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神無月(炎愛)

チグノの強い意志にリョウスケは嫉妬していた。

そのため全てに八つ当たりをしていた。

次第に死が近づく自分と向き合いながら、チグノと向き合う気持ちが芽生える。

 視覚に華やかさが焦がすほど映りこむ。

 聴覚には耳奥まで音をつめこんできた。


 熱狂で帯ただしい空気層がライヴ会場を刺激する。


 熱気は体の中心部分の細胞までも呼び起こす。

 自然と鼓動の脈がリズムを奏でた。


 空間は音蓄の虜に飼いならされ、チームアプリーレが渦を 巻き額から潮が飛び散る。


 心地よい微酔は身体中にアドレナリンまで注ぎこみ準備O Kだ。


 アプリーレが登場した。

 ぼくは全身が飢えた野生動物のごとくペンライトを振り続 けた。


 最高だ! アプリーレライヴ。

 勝手にチグノを目が追いかけた。


 やっぱ生チグノは輝いていた。

 ぼくは腹に力を入れる。

 

 ステージに何度も声援を何度も送った。

 ぼくの存在を他の推しに埋もれないためだ。


 とどけぇーー! チグノにーー

 ぼくは月が隠れた夜空ではなく、月光で照らす推しになる んだ。


 ぼくは今まで泡のような20年間で生きてきた。


 今はチグノからパワーを吸収するのだ。


 リズミカルな音量は大波で鼓動までのみ込むんだ。


 『ここだよーーチグノ!』


 小刻みにレインボーペンライトをチグノのカラーグリーン に変えアピールした。


 ライトのスポットが縦横無尽に光が放つ。

 フナタさんからもらったアプリーレチケット。


 先日むしゃくしゃしてちぎってゴミ箱に捨てた。


 それを母ちゃんはセロテープでくっつけてテーブルに置い てくれていた。


 あれだけ罵声を浴び傷ついているはずなのに‥‥


 本来なら仕事をして母ちゃんを助けてあげなくてはならな い年齢だ。


 それができない親不幸なぼくだ。


 だから母ちゃんの思いも込めて、このライヴではじけける ことを決めた。


 舞い上がれの曲はハイテンションで全身がヒートアップす る。


 スポットライトに4人の汗が霧状に浮かび上がる。

 ステージ上の4人が前後左右で踊り歌う。


 場内はボルテージが最高潮で総立ちだ。

 ぼくも取り残されないようにチグノを後押しだ。


 同じ匂いを求め、もう完全な1つのワンチームだ。


 爆音で空間はハイテンションへと導かれた。

 興奮がマックスを超えた。


 自分が去る前に、まだ熱情なエネルギーが精魂尽きるまで 放った。


 昨夜まで死と言う殻に閉じこもっていたのが嘘みたいだ。


 日々、小動物のように身震いし、息だけかろうじてしてた ぼくだ。


 けどそれでは切れた電球のままで終わってしまう。


 ぼくはチグノを高速エレベーターのように一気に地上へ上 げるのだ。


 他には、もう考えない。


 ライヴのラストソングはドリームtomorrowだ。


 『今日失敗しても大丈夫。明日も描き続けるドリームのエ ネルギーになる。涙は空を見上げた時に、わたしの原石と なって降り注ぐよ』


 サビの部分を見ず知らずの隣りと肩を組んで歌っている。


 弾けていたファンは、ひとつに吸引された。


 最高だぁーー!

 やっぱアプリーレって!


 ありったけのエネルギーを振り絞ってチグノに手を振る。


 「ありがとうーーねぇ。みんな」


 アプリーレメンバーが手を振り返してくれた。


 手を振るチグノとぼくは目が合った。


 雪をとかす柔らかな太陽のように、見つめ屈託のない笑顔 だ。


 しかもチグノは両手でぼくに手を振り返してくれている。


 そのチグノの笑顔で、ぼくはやり切った。


 充足感で疲労感もない。


 たった1夜で、感情はジェットコースター並みの放物線を描 いた。


 「同じ死ぬなら笑って死ぬんだよ」


 ばあちゃんの一言が扉をたたいてくれた。


 闇の鎖に縛りつけられベッドで寝転ぶぼくに、魂刃を蘇え させてくれた。


 「リョウスケは、ずっとリョウスケだよ。母さんはあなた を産んで後悔なんてしてないよ」


 ばあちゃんが教えてくれた。

 母ちゃんが命がけで、ぼくを20年間見捨てずに育ててくれ た話しだ。


 「リョウスケ残りの人生を灰になるまで、生きるんだよ。 灰になったら好きな場所に飛んでいけばいいさぁ」


 戦争で、じいちゃんまで失ったばあちゃんには、怖いもの がない鉄心だ。


 その大切な、じいちゃんの遺族年金をぼくの生活に大半使 ってくれている。


 ばあちゃんも働けないぼくに、優しさの弾丸をいつも撃っ て守ってくれていた。


 ばあちゃんより先に終わるのは、不本意で悔しい。


 こんなぼくを卵が割れない力で大切に思ってくれるばあち ゃん。


 ぼくは、ばあちゃんの心声を聞えた。

 

 だから錆ついた魂刃を再び、切れ味鋭く闇を断ち切れたの だ。


 スポットライトは消え、余韻だけを残しステージは幕を閉 じた。


 熱狂した生暖かい空気層は退客するファンの記憶にインプ ットされた。


 今日はチェキやファンとの握手会がないライヴだ。

 けれど誰しも充足感に満たされて会場を後にした。


 ぼくの額にもうっすらと汗が浮かんでいた。

 会場内の熱気と外の温泉差は極端だった。


 仲秋は火照る身体を一気に平温に戻してくれた。


 今日は霜降だ。

 秋夜の夜風はライヴ後の寂しさを倍増させた。


 歩道に連なる木々の葉も橙色を過ぎ朱色だ。

 ぼくの命もこんな終演間近だと現実に戻される。


 媚薬が切れたように、ほてる体は秋風が冷やし熱までも奪 っていく。


 燃え尽きて足元が急にふらつく。

 ぼくは自宅の団地まで何とか、たどり着いた。


 団地入口のベンチに腰掛け、自販機で水分補給だ。

 

 自然と満足と寂しさの混じる息がこぼれた。

 時折、晩秋の香りを団地の隙間から秋風が吹いた。


 秋風は悪臭までも運んできた。

 団地群のゴミ置場からだ。


 LEDに照らされるゴミの山は小さな小山だ。


 臭いも強烈だ。

 悪臭が嗅覚にこびりつく。

 

 この中に、ぼくが出したゴミもある。

 

 星空の輝きにつられ膨らんでいたライヴ映像はしぼんだ。

 

 ぼくは星空の微光を背中に浴びながら、団地に向かった。


 ぼくの前を一台のパッカー車がゴミ置場で停車した。

 秋風は悪戯してぼくの足元にゴミを飛ばしてきた。


 髪をヘルメットの後ろで束ね、ほぼノーメイクの地味なチ グノが立っていた。

 


今回も閲覧していただきありがとうございます。

リョウスケは自分と向き合う決心をします。

そしてチグノと向き合います。

前向きな気持ちと行動することで物事は変わります。

今後リョウスケの周囲も騒がしくなっていきます。

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