第2章恋生は愛花へ 神無月(悔愛)
リョウスケは悩んだ末にコトミからもらったアプリーレライブに行く決心をした。
そのライブチケットはチグノと写真や数秒間会話ができる特典がついていた。
一緒に撮った写真の裏に公園で待ってるとチグノが書いていた。
リョウスケの胸中はモヤモヤ感と期待感で交差した。
橙色に紅と黄のコントラストを描く上空が恨めしい。
「あんたはいつもネガティブね」
「好きで産まれてきたわけじゃないよ」
ぼくは無気になって口を尖らせた。
不機嫌な声で、母ちゃんの肩がゆっくり上下に動いた。
「そうだね‥‥‥リョウスケをそんな体で産んでしまって」
母ちゃんの裁縫する指先がとまり、ため息するたび背中が 寂しいそうだ。
カーテンの隙間からモノトーン光で、母ちゃんが照らされ た。
このもやもやしたモノトーン光に包まれた母ちゃんは、最 近痩せた気がした。
最近ぼくは些細なことでイラッとしてしまう。
イラっとするたび、2週間前のあの場面が不意にフラッシ ュバックをする。
チグノと会った日だ。
取り戻せない速さで駆け抜けてしまった。
せっかくチグノが、もう1度会おうと声をかけてくれたの に‥‥‥
『わたし、アイドルになれるんなら何だってするわよ』
『なんだってするの?』先週チグノに言い返した。
意地悪な質問をして黙らせてしまった。
ぼくは馬鹿だ。
同じこと繰り返してる。
人を察する配慮と空気を読む力に欠けている。
せっかくチグノが声をかけて再び会えたのに‥‥‥
無神経な結果、気持ちを踏みにじり泡が溶けた。
チグノは地下アイドルから地上に上がりたい。
強くて真っ直ぐなチグノの瞳がぼくにはない。
その真っ直ぐさが怖かった。
臆病で傷つくことを恐れてきたぼくの代償だ。
チグノに頑張ってと前向きに言えない根性なしだ。
チグノはアイドル。
ぼくは絶滅一歩手前。
住む世界が違う。
目を開けられないほど輝いていた。
その輝きは、きっとメッキをはがそうと必死になった。
毎日不意に頭を過ぎる。
懺悔ばかりだ。
今も母ちゃんに同じことしてる。
山並みが紅く染め始めた時と同じ状況だ。
「ごめん」
わかっていても、のどを超えない。
きっと母ちゃんも傷ついているだろう。
親不幸者だ‥‥‥ぼくって。
「なんでリョウスケが、そんなに落ち込むのよ」
母ちゃんが下から顔をのぞきこんだ。
またぼくは、チグノとの過去で溺れていた。
「臓器移植もできるようになったじゃない」
母ちゃんの顔が妙に穏やかだ。
傷つけた母ちゃんの方が明るく振る舞って、話題を変えて 励ましてくれている。
「肺と心臓だけだよ」
そんなぼくは、やっぱ素直に答えられねーーし、態度も横 柄だ。
「リョウスケ。それだけ臓器提供できれは充分よ」
温かな母ちゃんの声は、ぼくを安心する方向に導いてくれ ている。
「母ちゃん‥‥‥」
ぼくがぼくじゃなくなる前に、父ちゃんに会いたい。
‥‥‥双子のリョウヘイにも。
「‥‥‥なんでもない」
ダメだ! これも、のどにへばりついてはなれない。
吐き出せない心の鉛は足まで自由に動かない。
まるで階段を上がるのも息切れする。
ため息に埋もれたベッドに横たわる。
このままポジティブまで体内からなくなりそうだ。
目の前にスマホに助けを求めた。
見るのを辞めようと決めていたチグノのTikTok LIVE。
指先が勝手にチグノを求めた。
「ハッピ、ハッピ!チグノだよ」
画面から笑顔で両手をふってくる。
重苦しいぼくの周辺は生き生きしたチグノの声で吹き飛ば してくれそうだ。
良心がぐっと胸の締め付けてきて苦しい。
『いままでありがとう』
素直に難産だった1言がぼくの中からこぼれ落ちた。
生まれたての『今までありがとう』をチグノに送信した。
また会いましょうね。
ライヴで待ってるね!
焚き火で芯まで心身が温められた温もりのようだ。
ため息で埋もれたベッドまで溶けていきそうだ。
チャットを見てチグノがすぐにピースポーズで応えてくれ た。
まだ気にとめてくれている。
文字が滲んで見づらい。
鼻水が落ちそうで吸い上げた。
ぼくはチグノのを推していたはずだ。
なのに裏切ってばかりだ。
手のひらに集まった罪悪感を握りしめる。
握力が弱くなり握った拳に力が入らない。
握り潰せないなら、隙間から砂のようにこぼれ落ちていけ ばいい。
心臓が停止する前にチグノと、もう1度話したい。
次第に手足が冷たくなる日が多い。
もっ、もう1度、もう1度だけ‥‥‥
チグノを笑わせたい。
今回も閲覧していただきありがとうございます。
久しぶりの投稿です。
少し間を空けてもう1度小説を見つめ直しかったのです。
これからも思うように書けなくて投稿できなかたら、迷ってると思って下さいね。
この先リョウスケとチグノもまだ、どうなるか未定。
多少心配だ(苦笑)




