睦月(真愛)
チグノが忘れたスマホを届けに清掃会社へ行ったリョウスケ。
愛想のない事務員に渡すと社長が現れる。
リョウスケのフルネームを伝えると動揺した。
帰り途中に偶然チグノと出会った。
スマホはチグノの物ではなくリョウヘイの物だった。
リョウヘイはチグノを推しているとリョウスケに伝えた。
チグノがぼくの人生に彩りをつけてくれた。
しょぼくれた人生は地面に落ちた銀杏の色褪せた葉と同じ だ。
誰にも気にされずこの世から去って行ったに違いない。
テレビの音量から除夜の鐘が耳奥に飛びこんできた。
ばあちゃんは最近耳が遠くなりテレビの音量が、ぼくの部 屋まで聞こえてくるようになった。
そんなばあちゃんより先に、この世からさよならするだろ う。
ベッドの中で空回りを繰り返す脳みそにイラつく。
もうーーー!
頭から布団を被り叫んだ。
わずかな布団の温もりがチグノの温もりを思いださせた。
ダウンジャケットにしがみついてきた指の力。
号泣中、吐き出されたチグノの息。
あの時は五感でしっかり受け止めた。
それは決してアプリーレのチグノじゃなくてもチグノには 変わりない。
しぼんでいた会いたいが加速して膨れ、温かさまで一緒に 連れてきた。
これが生きてる証拠なのか?
もう失うものなどない‥‥‥でも、なんだか怖い。
死ぬことではない‥‥‥チグノを忘れることだ。
チグノのSNSは変わらない映像がセピア写真のように止ま っている。
あのスクープされてからは、この場所も追われた。
これ以上闇の底に落ちるチグノを見るとぼくは崩壊しそう だ。
ぼくが無理に愛しい表現を求めた結果だ。
思いを紡いだ結果チグノを底へ落としてしまった。
「リョウスケよりおれが、チグノをよく知ってるよ!」
クリスマスにリョウヘイから言われた言葉が頭を過ぎる。
喉元に突き刺さる棘は取れないまま居心地が悪い。
「春までに桜ちるかも‥‥‥」
主治医からはポツリと最終宣告のパンチをもらいダブルパ ンチを受けた傷が再び痛む。
「わたしをずっと見守っていて」
唯一、チグノが残した言霊だけが、今は生きる道標なのか もしれない。
寒風が痛さを増す睦月に、ぼくはゴミ回収場所で、身体を 丸め足元を動かした。
回収場所隣に咲く赤い椿はこの寒さでも咲き誇っている。
地面には首から散る役目を終えた椿が何か言いたそうだ。
ぼくとチグノを表しているような弱気に映ってしまう。
それでも正月から3日過ぎた夜にゴミ回収車が止まった。
見飽きるぐらいの椿鑑賞もこれで終わりだ。
ぼくは生唾を飲み込む音が耳元に響いた。
ここでしか会えないチグノとの場所。
カラスに突かれ散乱するゴミ山だ。
けどぼくにとっては宝山だ。
遠方からチグノの姿を見てるだけで3日分の辛さは吹き飛 ぶ。
そのはずだった‥‥‥
「辞めてくださいーー」
力のこもるチグノの声をぼくは疑った。
期待を裏切るチグノの声が第一声だ。
街灯だけては暗くて状況が分からない。
ぼくは近くの電柱に隠れ様子を伺った。
「‥‥‥ほんとに辞めください」
ため息混じりのチグノの声をぼくはキャッチした。
どうやら3人体制でゴミ回収しているようだ。
その1人がチグノに、ちょっかいを出してるようだ。
帽子を被り見えそうで顔は見えない。
再び背後からちょっかいを出す人をチグノは追い払った。
その時にチグノの指先が触れると地面に帽子が落ちた。
「リョ、リョウヘイだ!」
この軟弱な身体中の血潮が全身駆け回る。
軟弱ですぐにでも飛んで行きそうなぼくがチグノの前で壁 になった。
「もうそれ以上、辞めてやれよぉ」
遠方から見るはずだったチグノの側にぼくはいた。
「なんでリョウスケがいるの?」
驚きもせずにリョウヘイは冷静だ。
「なんか変な声がしたから‥‥」
「変な声?」
リョウヘイがにやけた。
「あー、戯れてたことか」
寒風の冷たい沈黙が2人の間に流れた。
「関係ないだろうーー邪魔するな!。正月からストーカー 野郎が!」
リョウヘイは知っていたのだ。
ずっとこの場所でチグノを待っていたことに。
「知ってたのか?」
「想像通りだよ」
「リョウヘイおまえ‥‥‥」
「おれも多分同じことするからだよ‥‥‥アニキ!」
「‥‥‥アニキ?」
リョウスケの吐く息が、夜気の余韻に白息で残骸として漂 う。
幼年期のページに記憶が巻き戻された。
リョウヘイの顔は勝ち誇る。
おまけにマウントで距離感を縮めてきた。
後退りするぼくには踏み潰した銀杏の実の悪臭ばかりが襲 ってくる。
「もしや‥‥‥生き別れた弟のリョウヘイ?」
今回も閲覧してくださりありがとうございます。
リョウスケに新たなライバルのリョウヘイが現れました。
しかも双子の弟。
もし貴方なら身内との恋愛争い諦めますか?
これからどう展開していくのやら。




