帝と平凡な恋 第五十二話 気のせい
第五十二話です。
「嫌な予感…」
橙は扉に背中を預けながら呟いた。
「何か、関係あるのだろうか」
ひとりごちた瞬間視界が勢いよく揺れた。
「何が関係あるんですか?」
その声と共に橙からすれば押し戸の扉を引いた人物がいた。
橙は後ろに転倒してしまう。
「大丈夫ですか?」
真上を見ると橙の顔を覗いてる沙々がいた。
「いきなりなんだ?」
「すいません。寄りかかっていると思わなかったもので」
沙々が手を差し伸べてくれるのでその手を握って起き上がった。
「いや、扉に寄りかかっている方が悪かったよ」
「それで大丈夫ですか?」
「何が?」
「最近、橙さまの様子が変だな、と思いまして」
鋭いなぁ…。
「大丈夫だって。嫌な予感なんて皇帝という立場なら恨みの一つや二つ常に抱えてるんだから」
橙は乾いた笑いを零す。
その様子が何とも不自然で、余計に心配になる。
「…大丈夫。大丈夫だから」
自分に言い聞かせるように呟いた。
「…そうですか」
「考えすぎですって」
あははっと軽く笑い飛ばす、危機感がなさすぎる龍布を見て橙は呆れた。
「だけど、ここ最近俺の周りで明らかにおかしなことが起きてるんだよ」
「偶然ですって」
「皇帝たるもの何かあってからでは遅いだろう!」
橙はバンッと机に勢いよく両手を叩きつけた。
龍布は橙の気迫に気圧される。
これはまずい、と龍布はすぐに頭を下げた。
皇帝を怒らせたらとんでもないことになる。
「すいませんでした。私が不用心すぎました」
「…」
橙は龍布に背を向けた。
しまった…しまった、しまった、しまった。
龍布は頭を抱えた。
自分の軽い考えと態度のせいだ。
あれが偶然ではないとしたら…不穏なこと考えてしまう前に思考を放棄した。
「どうしよう…」
「どうしようはこっちのセリフだ!この間抜け野郎!」
橙が攻撃してくる。
氷の槍が龍布に向かって凄い速さで飛んでいく。
「お前みたいな短絡的な考えをしてる奴が最初に狙われるんだよ!」
「いや、僕はそんな恨みは買っていないですし」
「恨みってのは知らないうちに買ってるものなんだよ!」
龍布に迫りながら怒声を上げた。
気がつけば壁まで迫られていた。
逃げ場がない…。
「だから、よぉく覚えておけ。攻撃はいつ来るか分からないってことをな」
橙は鬼のような形相で拳を龍布の顔の前に作った。
威力がなさそうに見えてかなり痛い橙の突きを受けたらひとたまりもない。
「本当に、すいません、でした!もう、こんな、ことは言いません!」
言葉を区切りつつ土下座をして全力で謝る。
「…分かった。それじゃあ俺は、寝る!」
「え、えぇ」
「俺は今、寝たい気分なんだ!…それともお前のことを解雇してもいいんだぞ?」
この脅し皇帝が!
「じゃ」
ひらひらと手を振りながら橙は部屋を出た。
「…はーい、はい」
橙に聞こえないように小声で呟いた。
「はぁ…一応、軍部に行ってみるか」
仕方なく、龍布は軍部に行くことにした。
「嫌な予感を訴えているだぁ?」
そう悪態をつくのは軍部のお偉いさん。
そりゃそうか。
この間の朱江の処遇を決める会議の際も部下に抑えられるくらい暴れていた。
「はっ、そんなの気のせいに決まってら」
「まぁ、そうかもしれませんけど念には念を入れてですね…」
両手を顔の前に出して軍部高官の勢いを直接浴びないようにする。
「じゃあ、もし何かあるようなら、その全責任を俺が持ってやる」
笑いながら言う軍部高官のセリフを聞きながら龍布は嫌な予感が膨らんだ。
ありがとうございました!
また、よろしくお願いします。




