帝と平凡な恋 第五十七話 勘違い
第五十七話です!
今、龍布が狙われている。
それが分かると橙は全力で龍布の元へと走る。
短い距離は瞬間移動よりも走った方が早い時もある。
それじゃ瞬間の意味はないが。
すぐに宮の中に入り、自分の部屋へと急いだ。
『龍布!聞こえるか!?』
『…』
アイツ、また寝てやがるな。
橙は我が秘書ながら呆れる。
ただ、今はそれどころではない。
唇を強く噛んで橙は龍布の無事を祈った。
今更だが、けっこう橙の宮は広い。
それに刺客対策として橙の部屋は入り口の門から一番離れたところにある。
ドンッとすごく大きな衝撃音がする。
龍布はその音で目が覚めた。
「なんだ!?」
体を起こすと、そこには沙々が片膝立ちをして壁に向かってバリアを張っていた。
「ようやく起きましたね。龍布さま」
沙々は珍しく龍布を睨んだ。
「何がどうしたんだ?」
「あなた、自分が囮をさせられている自覚がないんですか?呑気になるなんてありえません」
何が起きたかと言うとさかのぼること数分前。
沙々は囮となっている龍布が心配になった。
龍布の魔術の実力はどれほどのものか知らないが橙のあの様子からしてかなり高度な攻撃だ。
龍布が防げるのかと疑問に思った。
それで、橙の部屋に来てみたわけだが…そこではいびきをかいている龍布に遠距離魔力攻撃で狙った時に出る的の印が向けられていた。
沙々はとっさに前に出てバリアを張ってなんとか防いだわけだが、これが橙の秘書とはなんとも頼りない。
というか、護衛はどこに行ったのだろうか。
外にしかいなかったのだが。
「あ、ありがとうございました」
龍布は助けてもらったのでしっかりと礼を言う。
じゃなければ、今度はもう助けないと思っていたくらいだ。
正直、礼を言ってほしくて助けたわけではないが、それくらいしてもらわないと腹の虫が治らないと言うものだ。
命の恩人を前にして龍布は申し訳なさそうな顔をする。
「龍布さま。あなたは橙さまに支える者としての自覚がありますか?」
「どういうことですか?」
「橙さまの立場の話です。橙さまはいつどこで狙われているか分からないんですよ。なのに、こんなに油断しているということは、橙さまを殺すことと同じです」
今回ばかりはしっかりと釘を刺しておかないといけない。
なので、沙々は滅多にないくらいの低い声で言う。
「この件は報告します。まぁ、橙さまのことですのでまた、秘書として働かせてもらえると思いますが私は許しません。なので、この件が全て片付いたら私からお願いがあります」
もうこの場は、沙々の独壇場と化している。
なので、龍布はただ黙って聞くことしかできなかった。
「龍布!」
「橙さま!」
いきなり橙と外にいた護衛が扉から入ってくる。
龍布の姿をした橙が龍布と言ったので護衛は一度「え?」と呟いたが、気にしないでおく。
今は、そんなことを説明している暇はない。
「橙さま」
沙々は安堵の表情を見せる。
「どうしてここにいるんだ?沙々」
「龍布さまを助けに」
冷めた目線を龍布に送る。
「龍布を?もしかして、寝ているところに攻撃が飛んできた所を沙々がバリアを張って助けたのか?」
「橙さま。龍布さまのことをよくお分かりで」
沙々は首を縦に振りながら肯定する。
「お前、無防備にも程があるぞ」
「申し訳ありませんでした」
龍布は土下座をする。
「以後、気をつけるように」
そして、沙々も橙のことをよく分かっていた。
「沙々、本当にありがとう。龍布を助けてくれて」
「いえ」
それだけ答えると沙々は部屋を出て行った。
とても気が効く。
「さて、お前を怒るのはまた後にして今、ここはとても危険だ。それに、お前はもう動いてしまっている。まだ気絶していると言っても無理があるだろう」
「そうですね。本当にすいません」
「次は極刑だからな」
「もうしません!」
龍布は反省する。
本当に帝が言うことは冗談にならないので怖い。
でも、今回は完璧に龍布に非がある。
「とりあえず、逃げるぞ」
それからは安全な場所に(遠距離魔術攻撃をするならそんなところはないが)移動するまではちょっとした攻撃が飛んでくるくらいだったので龍布は自分の身は自分で守ってもらうことにした。
「さてと、やっと落ち着いた」
半径五メートルに強力なバリアをして休むことにした。
他の関係ない人に被害が出ないよう人気のないところに移動して来た。
床に座り込んで、橙は至極真面目な顔で龍布をみた。
すでに二人は元の姿に戻っている。
「犯人は…誰なんだ」
橙は顔をしかめて言う。
「ふりだしということですか?」
「あぁ。なんでこうなるんだろうな」
沙々は俺のことを厄介なことが尽きない奴だと思っていないだろうか。
それだけは絶っ対に嫌だ。
そんな不安を抱えながら橙は真犯人が誰か推理することにした。
ありがとうございました!




