帝と平凡な恋 第五十六話 香蘭の思惑
第五十六話です!
香蘭…犯人はあの宦官で間違いない。
橙は覚悟を決めた。
できるだけ、香蘭が犯人ということを認めたくはなかったのだが、証拠が残っているのでなんとも言えない。
「すべての犯人が朱江だと思い込んでいた」
朱江は魔力量拡大円形板を作っていた。
あの魔力量拡大円形板に魔力を通した時に出て来た紙。
あれが、指示書だったとしたら。
あの紙を書いた主犯がいることになる。
そして、香蘭は橙の母親の華青となんらかの繋がりがあった。
そして、華青のあの一言…
「…ふふっ、香蘭さまに“お仕事”よ」
それを思い出してつい呟いてしまった。
自分の声でそれをいうとなんとも気持ち悪くなる。
「仕事って、表向きにできる仕事じゃなさそうだよな」
裏の何か仕事…。
となると、華青も共犯の可能性が高くなる。
自分の親友も母親も共犯とは闇に包まれてるな。
「アイツがいそうな場所…」
梓晴に聞いてみるか。
この前も朱江の居場所知ってたし。
後宮に橙は行ってみる。
梓晴の宮について梓晴妃を呼んでもらう。
「久しいな。梓晴」
「今日はどうされたのですか?」
「いや、香蘭の居場所を知らないかと思ってな」
「香蘭さま…?」
梓晴は少し考えたあと、何か思い出したような顔をする。
「どうしたんだ?」
「香蘭さまは多分…橙さまの宮にいるんじゃないでしょうか」
「なんで分かる?」
「先ほどまで、こちらに来られていたので」
橙は梓晴をじっと見た後、微笑んだ。
「そうか。ありがとう…」
梓晴の宮を出た橙はテレパシアで軍部の信頼できる者に伝えたいことを伝える。
「そろそろ、本当の決着をつけないといけないようだな」
橙は自分の宮に帰った。
最近、周りに監視がたくさんいる気がする。
なぜだろうか。
香蘭は考えた…。
身に覚えがなさすぎて、逆に狙われているのではと思う。
そういえば、この前…橙の母親、華青からとある “仕事”の依頼を受けた。
それが関係しているとしたらとても迷惑な話である。
「何かしたっけ?」
香蘭は橙を訪ねることにした。
「香蘭が犯人だとすると…なぜこの宮に向かっているんだ?」
やっぱり、龍布の姿はなんとも不自然な感じしかしない。
「やっぱり、俺を直接狙って…」
龍布が心配だ。
橙は瞬間移動を使って宮へ急いだ。
「なんで、入れてくれないんだ?いつもは素通りなのに」
「橙さまより命を受けていますので」
門番はそう言って通してくれない。
「なんで、橙はそんな…」
「それは自分自身の行いを見直してからにしたらどうですか?」
「君は…」
香蘭は眉をひそめて龍布の姿の橙を見る。
「龍布くんかな?会ったことあったっけ?」
橙が香蘭に龍布の話をしていたのでなんとなく分かったみたいだ。
ちなみに龍布の顔もテレパシアで見せている。
「そんなことより、少し良いですか?」
橙は目を細めて容疑者、香蘭をじっと見た。
「それで、なんですか。俺は橙に用があるんだけど」
「どのような?」
「お前に言う必要ないだろ」
橙の姿をしていないのに宮に入れる許可を出すことは難しいので、宮の外の広場で話すことにした。
「面倒だから、単刀直入で言うけど…お前橙のことを攻撃しただろ」
「はぁ?」
香蘭はなんのことだと首を傾げる。
「だから、遠距離魔力攻撃で橙のことを攻撃しただろ」
「何を言ってるんだよ。俺は最近なぜか監視が多いから…」
「ふざけるな。とぼけるな」
鋭い目線を香蘭に注ぐ。
その視線に香蘭は思わずのけぞった。
「まず、朱江が主犯だと考えてしまっていた」
勝手に説明を始める橙に香蘭は意味がわからないと言う顔をした。
「それで、アイツを捕まえたがそれでも俺は狙われ続けた。もちろん、皇帝っていうのは恨まれてなんぼなので別の犯人という可能性もあるだろう。だが…」
香蘭がしたという証拠があること、朱江だけでこんな手の込んだ企てはできないことを話した。
いつのまにか(龍布の姿なのに)橙を他人として扱うのではなく、一人称が俺に変わってしまっていた。
「それで、証拠ってなんだ?」
一応聞いとく。全く身に覚えがないが。
「それは、華青に頼まれた“仕事”っていうのに関係する」
人差し指をピンと立てて目をスッと細めた。
「その仕事は、たぶん朱江の取り調べ」
その時に朱江と接触して、今後の流れを決めたと。
「たぶん…だろ。なんの確証にも至っていない」
「それは、お前のことを監視していた奴から聞いた。朱江に会っていたと。だけど、その詳細はバリアが張られていて近づけなかったらしい」
やっぱり、華青の仕事のせいで疑われているのか。
香蘭はため息をつく。
「それが証拠だ」
「推理するなら、もっと確実な証拠を突きつけてくんないかな」
「あるぞ。もっと確実な証拠を…」
橙は手のひらを広げてこの間、飛んできて残った槍を見せる。
「この槍、見覚えないか?」
「…ん、ん?」
じっと特殊な意匠の槍を見る。
この槍は…。
「俺の親父の槍だ」
香蘭の父は高官をしているのだが、その父が趣味でしている槍投げの槍だ。
それに魔術をかければ遠くまで飛ばすことも可能だろう。
「これが証拠」
「まいった…とでも言うと思ったか?」
香蘭は呆れ顔で橙を見る。
明らかに橙は動揺している。
「勝手に話を進められて、挙句疑われて…もう、なんの話だよ」
「いや、だから…狙われてる」
「狙われてるってこの前のことか?俺も本当に知らないって」
「いや、しらばっくれても…」
「その槍は俺の親父のだけど、だったら俺の親父が犯人って疑うのが筋のはずだ。それに最近は歳をとって来て親父も槍投げをやめたよ。だから、槍も処分した。槍の数が多かったから業者に頼んだの。だから、記録も残ってる!てか、お前橙だろ!」
正論をズバズバと言われて橙は引きつった顔をする。
「だから、俺じゃないし。それに華青さまに頼まれたのは、朱江の様子が気になったらしい。一応息子だろ」
「ん、んー。だったら、犯人は?」
「知らん」
怒ったようだ。
そりゃそうか。
濡れ衣だもんな。
橙は申し訳ない気持ちになる。
勝手にこれが正しいと思い込んでしまった。
「じゃあ、今…龍布は犯人に狙われている」
かすれ声で呟く。
「急いだ方がいいんじゃないか。まぁ、何があっても俺は知らん」
気がつけば橙は龍布のもとに走り出していた。
ありがとうございました!
真実はいかに?
次回もよろしくお願いします!




