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如月(静愛)

正月からリョウスケはゴミ回収場所で待った。

唯一チグノに会える場所だからだ。

待つこと3日目にチグノが回収場所に現れた。

しかしチグノをイジるリョウヘイに、リョウスケは近づい

た。

そこで、リョウスケはリョウヘイから双子の弟だと聞かされた。


 縮まりそうで縮まらなかったチグノとの距離。


 でも今は至近距離の‥‥‥はずだ。


 スクープの日から誹謗中傷で埋め尽くされたコメント欄。


 チグノは淀む海底で、溺れる寸前のはずだ。


 ぼくがチグノに寄り添うはずが、逆に寄り添ってもらって いる。


 与えるのではなくチグノから奪ってばかりだった。


 その代償があまりに大き過ぎて胸の呼吸が止まりそうにな る。


 けれど今は息を止める訳にはいかない。


 ぼくの奥底には「生きて!」と言ってくれたチグノの言葉 だけが刻まれている。


 呪文がとけると、ぼくはガラスのような自信しかない。

 逆にリョウヘイの自信の矢がぼくを貫通しそうな勢いだ。


 「あいつが 双子の弟?」


 顔も似てないし性格も全く真逆だ。


 でも同じ血が流れている。

 兄弟でチグノを争う。


 チグノの前でそれを認めると希望が砕ける。


 リョウヘイの、にやけ顔は沸々と苛立つばかりで、胸焼け してしまう。


 家族にもリョウヘイのことを聞き出せない。


 しかも兄弟でチグノに恋心を抱いてることもだ。


 「どうしたのリョウスケ? 気分でも悪いの?」


 「えっ?」

 「顔色悪いわよ」

 「大丈夫」


 これ以上母ちゃんに迷惑は、かけられない。


 ましてや‥‥‥


 「今日は病院で定期受診の日でしょ」

 「う、うん」

 「乗せてあげようか?」


 「1人で行ける」

 「そう。あんまり無理しないでね」


 「う、うん」


 「なに、この辛気臭い空気!」


 ばあちゃんが居間に入って瞬時に空気を仰いだ。


 「今日は節分だよ。リョウスケも豆まいて邪気をはらいな さい。明日から熱海旅行よ」


 ばあちゃんが鬼の面と豆をテーブルに置いた。


 「いよいよね。おばあちゃんが、年末の福引で特賞当てた の。リョウスケ楽しみね」


 母ちゃんの声がいつもより弾んでた。



 今日は立春だ。

 

 けど熱海界隈も、まだ春遠しの景色と温度で冬色だ。


 誰も言わないが最後の家族3人旅行になるだろう。


 「あんな場所に梅が咲いてるわ」


 母ちゃんが旅館に向かうタクシーから指さした。


 「もうすぐ春ね、リョウスケ」

 「そうだね」


 ふと昨日受診した主治医の弱々しい声だけが、耳元から蘇 る。


 病は確実に傷口を広げ蝕んでいる。

 念願の臓器提供も絶滅らしい。


 ただ唯一肺だけが‥‥‥それも時間の問題だと言われた時、 心の根っこまで引き抜かれた。


 タクシーのラジオから、アプリーレの忘れないでが流れて きた。


 たった半年前まで、真夏の熱を放す勢いで燃えて推してい た。


 今では冷めた料理を食する心境だ。


 ラジオ番組終了間際に映画原作募集の告知が流れた。

 テーマは愛らしい。


 愛にも色々な形があるとパーソナリティが付け加えた。


 確かにその通りだと妙に納得してしまう。


 ぼくとリョウヘイのチグノへの愛は同じものなのか?


 頭の中のスクリーンに上映される。



 「着いたわよ。ずいぶんと大きな旅館ね。温泉が楽しみだ わ」


 母ちゃんが後部座席で、はしゃいでいた。


 硫黄臭が鼻につく。


 夕刻時間につかる久しぶりの温泉だ。

 体がゆっくりと温まる。


 湯船からの庭園も冬色の景色だ。

 遠方には二重に出来た珍しい虹が姿を見せた。


 こんな虹の出現は初めてだ。

 体がほっこりと温まる。

 

 けど何故か、ぼくの根底は温まらなかった。


 部屋へ戻るとご馳走がテーブルを華やかに飾ってある。


 それを見るなり、ばあちゃんと母ちゃんが口を開いたまま だ。


 食事中は懐かしいぼくの幼年期話しで盛り上がった。


 久しぶりに笑顔溢れる夜に包まれ和やかに過ぎた。


 外は冬景色、だがこの部屋だけは春の陽気が照りつけてい た。


 笑顔を降り注ぐ部屋は、川の字になった布団の真ん中で、 ぼくが寝ることになった。


 母ちゃんは久しぶりのアルコールで、すぐに眠ってしまっ た。


 こんなに、はしゃぐ母ちゃんの笑みをぼくは、もう見るこ とはできない。


 静かに脳裏と胸中を寂しさと親子不孝の葛藤が螺旋状に渦 巻く。

 それでも母ちゃんの笑みで、良き息子だと無理矢理に結論 づけた。


 「リョウスケ起きてるかい?」


 鼻をすする音で、ばあちゃんは声をかけてきた。


 「母ちゃんが楽しそうで良かった」

 「あんなに、はしゃぐ姿は久しぶりね」


「リョウスケ良く春までよく頑張ったわね」


 「ば、ばあちゃん」

 

 ぼくの眼頭から一粒の雫が布団に落ちた。


 「この旅行って本当は福引じゃなくて‥‥‥」

 「‥‥‥もうそれ以上はなしだよ」


 暗闇の中から子守歌を歌う時のほっとするばあちゃんの声 だ。


 「‥‥‥ばあちゃん」

 「何だい?」


 ぼくはリョウヘイの話しを切り出した。


 「ばあちゃんの独り言を今からするかねぇ」


 ばあちゃんはリョウヘイの話しをしてくれた。


 窓越しからかすかな波音が冷静さを保させた。


 その波音は 静かに脇立つ感情まで、宥めて飲みこんでくれ た。


今回も閲覧してくださりありがとうございます。

いよいよリョウスケは死に近づいていきます。

もし自分が最後やり残すことがあれば何かですか?

また最後に食べたい食べものは? わたしは自分で作る黒コショウをかけた目玉焼き!

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