帝と平凡な恋 第五十話 蹴鞠
五十話目に突入しました。
橙たちの日常をご堪能ください!
蹴鞠…。
橙は中庭で蹴鞠を蹴る。
いつぶりかなぁ。
静かな朝。
体を温めるために久しぶりに見つけた蹴鞠を蹴っているのだが、なかなか良い。
「お腹すいたな」
まだ午前六時くらいでいつもの朝餉の時間よりもずいぶん早い。
誰か起きてるかな…。
ふわっと宙に浮き廊下を進む。
浮いた方が足が疲れなくて済むので好きなのだが、浮いていると龍布に叱られるので普段はしない。
保持魔力を使う機会が最近ないので、体が疲れやすい。
保持魔力はなさすぎてもありすぎても困る。
なので、扱いに困るのだ。
「誰も起きてないな」
侍女の一人や二人起きてると思ったが、今日が休みの日ということもあるからか物音がしない。
橙の国では週に一回ほど休みがある。
まぁ、皇帝に休みは関係ないと仕事三昧だが。
それで言うと護衛たちは年中無休二十四時間営業である。
大変だな…。
庭の隅で橙の様子を見ている護衛を見ながら思う。
「散歩にでも行くか」
蹴鞠を蹴りながら言う。
橙は遠距離攻撃魔法のことも忘れて散歩に出たのだった。
「後宮にでも行くか」
後宮の門の前に来る。
橙がいつも出入りしている北口ではなく普通に後宮に出入りする南口にまわってみる。
ここから入ることは滅多にない。
門に近づくと夜勤だった門番が出て来る。
「後宮にどのようなご用件ですか?」
まだ、薄暗いので橙の顔が見えないのか普通に尋ねてくる。
皇帝と分かっているならこんな質問しないだろう。
「俺だ。俺」
橙は顔が見えるように小さな火を出す。
すると、門番の顔が訝しげに歪んだ後、驚いた顔を晒す。
「申し訳ありませんでした。普段この門からは出入りされないとお聞きしましたもので」
拱手をしながら門番は言う。
「気にしなくて良い」
今は護衛は二人いて、遠目に見れば毎日数十人近い護衛といる時もある皇帝には見えないだろう。
「では、どうぞ」
「ありがとう」
門から入ると幅は十数メートルありそうな石畳の道がのびる。
この作りは先先代の皇帝の時代に作り替えられたものらしいが今となっては少し古臭い意匠である。
「いっそのこと全て作り替えてしまうか」
「あの、さすがにそれは…」
護衛が苦笑いを浮かべる。
もちろん冗談である。
そんな事をすれば、莫大なお金が動きそうだ。
「まだ寒いな」
植物たちが雪をかぶっている。
今の時期は椿だろうか。
「散歩って言ってもどこに行こうか」
「そこから右に曲がると九嬪の妃たちの宮が並ぶ区域ですね」
「あぁ。その逆が二十七世婦の宮がある」
この国の後宮は位ごとに宮のある場所がまとめられている。
なので正直覚えやすくて助かる。
「通り抜けできるし、一周してくるか」
後宮内は春になると花がたくさん咲き誇る。
道にも花がたくさん咲く。
「まだ、早いから妃の姿も見えないな」
「橙さま。朝餉の時間には戻れるようにした方が良いと思います」
「分かってるよ」
今日は龍布も休みにしているので面白い話し相手がいなくて少し寂しい。
後宮をぐるりとしたあたりでようやく人の喋り声が聞こえるようになってきた。
妃たちも外に出てきて、橙のことをうっとり見ている。
「そろそろ帰るか」
「そうですね」
帰ろうと身を翻した時、轟音が響いた。
「オールバリア」
橙がそう呟くと広場全体がバリアに覆われる。
普段使われるバリアの強度を高めたものである。
先ほどの轟音の正体は何かと思えばバリアにぶつかり砕けた馬車が地面に落ちた。
そこらへんの馬車に魔術をかけて飛ばしたのろう。
怖いな…。
幸い怪我人はいないが妃たちが怯えている。
そりゃそうだろう。
いきなり、空から馬車が降ってくるのだから。
(全然幻想的じゃない方で)
「また、追撃が来るかもしれない」
「その時は橙さまを守ります」
護衛が弓を構える。
「その前に主人にはバリアを張っていて欲しいね」
笑いながら護衛に助言する。
まだ、新人なのでどこか抜けている。
まぁ、それで主人を守れなければダメだが。
「し、失礼しました!」
「いいよ。俺の方が保持魔力余ってると思うし」
自分とついでに護衛二人にもバリアをかける。
「すいません。ありがとうございます」
護衛はすぐさまお礼を言う。
「ちょっとは遠慮して欲しいけどな」
苦笑しつつ、怯えている妃に近づく。
「大丈夫?」
「は、…はい、だ、だい、じょうぶ、…です」
大丈夫じゃなさそう…。
「おい、妃たちを保護して欲しい」
近くにいた宦官に橙は言う。
宦官たちは少し固まった後、すぐに行動する。
「御意」
宦官たちに妃を任せているうちに橙は馬車が飛んできた空を見る。
「これは早いうちにどうにかしないと本当に危ないな」
夜も眠れなくなってしまいそうだ。
護衛を増やすなどの対症療法じゃダメだ。
「根本的解決を急がねば」
橙は唇をギュッと噛んだ。
ありがとうございました。
また、よろしくお願いします!




