、ディープステートの陰謀論にたどり着いた。世界は裏で繋がっている。政治家、メディア、大学—。樹は自分を「選ばれし者」と呼ぶようになった。X(Twitter)のbioには「真実を求める戦士」と書き加えた。フォロワー数は12人。だが、彼には関係なかった。「愚民には真実が見えない。俺が教導するんだ」。


ある日、予備校の休憩室で、樹は同級生の佐藤に熱弁を振るった。「お前も知ってるだろ? 在日が日本の経済を操ってる。データもあるんだ!」彼が差し出したのは、5chのスクリーンショットと、怪しげなブログのURL。佐藤はコーヒーを吹きそうになり、「お前、頭大丈夫か?」と笑った。樹の目は燃えた。「愚民め。いずれ分かる」。

夜、コンビニでバイトする韓国人留学生のキムさんがレジで笑顔を見せた。「いつもありがとうね、高橋さん」。樹は硬直した。奴だ。心臓がドクドクと鳴る。キムさんの笑顔が、まるでディープステートの暗号に見えた。彼は握り潰したレシートをポケットに突っ込み、逃げるように店を出た。

樹の「使命」はエスカレートした。街頭でビラを配り始めたのだ。手書きのチラシには「日本を救え! 在日支配を打破せよ!」とある。通行人はチラシを避け、警官が「許可は?」と尋ねると、樹は叫んだ。「お前もディープステートの犬か!」その夜、彼は警察署で「次やったら逮捕な」と警告された。だが、彼の目には涙と誇りが光っていた。「俺は正しい。歴史が証明する」。

ある晩、樹は鏡を見た。そこには、髪はボサボサ、目は血走った男がいた。ふと、昔の自分が脳裏に浮かんだ。高校時代、友達と笑いながらカラオケに行った日々。あの頃は、こんな「真実」を知らなかった。知らなかったから、幸せだったのか? 彼は鏡を拳で叩いた。「いや、俺は目覚めたんだ! 後戻りはできない!」


樹は再びパソコンを開き、新たな動画をアップした。タイトルは「愚民に告ぐ:真実の戦士の最終警告」。視聴回数は3回。コメント欄には「病院行けよ」とだけ書かれていた。彼はキーボードを叩き、「愚民が!」と呟いた。そして、画面の向こうにいる「敵」に向けて、今日も戦い続けた。


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