帝と平凡な恋 第六十二話 不適な笑み
第六十二話です。
体が痺れてる。
梓晴の宮に行く前に橙は体の異変に気がついた。
橙は麻痺している自分の体を触る。
これも呪いの一種だろうか。
沙々に仕掛けてもらおう。
結構危険な行為だが、沙々なら大丈夫だ。
それで、沙々に平気を装ってテレパシアで用件を伝えた。
犯人は一体誰だ…。
「あの、腹の探り合いってそんな頼んでからすることじゃないですよ」
梓晴はとても正論を言ってくれる。
「分かってる。だけど、深く尋ねずにしてくれ」
シニカルな笑みを浮かべた橙を見て梓晴は仕方なく引き受けた。
「それじゃあ、まずは何の話をしますか?」
「んじゃ、俺から…最近調子はどうだ?」
「帝が来られないので妃としての仕事がございません」
梓晴は文句を言う。
せっかく妃になったと言うのに、仕事がなくて暇していた。
「それは、すまん」
橙は謝る。
他の妃のもとにも言っていなかったので親の高官たちが大爆発しそうだという話を聞いた。
「別に、忙しいのは秘書をしていたのでよく分かっていますから」
梓晴は優秀でよく分かっている。
「そういえば、沙々がこれをお前に渡しておいてほしいと言っていたな」
懐から綺麗な首飾りを取り出して梓晴に渡す。
「沙々さんが?どうして」
「なんか、お世話になったからって…俺にもよく分かんないけど」
自然に言ってのける橙。
「とりあえず、着けてみてくれ。報告しないと」
梓晴は首飾りを着けた。
濃い紅色の宝石が輝いて綺麗だった。
「似合ってるな」
「沙々さんにありがとうって言っておいてください」
首飾りを触りながら梓晴は言った。
「渡したいものも渡したし、話を戻すか。…んーと最近、恨まれることが多いんだよね」
「それは帝ですから」
「みんな、そう答える。だけど常軌を逸してる」
「常軌を逸することは帝の本分なのでは?」
「どんな、務めだよ?」
笑いが溢れてくる。
いつの間にか、以前のような雰囲気になっている。
「なぁ、梓晴」
「はい」
「お前、俺のことが好きか?」
照れることもなく真っ直ぐ聞く橙に梓晴は一瞬焦ったがすぐに答える。
「はい、好きです。一生涯好きな保証があります」
「なんか、その言い方だと重く聞こえるぞ」
「橙さまこそ、私のことはどう思っていますか?」
そんな風に聞かれると困る。
沙々が一番好きだ。
かと言って妃たちが嫌いではない。
「そうですよね。橙さまには沙々がいますからね」
「…」
橙は何も答えないし、答えれない。
「橙さまって無防備ですよね」
突然そんなことを言い出した梓晴。
「え…、どういう意味?」
「いえ、何でもないです。私橙さまのこと嫌いじゃないみたいです」
「…そ、それは良かった」
橙は内心何か心を読まれたような気がして、居心地が悪くなった。
「あの私、そろそろ良いですか?湯浴み、まだしてないんです」
「あ、あぁ。またな」
そう言って、橙は自分の宮に帰った。
そして、辺りに雷鳴が轟き始めたのだった。
ギリ時間を稼げた。
「俊朗さま…雑談しませんか?」
「え、良いけど…」
話だけで一晩持つか不安になったがそれしかない。
「私、後宮って来てみたら案外悪くないところだと思えたんです」
「どうして?」
「もともと居た所はもっと酷い所だったので…後宮って噂で聞いていたよりも良い場所だと思ったんです」
沙々は自分の過去の話などを話題にした。
暗い話ばかりだったが、俊朗は頷きながら聞いてくれた。
そんな感じで、途中眠くなりながらも話を続けて朝になった。
疲れた…。
一晩中、厠にも行く暇もなく俊朗の監視を続けていたので心身共に疲労がわだかまっていた。
「俊朗さま。私、厠に行って来ます」
「あぁ。どうぞ」
魔術で絶対に出られないように、それと攻撃もできないように魔力を封じる囲いを張り、厠に向かった。
『橙さま』
『おはよう』
『おはようございます。俊朗さまの監視が終わりました』
『ありがとう。あの間は一回も攻撃されなかった。それと、雷嫌いの梓晴もある意味封じていることになったから沙々には感謝だな』
つまり、雷嫌いな梓晴が雷に怯え始めるまで一緒にいたというわけだ。
そんなことする必要など、あったのだろうか。
それとも、単に話したかったのかもしれない。
『あの魔術だったら、橙さまでも出来たのでは?』
『今、実は体が痺れてるんだよ』
橙は隠していたが伝えることにした。
『それって、大丈夫ですか?』
『問題ない。普通に動いているように見えるくらいの無理はできる。まぁ、魔術を使うのには体力的にもだいぶ奪われているがな』
その呪いを別の者にかけさせたのならば二人のどちらかが犯人でもおかしくない。
『それで、橙さま…私が頼んだ仕掛けは済みましたか?』
『あぁ、もちろん』
『ありがとうございます。これで犯人が絞れますね』
『にしてものあの首飾り、作るの大変じゃなかったか?』
橙が訊ねてくる。
『いえ、魔力を固めただけのものなので。あの首飾りは私の特別製です。橙さまにも作って差し上げましょうか?』
冗談半分で沙々は提案してくれる。
『絶対に辞めろ。国が壊れる』
『そりゃそうですね』
その発言を聞いて橙は冗談も言えるようになったのかと嬉しくなった。
『沙々。今からが本番だ。心してかかれよ』
『主上の仰せのままに』
沙々と橙は不適な笑みを浮かべた。
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