表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/22

師走(強愛)

スマホを届けに清掃会社を訪ねた。

対応した女子事務員は愛想がなく社長もそっけなかった。

少しモヤモヤ感を持ちながら帰ろうとするとチグノが立っていた。

チグノはリョウスケに抱きついて泣き出した。

 チグノの爪がダウンジャケットに食い込み指先の力が伝わ ってくる。


 首筋からは、チグノの体温が、冷えたぼくの首筋をゆっく り温めた。

 

 その温もりは今のぼくが求める唯一生きてる感触だ。


 ぼくが最後まで生きるエネルギーの源になってくれる。

 

 でも支える足は悲鳴をあげていた。


 ぼくは近くのベンチに腰掛けることにした。

 ベンチに腰掛けるとチグノは多少落ち着き泣きやみ顔を上 げた。


 「どうしてアイドル無理なの?」

 「スクープされたの?」

 「スクープ?」


 チグノがポケットからスクープ記事を差し出した。

 ぼくは胃酸が逆流する生暖かさが食道まで上がり飲み込ん だ。


 ぼくがチグノにキスした写真だ。


 「もう一枚はこれ」


 ぼくはこの写真を見て飲みこみ返そうとした胃酸が足元に こぼれた。


 「大丈夫?」


 チグノが背中をさすってくれた。


  「ゴメン」


 その写真は、チグノが作業着姿でゴミ回収してる姿だ。


 決してゴミ回収業者をバカにしてるわけではない。

 でも世間はこんな具合に値段をつける。


 ぼくは、ずっと半額以下の値札をつけらて生きてきた。


 だからこそ太陽のような脚光を浴び高価なチグノに憧れ好 きになった。


 「‥‥‥ゴメン」

 「どうしてりょっぴさんが謝るの?」


 「ぼくが、あんな勝手な行動したからだ」


 今更後悔しても遅いのだ。

 ぼくがチグノの輝きを消してしまった。


 ぼくがチグノを好きにならなければ、こんなことにはなら なかった。


 ぼくが‥‥‥

 肌に突き刺さる独特の冬風は喉元をえぐる。


 ぼくが‥‥‥

 次に喉元過ぎた冬風は心臓部を掻き乱す。


 ぼくが‥‥‥全て悪いのだ!


 チグノを巻き込んでしまった。


 最後に一気に溜め込んだ冬風は、ぼくの感情まで粉々にふ き飛ばした。



 「それは違うよ。りょっぴさんが、こんなに多いアイドル の中で、わたしの推しをしてくれた。

 しかも地下でくすぶるこんなわたしの」


 暖かな日差しのような一言が、ぼくの吹き飛んだ感情を集 めてくれた。


 口元を押さえ胃から逆流するものも飲み込めた。


 ぼくは、もう心残りなく死ねる。


 先ほどまで吹き荒れた冬風は春風のように肌にしっとりく る。


 ‥‥‥ほんと生きてて良かった。


 ぼくは毎日淡々と感情もなく冷めたスープのよう生きてき た。


 今は冷めたスープを温めるのだ。


 だからもう1度チグノのために全てを注ぐ。

 もうひと仕事をするのだーーリョウスケと鼓舞した。



 「ここで何してるの?」

 「‥‥‥リョウヘイさん」


 「リョウヘイ?」


 「清掃会社の社長の息子さん。一緒にゴミ回収してるの」


 金髪の長髪を後で結んだ若い男性か近づいてきた。


 「さぁ、バイトする時間だよ」


 リョウスケを無視してチグノを連れて行こうとした。


 その時、チグノのスマホが鳴った。


 あれはチグノのスマホじゃなかった。


 ‥‥‥なら誰の?


 「スマホありがとうね。リョウスケ」


 馴れ馴れしくぼくの名前を金髪野郎が呼び捨てで呼んでき た。


 しかも上から目線の視線と口調だ。


 何度もリョウヘイはスマホを見せてきた。


 どうしてこのリョウヘイは、全くチグノと同じスマホカバ ーとアクセサリーなのだ。


 何故?


 「チグノちゃん。スマホ失くしてないんだぁーー」

 「ずっと持ってるよ。どうして?」


 「あのスマホ、チグノちゃんのだと思って会社に持って行 ったんだよ」


 「ほんとだ。同じ! 知らなかった」


 チグノが何度も交互にリョウヘイのスマホを見返した。


 「おれはアプリーノのファンでチグノを推しているからだ よ」


 不気味な笑顔にぼくはひいた。


 「それより早く回収終わらせてクリスマスパーティーしよ うぜ」

 

 「クリスマスパーティー?」


 チグノはうつむき顔をあげなかった。

 ぼくの鈍い頭の回転が回る。


 「じゃあね」


 ぼくは負け犬のように尻尾をふって背を向け歩き出した。


 「りょっぴさんーー」


 耳元にチグノの声を聞こえた。

 でもぼくは振り向かず歩いた。


 「ちょっと待って!」


 チグノの声が近づく。

 ほんとは一緒に笑顔で歩きたかった。


 ぼくは今後、歩くことも次第に困難になる。


 もう全てが過去形に変わろうとしていた。


 人生最後のクリスマスプレゼントは、ぼくらしいプレゼン ントだ。


 チグノは欲しくないだろうけど。

 太陽が照りつけてるのに吹雪のような体温だ。


 「待ってよ」


 チグノの声はやがてぼくの背中で消えた。

 その瞬間ぼくの背中はチグノでうめつくされた。


 「やっぱりさっきの言葉訂正する」

 「訂正?」


 「わたしやっぱアイドルをもう1度目指す。だからりょっぴ さんも生きることあきらめないで。それでわたしを見守っ て!」


 まるで冷たい手を人肌で温めてくれた柔らかい言葉だ。

 チグノはぼくの胸中を察していた。


 こんな他人のぼくに、まだ生きる勇気を与えてくれる。


 けどぼくにはチグノに何も与えられない。


 与えたのは全てを諦め絶望な態度だけだ。

 サタンに心奪われた、ぼくは振り向けなかった。


 「さぁバイトに行くよ」


 無常にリョウタが2人を割くようにチグノを連れて行く。


 ぼくは振り向きもせずに握った拳に雫が落ちる。


 もうこれ以上‥‥‥生きなくてもいい。

 もうこれ以上‥‥‥なにも望まない。

 もうこれ以上ーー辛い人生にしたくない。


 もうこれ以上‥‥‥この言葉が充電切れ間近なぼくを充電し てくれた。


 ぼくはサタンを振り払いチグノを忘れないために火種をつ けた。


 数メール先のチグノに振り返った。


 太陽の日差しが眩しくチグノが蜃気楼にさせた。


 それでもぼくはチグノに向かって蜃気楼を手探りでさがし た。


 だって今日はクリスマス!


 人生最後のクリスマス記念日にするために‥‥‥


今回も閲覧してくださりありがとうございます。

まだまだこの2人は波乱がありそうなので、暖かく見守ってくださいね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ