霜月(揺愛)
アプリーレのライブに行ったリョウスケ。
その見た光景は華やかで、心まで弾んだ。
今までのモヤモヤ感が吹っ飛ぶ最高のライヴに興奮が冷めやまかった。
このまま帰宅するのが、もったいなかく時間を潰した。
そんな時、偶然チグノと出会った。
数時間前のチグノではなく、ゴミ収集車に乗っていた。
リョウスケは作業着姿のチグノに驚いた。
「もしかしてチグノちゃん?」
ぼくは何度もまぶたを繰り返し見開いた。
「りょっピーさん?」
やっぱり作業着とヘルメットをかぶったチグノだ。
「ここで何してるの?」
気まずそうにチグノはうつむいたままだ。
「もしかしてバイト?」
口元を濁らせるようにうなずくだけだ。
つい数時間前までスポットライトを浴びてキラキラ眩 しかったアイドルとは思えない。
慣れた手付きで、パッカー車にゴミを入れる姿は、ア プリーレのチグノと重ならない。
こんなのうそだぁーー!
ぼくが推していたチグノは‥‥‥
ステージで歌い踊り煌めきな笑顔が眩しかった。
ステージ上のチグノと落差が大きすぎて、ためらって しまう。
でも現実のチグノは、手慣れた手付きだ。
ぼくの足元に転がるゴミを舐めるように丁寧に拾って いる。
まるで別人だ。
‥‥‥どう言うこと?
現実を受け止められない。
公園でダンスの練習を見た時ですら華やかなオーラが あった。
ましてやTikTok Live画面からはキラキラビームで元気 をもらっていたのに‥‥‥
でもこれが現実だ。
黙々とカラスに散らかされたゴミをチグノは拾ってい る。
チグノの作業着からスマホがなった。
素早くスマホを取り出し、何かを確認していた。
そのスマホは飾られたカバーで、煌びやかなチグノは 存在してる。
再びぼくが認めないチグノにもでる。
こんな姿のチグノは、ぼくと同じ匂いまて感じてしま う。
なんだか距離感までも縮まり身近に思えてしまう。
「それじゃ」
「チグノちゃんLINE交換しようよ」
自然と口に出せないことが言える。
「ファンの方とはダメなの」
「今は作業員のチグノちゃんでしょ」
ぼくは、うんちくを並べた。
パッカー車のクラクションが鳴った。
「‥‥‥わたし行かなきゃ」
流れる雲の隙間に月が隠れた。
ぼくは不意にチグノと距離を縮めキスした。
唇が触れ合う。
柔らかく、小さく震えていた。
チグノの手から缶が落ちた。
その音でぼくは正気に戻った。
「‥‥‥ごめん」
どうしてそんな行動を起こしのかわからない。
雲に隠れていた月が、ぼんやりと周囲を照らした。
ぼくの心は月光と星空のコントラストだ。
数時間前までのチグノでは、ないけどチグノには変わ りない。
チグノは慌ててパッカー車に乗り込んだ。
チグノはキスしても抵抗しなかった。
手の届かない存在だったはずなのに‥‥‥
作業着とヘルメット姿になったチグノは身近に感じて しまいキスをした。
触れた唇にはまだ甘酸っぱい余韻が残る。
ほんとにキスしたんだーー
何度も唇を触る。
ステージと客席は近くて遠い。
握手会や写真撮影も人形のようだった。
今は一瞬にして事故のように触れた。
決して煌びやかなチグノではなく地味なチグノだ。
けどチグノには変わりはない。
ぼくの足元にチグノが忘れた空缶が転がっている。
ぼくを拾い、ゴミ置場に戻した。
ゴミ置場の扉も開けたままだ。
随分チグノの動揺が伺えた。
扉付近にスマホが落ちていた。
光のチグノに似合う華やかなケースだ。
これこそ見慣れたアプリーノのチグノだ。
なんだか分からないけど嬉しいよりホッとした。
キスがしたかったわけでもなかったのに。
クワーアー!クワーアー!
カラスがゴミ置場フェンスに止まっていた。
ぼくのあやふやな感情を笑うかのようにカラスが何度 も鳴いた。
カラスが鳴きやんだ瞬間にチグノのスマホが鳴ったが すぐに切れた。
今回も閲覧してくださりありがとうございます。
ふとしたキッカケで運命って変わることありますよね。
そんなふとしたキッカケがきたら、しっかり良い方向に向けてくださいね。
リョウスケも戸惑い、残された余命が、どのようになっていくのだろうか。
皆さまも、2人の展開がどうなるのか予想してみて下さいね。




