弥生(動愛)
ばあちゃんが熱海旅行を年末福引で当てた。
3人は熱海旅行に向かった。熱海で開放された母ちゃんを見たリョウスケの心が家族愛を通して変わろうとした。そしてばあちゃんにリョウヘイのことを聞いてみた。
ぼくが立ち止まると白息はリズムを取る。
その度何度も寒さが肌に刺さる。
朝靄に包まれる海面から漁船のエンジン音がぼやけ響く。
揺れる海面は、まばゆい光を放っていた。
黄金色の波が波止場まで遊びにやってきて無常に消えた。
潮の香が体内を清めてくれる。
ぼくの足裏は感触が日々うすれている。
こんな柔らかな粒子さえ鈍くしか伝わらない。
晩冬風に背中を押され砂浜まで来たようだ。
波打ち際近くに、錆びついた漁船が何隻も不規則に眠って いる。
「気持ちいいわね」
母ちゃんが深呼吸してから両手を広げ背伸びした。
太陽に重なる母ちゃんからは、お光がさしてるようだ。
「これなら朝ご飯、きっと美味しいわね」
「ちょっとここで休憩する」
立ち続けると膝が笑う。
ぼくはその場に眠る、漁船に腰掛けた。
「大丈夫?」
母ちゃんの笑みが太陽の白光と重なり暖かく沁みる。
シルエット姿の母ちゃんを目に焼き付ける。
最後の最後までぼくはやりきる。
お経のように何度も唱えた。
無意識に握る砂にも力が入る。
広げた指の隙間から、淡金色の砂が、跡形もなく消えてい く。
儚く落ちる白砂でさえ光に反射し淡金色の存在に彩る。
そんな時、ズボンのポケットから慌しくスマホが鳴った。
着信番号の表示だけだ。
澄んだ空気感を壊したくないから、出る気がしない。
「スマホ鳴ってるわよ」
母ちゃんの視線から目を背けた。
「う、うん」
気乗りしないぼくは、ためらいながらオンにした。
「もし、もしぃ」
数秒してから荒々しい声が耳を疑った。
「リョッピーさん。チグノです」
耳奧に、くすぐる柔らかな息を吹きかけられたようだ。
「どっ、どうして番号を?」
真っ白な頭の中は凍結したようだ。
「あとでゆっくり話すわ。それより助けて!」
たっ、助けて?
尋常じゃないチグノの声に凍結していた脳が解凍される。
「今、どこ?」
「清掃ーー」
ザザッと雑音混じりで通話は切れた。
「どうしたの?」
母ちゃんが顔をのぞきこんできた。
「アプリーノのチグノちゃんから」
「リョウスケが推してるチグノさん?」
「うん。た、す、け、て。だって」
「それは大変じゃない。何かの事件か事故に巻き込まれた のかも」
「‥‥‥行った方がいいのかなぁ?」
「あたり前じゃない。リョウスケの推してる人でしょ」
「う、うん」
「すぐに行ってあげなきゃ」
「でも‥‥‥」
「何、迷ってるの。推しがいるからこそ。リョウスケも今 は輝いているのよ」
普段何も言わない母ちゃんが積極的だ。
「わたしもリョウスケを推してるから、ここまで頑張れて るのよ」
「かぁ、母ちゃん!」
「すぐ帰りましょう!」
車窓から見える海面は朝までの朝焼けを失っていた。
「明日、南岸低気圧で熱海にも雪が降るそうですよ。3 月 なのに。どうなってるやら」
運転手が独り言で、ぼやいてた。
車内も行きと違い帰りは上空同様に無言の空気が浮き沈み してる。
東京に着くと熱海と同じグレーカラーの空に染まってた。
母ちゃんと、ばあちゃんとは、その場で別れた。
別れ際2人からの木漏れ日満ちた視線に背中を押された。
新木場のサメジマ清掃は、今日はやたら静かだ。
心臓が不安と期待で風船のように、膨れたり萎むを繰り返 す。
時には押しつぶされそうだ。
心臓の鼓動が痛いくらい小刻みに背中を叩いてくる。
乾いた口内に唾を飲み込もうするが潤う唾液が出ない。
それでも出ない唾液を何度も飲み込んだ。
サメジマ清掃の扉を開ける手が震えた。
「いらっしゃい。何だ、あんたか」
相変わらず愛想がない事務員だ。
「また、何か拾ったのかい?」
伝票を整理しながら声だけ向けた。
「あの、チグノさんは?」
「今、リョウヘイくんと仕事に行ってるはずだよ」
妙な静けさは耳障りなリズムだ。
「リョウヘイさんは、どこに?」
「この近くに築100年の古民家があるんだよ。そこの片付 け」
この事務員はチグノの助けてを知っているのだろうか?
「あのーー」
思わず乾いた唾液と一緒に無理して飲みこんだ。
「まだ何か?」
ぼくは首を横に振り築100年の古民家に向かった。
先程以上に雲の流れが早く、黒雲が一気に上空を占領しそ うだ。
おまけにチグノが叫ぶような暴風まで吹き出した。
ぼくは、しっかり地面に足底のソールが、擦れて鳴き出し そうなくらい力を入れた。
「ここだ!」
シャッターが閉まる商店の裏だった。
シャッターに雑貨サメジマ商店と薄っすらとペイントが残 っていた。
商店横に車一台が通れる車幅の道をぼくは歩いた。
裏に回ると商店は古民家と繋がっていた。
ひっそりと佇む古民家の壁が外れ風に煽られ、重苦しい音 は無気味だった。
玄関のドアも半開きで迎えてくれている。
半開きの隙間から悪戯風が左右に揺らして、音を楽しんで いる。
ぼくは1度腹から息を吸い込みドアの奥に向かった。
「うっ!」
古民家特有の埃と湿気の独特な臭いが襲ってきた。
鈍くなった全ての神経でさえ、体内を敏感に嗅覚に引っつ いてくる。
足元は腐敗した床板の哀しげな低音が速度を緩めさせる。
ほんとにこんな場所にチグノはいるのか?
家内は無音で壁の音と床板の音が、やたら恐怖を煽った。
片付けをしてる気配などない。
部屋は闇に覆われ光が遮断されていた。
ぼくはカーテンを開け光を求めたが、グレーだった上空は 黒雲に支配されていた。
それでもわずがな光が、ゆっくりと部屋を目覚めさせる。
部屋が目覚めると、ぼくの心臓が口から飛び出そうとした ので、必死にこらえた。
「チッ、チグノちゃん!」
チグノが両手両足を椅子に縛られ座っている。
「チグノのちゃん!」
チグノの耳が微妙に反応した。
「うっうっう!」
チグノが縛られた両手両足をバタつかせた。
口元もタオルで縛られ喋れない。
「なっ、なんでこんなことに?」
「あっはっはっ! 待ってたよ」
頭が理解するまでに不吉を連れてくる耳障りな足音だ。
ぼくが振り返る瞬間に、雷鳴が外では轟き爆音を残し落ち た。
そのフラッシュの灯りで映すリョウヘイは、サタンのよう な目つきで微笑してた。
今回も閲覧していただきありがとうございます。
いよいよリメンバーラブも終わりに近づいてきました。
リョウスケとリョウヘイ。そしてチグノとの関係は?
どうなるのかお楽しみ!




