帝と平凡な恋 第六十話 探偵役
第六十話になりました!
「探偵って本気ですか?」
「あぁ。お前なら魔術も使いこなせるし、信頼できる」
皇帝から信頼できると言われて嬉しくない者はいないんじゃないだろうか。
特に好きな相手から。
「スパイになってくれたらいいから」
「潜入捜査…少し楽しそうです」
沙々は整った顔に笑みを浮かべる。
「あ、それじゃあ…」
と龍布も何か役に立ちたそうだったが橙は「龍布は留守番だ」と言ったので悔しそうにしていた。
「良い結果を期待する」
「お任せください」
沙々は拱手で頭を下げた。
まず、犯人を炙り出すには周りから探らないと。
沙々は皇帝から特別な命を受けたということで、いつも結んでいる髪を下ろして、皇帝直属の侍女ではなく、普通のどこにでもいそうな女官の格好をした。
軍部にも女官はいる。
洗濯などをするのもその女官たちだ。
「此度は、軍部への出入りを許可してくださりありがとうございます」
軍部のお偉いさんに首を垂れた。
「皇帝の命とあれば仕方がない。それに、」
前に龍布に言った“何かあれば全ての責任を取る”という言葉。
「何でもない」
お偉いさんは渋い顔をする。
最近、皇帝がかなりの頻度で狙われていることは知っていた。
そして、まだ世継ぎは生まれてもない。
無事に生まれるか分からないのに今、皇帝に何かあれば皇族の血が途絶えてしまう。
それはかなり、まずい。
ということで、本格的に何かある前に責任を軽くするためにも沙々の出入りを許可した。
いわゆる保身のためである。
「それでは、私は仕事がありますので」
沙々はお偉いさんの部屋を出た。
「未然に防いでくれよ」
保身のためかそれとも、倫理的というものかお偉いさんはひとりごちた。
「ご機嫌よう。俊朗さま」
「んーと、誰だっけ?」
覚えていないらしい。
これは大変都合が良い。
「私、珠夜と申します」
「珠夜?」
聞いたことがないと言った顔をする。
そりゃそうだ。
今、考えた名前だ。
偽名をサクッと自然に決めれたのはかなり探偵として良いことなのではないだろうか。
「はい。今日からこちらで働かせてもらいます」
勝手に知らない女官が働いていると不自然なので、一応挨拶をしておく。
今からは、周りの人にしれっと俊朗のことについて尋ねる。
まずは軽い調子の武官に尋ねる。
「あの、俊朗さまって元々東国の長だとお聞きしたんですけど…」
「そうそう、なんか問題に関わったとかでその立場を返上したとかなんだって」
「そうなんですね。どんな問題なんですか?」
「それが、この前謎の軍勢が攻めてきてさ…その時、俺は実家に帰ってたから知らなかったんだけどその時の事件に関与していたらしい」
小声で教えてくれる武官に感謝しながら、他の情報も得ることにした。
「俊朗さまって方、なんか聞いたことがあるんですけど…」
今度は食事当番のおばさんに話を聞く。
「あぁ、それは有名だったからね。主上の昔馴染みとも聞いたよ。最近は、ここで書類整理をしているって聞いたねぇ」
「そうなんですね」
「小珠夜はここに来る前は何をしていたんだい?」
質問をされて一瞬、固まるがすぐに沙々は答えた。
「ここに来る前は主上の侍女をしていました。ですが、軍部の方が合っているかもしれないと言われてこちらに来ました」
「そうなのかい。すごいねぇ、侍女をしていたなんて」
素直に感心した様子のおばさんを見てホッと息を吐く。
「えへへ、それほどでもないです…」
照れた様子を見せる沙々は役者だった。
やはり、周囲からの情報は沙々が知っているくらいの情報だった。
そーなると、そろそろ俊朗本人に聞いてみるか。
「本っ当に沙々さんに危険な真似をさせてよろしかったのですか?」
「今更だ」
「それは、そうですけど」
横暴だなぁ、と思った。
女性にそんなことをさせるとは(しかも、好きな人に)何とも自分勝手だと思う。
だが、心配していないわけじゃないことは焦っている態度からすぐに分かる。
何かしないといけないが、何もできない。
「犯人は誰だよ」
「鎌をかけてみては?」
「…は?」
橙の反応から龍布は余計なことを言ったと思った。
でも、橙は怒っているとかそういう反応じゃなかった。
「その鎌はどうやってかける?」
「え、うーん。例えば、証拠を見つけたというハッタリを言って自白させるとか」
「なるほど」
ニヤリと微笑む橙は子供のようだった。
「俊朗さま。私、俊朗さまについてもっと知りたいです」
「はい?」
沙々は結構強硬手段をとっていた。
「興味があるんです。そんなに魅力があるのに目立たずに過ごす貴方に」
その名も色気脅し作戦だ。
色気を使って…あるとは思っていない沙々だが、それと同時になんらかの手段を使い脅す。
橙の前では絶対に見せられない代物である。
「え、えーと。それは…」
「私、知ってるの。貴方がしたこと全てを」
柄にもなさすぎる口調だが、今は是が非でも情報が欲しい。
「えーと」
元、皆を統べる者として分かりやすく動揺したりはしないが、一瞬の焦りを見つけることは橙のもとで働き始めてから上手くなった。
「ねぇ、私にくれない?貴方の全て」
目を細めて、舌舐めずりをして最大限の色気を使った作戦。
俊朗の体に体重を預けているので相手の気持ちがさらに分かる。
脈が早くて、汗をかいている。
動揺している証拠だ。
「ねぇ、もっと教えて」
吐息が耳朶をかすり俊朗の理性は限界に達していた。
そして、その時沙々が思ったのは…単純すぎるということだ。
露出もさせていないのに、見事に引っかかった。
「分かった。だけど、誰にも言うなよ」
「やった」
沙々は内心、シニカルな笑みを浮かべた。
「実は…俺、好きな人がいるんだ」
「…は、」
本当に何を言っているんだ、と沙々は硬直した。
意味不明すぎる。
「知ってるってそのことじゃないのか?」
「あー、はい」
疲労感を覚えた沙々は今すぐに橙に会いたくなった。
ありがとうございました!
事件の真相と犯人と好きな人とは?
次回もよろしくお願いします。




