皐月(碧恋)
臓器提供を希望したリョウスケは、臓器提供のため手術台にいた。
麻酔が効くまで、様々な光景が頭に浮かんだ。それは今、この手術台を決意させたチグノと出会った感情の旅に出た。
「先生、いつまでぼくは?」
「‥‥‥」
困惑気味の主治医を見て、ぼくは死が近いことを悟った。
ぼくは糖尿病1型だ。まぁ、18才で死ぬと言われていたが、もう1年以上命が延命している。
ぼくにとっていいのか悪いの分からない。15才で発症し3年の余命だと言われた。
ぼくはそれでもと思って記念に通信制高校に通った。それがまさか卒業までたどり着いたのは意外だった。
「残された余命楽しみなさい」
優しく語りかけるように主治医は、その言葉を返すのがやっとだった。
「それとリョウスケさん、良かったら臓器提供しない?」
「臓器提供?」
「リョウスケさんの臓器が誰かのために使われますよ」
死ぬ間際のぼくは、あまり興味なかった。ましてや糖尿病に侵され獣のような汚れた臓器など使いものになるわけない。
「リョウスケさんは若いからまだ使える臓器もあるから。どうかな?」
ぼくは糖尿病で死ぬのに、臓器だけを提供する? 何だか納得いかない説明だ。
「ちょっと考えます」
嫌だと内心思っていても素直に断れないのが、ぼくの短所だ。この短所のおかげで、随分損することばかりの人生だ。
この前も卒業記念に同じクラスのタイシに誘われアイドルのライブに行った。しかも地下アイドルだ。確かアプリーレって名前だった。
生まれ初めてのライヴは、ぼくには新鮮だった。サウンドが室内に流れると4人組ユニットのメンバーアプリーレがミニスカで現れた。
色鮮やかなスポットが4人を煌びやかにさせた。スポットを浴びる4人は、ぼくと違う生き物に見えた。
アプリーレのライブは一気に盛り上がりすぐに空間が一体感を増した。曲に合わせてファンは総立ちだ。
曲に合わせファンは上下左右に体を動かしてアプリーレを盛り上げた。会場はすぐに熱狂する推しのグループが支配した。
となりのタイシも負けじとペンライトを振って声を出した。こんなタイシは見たことない。
「リョウスケ、ノリが悪いよ」
タイシが右肘で突いてきた。確かに何もしてない方が目立つ。嘘でもはしゃいだマネをしないといけない。
ぼくはタイシの身振りをマネして体を動かした。(何だこの突き上げらる魂は?)ぼくの体内から眠っていたマグマのような沸々したものがうごめいていた。
今回も閲覧ありがとうございます。
死が近いリョウスケは、アプリーレのライブで自分の中に眠る何がうごめいた。
まだ自分では気付いてないが、次第に自分を支配する予感がした。