表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝と平凡な恋  作者: 沢本 桃吏
第三章
41/66

帝と平凡な恋 第四十一話 ゲシュタルト崩壊

第四十一話です。

好き、隙、すき…すき。


頭の中で“すき”がゲシュタルト崩壊している。



「あぁ、もう後宮なんて嫌!」

橙は頭をかき乱した。


「いきなり何を言うんですか?」

龍布がはぁっとため息をついた。



「毎日、妃と仕事、妃と仕事って…頭おかしくなりそう」

頭を押さえて唸る。




「周りからしたらこれ以上ないくらい幸せな生活してますけどね」


「周りの奴らに俺の苦労が分かるはずない」


妃のところに毎日通って“仕事”をするだけで良いなんて羨ましい。

だが、それ以外にも書類仕事もあるのは事実である。



「私が全て仕事を引き受けましょう、と言いたいところですが流石に無理がありますからね。よければ旅行にでも行って来てはどうですか?」


息抜きがてらにお忍び旅行でもして来たらいい。




「旅行…。どこに?」


甘えるような表情で龍布を見る。

皇帝あるまじき態度である。



「んー、南の方とかどうですか?東国は色々あって手配しづらいですし」



「南…じゃあそれで頼む」


お忍び旅行…面白そうだ。






「旅行…」


何か言いたげな顔をする沙々。

旅行なんて呑気な…、と思っていることだろう。




「うん、旅行だ」



「旅行…ですか」

渋い顔をする。


今は、橙の宮の庭で二人きりだ。


護衛は来なくて良いと言っておいたので来ないだろう。


もしかしたら、心配になって南の方まで来るかもしれない。

「南は観光できるところもたくさんあって良いからな」


「観光ですか…」

呆れ果てた顔をする沙々。



「ま、それ以外にも理由はあるけど…」

ボソリと呟く。


「どうかしました?」

聞こえていなかったらしい。



「いや、別に」


「そうですか…橙さま、髪切ったんですね」


昨日、肩近くまで伸びていた髪を切ってきていた。


「そうなんだよ。そろそろ短くしないと髪結んだりしないといけなくて面倒だったから。それよりも、行こうか。南へ!」



移動は馬車を用意すると言われたが、移動時間は短縮しても良いのではと思い、瞬間移動を使うことにした。



「よく、掴まっとけよ」


橙に言われるがまま橙の腕に掴まる。



「いざ、南へ!」



シュパッと移動した先にあったのは草原だった。

少し遠くに街が見える。


「移動失敗したな」


どうやら、街に直行したかったらしい。

距離が遠くなればなるほど成功率は低くなる。


後宮からこの南の街までは何百里もあるので逆にここまで近づけたのがすごい方だと思う。



「歩いていくことになるけど良いか?」


「はい」


そこまで街までの距離があるわけではない。

数十分もあれば余裕で着く。




「…沙々。すまない。俺が妃だ、妻だって勝手に言ったせいで色々と大変な思いをさせて…」


ずっと言いたかった。

自分勝手すぎる発言のせいで迷惑を被っているのは沙々だ。



「私は、嬉しかったです」


いきなり妃とか何を言うだ、とあの時は少し苛立ちはしたが、改めて謝ってくれたことも含めて嬉しい気持ちになった。



「橙さまは私が好きになったのですから、隠れ妃から普通の妃って思ってもらえるのは嬉しいことです」



「そっか」


子供っぽい笑顔を浮かべた。


「橙さまは綺麗な顔をしているのですから、笑っていた方がいいですよ」


そんな他愛もない話をしていると街に着いた。


紅色の提灯が街の通りを彩らせていた。


街では馬車が行き交っていて賑やかである。



「見たいものとかあるか?」

沙々の顔を覗いた。


橙は顔を知っている者に会って正体がバレないように変化の魔法で顔を見た目を変えていた。


側から見れば皇帝ではなく、どこにでもいそうな人である。


ただ、気になるのは庶民よりも高そうな漢服を着ていることである。



「特に私はありませんけど…」


「寄りたい店とかないのか?」


「ありませんけど」


「そうかぁ」

橙は頭を抱えた。


ここに来た理由でもあるもう一つの事を確認するためにも沙々と別れたいのだが無理そうだ。



「あの、沙々」


橙がそこまで言いかけたところで隣にいた人たちの話し声が聞こえてくる。



「隣の村の村長が最近保持魔力不足で村の魔力量が安定していないらしい」


「だから、最近魔力災害が増えていたのか」

一人がとても納得したような顔をする。



魔力災害…噂程度で聞いていた。

その手の管理は皇帝の仕事ではなく、自然管理部か魔力管理部の仕事である。



魔力災害。その名の通り自然の魔力によって引き起こされる災害だ。




村長は基本的にその魔力を安定させる必要がある。


後宮の魔力量も橙が定期的に安定させている。


その場合、自分の保持魔力を使用して調節するか、安定させる人の保持魔力量が少ない場合は魔力量拡大円形板を使って調節させることができる。




「…もしかして」


橙は顎に指を添える。


橙が南へ来たお忍び旅行とは別のもう一つの理由…



それは…


「ここが朱江が作った魔力量拡大円形板の行方」



そう、朱江が作った魔力量拡大円形板の行方が気になっていたのだった。



洞窟で作っていた時、橙が壊した魔力量拡大円形板以外にもたくさん作ってあった物が山積みになっていた。



「となると売っている可能性が高いと判断するのは当然だよな」


橙はひとりごちる。


沙々には聞こえていないようだ。


だが…あの洞窟のボロさ加減だと売っているっていうよも、無償で提供しているという方がしっくりくる。




「村に訪ねてみるか。…沙々、少し宿で待っててくれないか?」


宿は普通の宿で龍布たちはもう少し大きい部屋を用意すると言ったが普通の大きさの部屋を二つ用意してもらった。



「分かりました」


「絶対に夕方までには戻ってくるから」


沙々に手を振って隣の村まで走って向かった。



橙は自分が皇帝であることを忘れて、危険地帯にその身一つで乗り込んで行ったことを後悔したのは少し先の話だった。



ありがとうございました。

また、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ