帝と平凡な恋 第五十五話 沙々の問い
第五十五話です!
なんで、こうなってるんだろう…。
自問してみるが分からない。
今現在、橙は沙々に壁ドンされていた。
「橙さま。説明していただけますか?」
「…なんのことです?俺は橙ではなく龍布ですが」
慣れない声で喋ってみるとどうにも変な感じがする。
「いーえ。私見てましたし、聞いてましたもの。気絶をしたふりをして龍布さまと入れ替わったことを」
見て、聞かれていたのならば誤魔化すのはもう諦めるしかないか。
「そうだよ。今狙われているのは本当の姿の俺だからな。つまり今、龍布は見事に囮になっているわけだ」
「秘書をそんなにこき使ってはいけませんよ」
沙々は龍布に同情する。
今頃、いつ狙われるか怯えているだろう。
「大丈夫だって。アイツを囮にしているうちに俺が犯人を片付けるから」
さらっとすごいことを言ってくれる。
「ですが、それってかなり危険なんじゃ…」
「だから、こういう姿をしてるんだ」
橙は両手を大きく広げた。
確かにパッと見た感じでは、橙とは気づかないだろう。
「何も伝えていなかったのは悪かった」
橙は龍布の姿のまま沙々を抱きしめた。
「いえ、そんな全てを伝える義務なんてありませんから」
「だけど…」
続きを言う前に沙々は橙の唇に人差し指を当てる。
「私たちはまだ、お互いのことを包み隠さずに曝け出すほどの仲ではありません」
「それって…」
「でも、大好きです」
沙々は(龍布の姿の)橙に口付けをする。
橙は沙々の頭を優しく撫でて、沙々の小さい手をとって恋人繋ぎにする。
その手を顔の前まで持ってくる。
「なぁ、沙々」
「どうしました?」
「…この件が全部片付いたら、一つお願いを叶えて欲しい。そのお願いは後で言う」
「分かりました。それで、犯人が誰だか分かったんですね」
「あぁ」
静かにそう答えた。
橙…ごめんよ。
その人は橙に謝る。
信じていてくれたのに、裏切るような真似をして。
「だけど、仕方がないことなんだ」
その人の独白は辺りの空気に沈んでいった。
「お待たせ」橙は寝ているふりをしている龍布に声をかけた。
『…』何も返ってこない。
『もう、寝ているふりはしなくて良いぞ』
もしかして、本当に眠っているのか。
『おい、起きろ!』
『は、はい!!』
龍布が飛び起きるのが目に見えていたので、あらかじめ動きを固める魔法をかけていた。
『……あれ、動けないし、声も出ない!?』
『ようやく起きたか。なんで、狙われているのにそうやってすやすや気持ちよさそうに寝れるんだよ?』
謎すぎる…。
『それよりも橙さま。体調大丈夫ですか?』
『んー少しだるいかな。今は無理をして動いている感じかな』
正直、気絶して起きた後からの体調が芳しくない。
今も微熱があるような感覚が続いている。
『龍布。お前もう少し危機感持てよ。攻撃はいつもやってくるんだから』
橙は何もない壁に両手を両手を向けた。
「バリア…」
ドーンッという大きな音がした。
「防げたかな」
橙は壁の方に鋭い目線を向ける。
橙がバリアを張って壁を破る前に止めたらしい。
『な、な、何が!?』
体が固まって動けないようになっているので龍布は状況がよく把握できていないらしい。
『気にするな。それよりも護衛が来るだろうからじっとしてろ』
じっとするも何も、橙の魔術のせいで動けない。
「大丈夫ですか!?」
案の定、護衛たちが五人ほど部屋に入ってくる。
「大丈夫です。橙さまにも当たっていませんし」
「そうですか。龍布さんが防いでくれたのですね」
「はい。主人を守るのは秘書の務めでもありますから」
橙は微笑みながら護衛に言う。
「感謝いたします。それで、主上はまだ目覚められませんか?」
「はい。それと僕は少し、ここを外すので橙さまの護衛をよろしくお願いします」
橙は自分のことを、さま付けするのがなんとなく恥ずかしくなりながら護衛に頼む。
「御意!」
気合いのこもった護衛の声を聞きつつ、橙は犯人を捕まえるために部屋を出た。
「どうしたものか…」
橙は困ったな、と頭をかいた。
ありがとうございました。
また、次回もよろしくお願いします!




