帝と平凡な恋 第九話 魔術行使宗教
第九話です。
楽しげに買い物を続けていると人混みの中から悲鳴が上がった。
「なんだ?」
橙が少し警戒する。
それにならうように護衛たちは橙の周りを囲む。
「沙々、下がっていろ」
「橙さま、」
沙々は少し不安そうに言う。
「安心しろ。俺を誰だと思っている」
悲鳴が上がって少しすると、人混みが綺麗に端に寄る。
そして、その中から怪しげなローブを着た集団がやってくる。
コイツら…。
橙はこの集団が何の集団か瞬時に分かった。
「魔術行使宗教…」
魔術行使宗教。
巷を騒がせる、名前通りに魔術行使をすることを良しとする宗教であらゆる魔術を使い、無関係な人間に被害を与えることで有名な集団だった。
「この前、軍部の人数を増やせと打診してきたのはこの集団を討伐するためだったのか…」
そして、今回の標的は…
「俺か」
集団のボス格みたいなやつが近づいてくる。
護衛たちは臨戦態勢に入る。
「おい、お前が帝か?」
「そうだ」
橙は危険だと後ろに下がるように言われたがその忠告を無視して前に出る。
「ふっ、新しい魔術を直々に使ってやるんだから感謝しろよ」
恰幅の良い男は一目見ただけで強いと分かる。
「ずいぶんと上から目線だな」
「皇族なんざ、俺たちにゃ関係ねぇぞ。誰に対しても平等に魔術を使ってぶっ潰す」
早速、火の玉を放ってくる。
「橙さま!」
護衛が庇おうとして火傷を負ってしまう。
「大丈夫か?」
「橙さま、私のことより気をつけてください」
「もちろん、分かっている」
「油断するんじゃねーぞ、皇帝」
ボス格の後ろにいた部下たちも攻撃してくる。
護衛たちも負傷して、街はすぐに火の海になってしまう。
炎、水、風、光、音。
それぞれの攻撃にあった防御の仕方をしていたが、そろそろこちらも仕返しをした方がいいのかもしれない。
そこまで考えたところで、自分の目を疑った。
「沙々!!」
沙々が、火に包まれていた。
走って手を伸ばす。
「ガード!」
大きな声で叫ぶ。
だが、一歩遅かった。
炎の中で沙々の影が動いて見えた。
「そんな…」
絶望しているといきなり、熱風が浴びせられる。
反射的に顔を上げると沙々は手を横に広げていた。
「…さ、さ?」
「橙さま、間一髪でしたが教えていただいた魔法が使えました」
とっさの判断で自分の周りにガードを張ったらしい。
「よくやった。偉いぞ」
力一杯抱きしめる。
「ありがとうございます」
沙々を体から離すと街が破壊されて笑っているボス格の前に立つ。
俯いている橙を見てボス格は鼻で笑う。
「おう、どうだ?ビビって声も出せないか?」
橙は顔を上げると真剣な顔でボス格を見据えた。
「俺はお前らに負けるほど弱くない」
一気に間合いを詰めて直接炎を叩き込む。
普通なら、即死レベルの攻撃だがボスっぽいだけあって簡単には死なない。
「じっくりと可愛がってあげるから、精一杯防ぐのに努めることだな」
それから、激闘の末…魔術行使宗教は全滅した。
「橙、さま。あんな奴ら、手加減しなくていいのですよ」
昔からついてくれている護衛は痛めた腕を押さえながら近づいてくる。
「手加減ですか?」
新人の護衛は首を傾げる。
「俺さ、昔から保持魔力量が多くてコントロールができなかったから、つねに手加減をする必要があったんだ」
「あれで、手加減なんですか?」
新人護衛は驚いた様子を見せる。
それもそうだ。
じっくり痛めつけていたとは言え、ボス格とその部下たちは酷い有様になっていた。
「うん。瞬殺したら、今まで殺された人たちの恨みが晴れないだろ?」
「そ、そうですか」
引きつった顔をしている護衛は置いておいて、橙は周りの動ける護衛たちに民の応急処置をさせるよう指示をして、自分も動けない護衛の手当てに加わる。
すぐに近くの街から医官がやってきて本格的に治療を開始する。
「ふぅ」
ある程度片付けが終わった頃、橙は体の力が抜けて地面に座り込む。
「橙さま、大丈夫ですか?」
聞き慣れた声が聞こえてくる。
「その言葉、まんま返してやるよ。沙々」
そこには、顔にすり傷がたくさん入った沙々がいた。
「腕が折れてしまいました」
「帰ったらしばらく休め」
「はい」
沙々はさっき、橙に心底安心した様子で抱きしめられたことを思い出して少し恥ずかしくなる。
私は普通の侍女でそこに何の関係も生まれない。
そう言い聞かせた。
沙々は過去に色々あり、人に感情を見せることが苦手だった。
けど、橙のおかげで少し変われた自分がいた。
「橙さま、帰って落ち着いたらまた魔術のご指導をよろしくお願いします」
橙は、一瞬きょとんとしてふっと相好を崩した。
「俺がたくさん教えてやる」
そして、また日常がやってきた。
ありがとうございました。
また、よろしくお願いします。