文月(蛍恋)
倒れたリョウスケは病院に入院した。
入院先にチグノの叔母が看護師で担当になった。
看護師からチグノが枕営業でアプリーレのメンバーになったと聞かされた。
リョウスケはショックを受けた。
けど自分の中でチグノとの距離を考えはじめていた。
「これ良かったら退院祝いに!」
「‥‥これは?」
「この間、変なこと言ったから」
「変なことですか?」
「チグノが枕営業してるって。そのお詫びよ」
看護師さんがアプリーレのライヴチケットくれた。
どうして‥‥‥いまさら!!。
以前ならめっちゃうれしかった。
でも今は少し困惑気味だ。
逆にもらうとつらいーー。
ぼくはチグノをあきらめることにしたのに‥‥‥。
「これからもチグノを応援してあげてね」
「ありがとうございます」
でも口から出た言葉は違う。
「明日退院ね。1週間たつのは、早いわねぇ」
1週間が早い?。
ぼくはチグノを忘れようと‥‥‥。
この1週間ーー!。
どんなに苦しんでると思ってるんだーー!。
でもこれもぼくの1人よがりだ。
チグノはぼくなんて何とも思ってない。
ぼくが勝手に妄想して期待してるだけだ。
だし‥‥‥ぼくはチグノに相応しくないーー。
「これからの若人よ。人生楽しみなさいよぉーー」
なーんそれ!。
この看護師ひと言多い。
若いからって、なんでもできるわじゃけないーー。
ましてや先のないぼくは、チグノをあきらめた。
唯一、人生の暗闇に灯をつけてくれたチグノ。
だったはず。
もう、チグノのTikTokやインスタも見てない。
見てない?‥‥‥じゃなく見えないだけだ。
見ると根底に潜むものが暴れ、ぼくの胸が苦しくな
る。
そんな思いをするならーー。
もう希望ない明日。
死んでもいいくらいだ。
だから今日の午後の診察もぼくには無意味だ。
「顔色だいぶ良くなったね」
ぼくの心境と全くの真逆だ。
「まぁ‥‥‥。」
ぼくは主治医の顔を見ることが、できなかった。
「検査結果もまずまずだよ」
「はぁーーあ」
「何だか元気ないねぇ、明日退院するのに」
ぼくはうなずくのがやっとだ。
主治医は2週間後の検査日を聞いてきた。
2週間後まで生きてるのかわからない精神破滅のぼく。
ぼくは適当に答えるのがやっとだった。
病室から夕日が傾いて橙色に病室を染めた。
開けた窓からミンミンゼミとつくづくぼうしが交互
にコーラスを繰り返えす。
なんだか世間は、もうすぐ夏なんだーー。
小学生時代、ワクワクドキドキした夏休み前のこと
が無性によみがえる。
‥‥‥もうココロ弾ける、そん日はないだろう。
全世界で1番ぼくが不幸を背負っている気になってし
まう。
何だかみじめで弱ったココロに虚しさだけがしみ
る。
「よぉーリョウスケ!」
退院日、タイシがわざわざ病院まで車で迎えにき
た。
「おっーーす!ーーリョウスケ久しぶりぶりーー」
助手席の窓からコトミが顔を出した。
「なんでコトミまで」
コトミも同じ通信制高校の同級生だ。
「なんでコトミいるの?」
「わたしがいると、いやなのーー」
コトミは、はっきりした性格で分かりやすい。
「まぁ乗れよ」
タイシが後部座席を指で合図した。
車内では、いきなり高校時代の話しで盛り上がっ
た。
ぼくは死と背中合わせの高校生活を過ごした。
だけど幸いに寿命が長引いて、たまたま卒業しただ
けだ。
だから特に思い出は、あまり思い浮かばない。
「わたし介護士の仕事してるんだー」
「そうなんだ?」
「‥‥そうなんだ」
急にコトミがマジ顔した。
「たったそれだけ?」
助手席のコトミが振り替えるとぼくをにらむ。
コトミがまゆをつりあげてきた。
「みんなで海に行こうぜぇ」
タイシが話題を変えた。
アクセルを踏んでスピードをあげた。
半開きの窓から潮風がぼくの鼻をくすぐった。
高校時代にタイシと時々よく行った場所の1つだ。
熟夏よりまだ若夏のこの時期。
海岸は、ひと気がまばらだ。
3人で波打ち際で、誰がギリまで残るか勝負した。
意外に最後までぼくが残った。
どうせなら、この波にさらってほしい気分だ。
「お腹減ったからマック行こうよ」
反対側車線にMの表示板をコトミが指差した。
「おれも腹減ったから行こう!。なぁ〜リョウス
ケ!!」
「うん」
「なんだーリョウスケ元気ないなぁ」
タイシが急に抱きついてきた。
「もうやめろよーー」
ぼくはタイシの行動がうれしいかった。
でも素直に言えなかった。
もし1人だと‥‥‥。
おれはタイシに助けられた。
やっぱタイシは、1番ぼくを理解してくれている。
「これ、リョウスケに、快気祝いであげる」
マックの店内に座るなりバックからコトミがテーブ
ルに置いた。
「アプリーレのライヴチケット!」
なんでーーって気分だ!!。
あきらめようとしてる時にアプリーレばかりだ。
「職場の先輩がくれたの。わたし地下アイドルに興
味ないから」
「おれにくれよーー」
タイシがうらやましそうな表情だ。
「リョウスケの快気祝い。これって特典付きのチケ
ットらしいよ」
でもなにの特典かは、当日のおたのしみらしい。
行くか行かないかも分からない。
でも‥‥‥。
マックの帰り道、3人で川沿いの公園で遊んだ。
その中でもぼくが1番はしゃいだ。
「ほっ、蛍じゃない!」
タイシの指さす先はコトミの肩だった。
「えっーー、もう7月だよ」
コトミが珍しがった。
蛍が飛ばないように、コトミは動かない。
「蛍にも色々いるよ。きっとまだ探し続けてる」
タイシが蛍に近づいた。
コトミの肩に止まる蛍は白色系の灯が幻想的だ。
きっとこの蛍も‥‥‥。
ぼくもチグノを求めまだ彷徨ってる。
「あーあ!」
蛍がコトミの肩から飛びたった。
白色光が上空を左右に飛んだ。
蛍の寿命は短い。
ぼくの恋と同じだったかもしれない。
それでも、こんなに自由に飛ぶ蛍がうらやましい。
ぼくは低空飛行を繰り返すのが精一杯だ。
この不発した感情も一緒に連れて行ってほしい。
「あっーーぁ!」
タイシが大声を出した!
ぼくはタイシの視線に顔を向けた。
今回も閲覧いただきありがとうございます。
もうすぐ夏がきますね。
みなさんは、今年どんな夏にしたいですか?
わたしは海や山で、へとへとになるまで遊びたい(笑)
でも熱中症には気をつけてましょうね!




