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帝と平凡な恋  作者: 沢本 桃吏
第一章
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帝と平凡な恋 第四話 とんでもない事実

季節は冬から春になり、平和な日々が過ぎた。


「平和だなー」橙は空を仰いだ。


「だからと言って仕事はサボらないでくださいね」梓晴が新たな書類をどっさり持ってくる。



仕方なく橙は書類に一通り目を通して、不要なものは魔術で焼き払う。

それを繰り返した。



「よーし、終わった」

気がつくと外は薄暗くなり始めていた。



「お腹すいた。夕餉が食べたい」

橙はぐ〜となっているお腹を押さえた。

「一時間くらいしたらご飯ですよ」


「それじゃあ、ちょっと後宮に行ってくる」

橙は外套を羽織り、少し伸びた髪を結んだ。


「いってらっしゃいませ。お気をつけて」梓晴が柔らかく微笑む。「あぁ、行ってくる」




「お久しゅうございます。橙さま」

四夫人の一人、琉縷リュウルは優雅に頭を下げた。


「久しいな。すまないな、最近はなかなか来れてなかったからな」


「いいえ、お忙しい中ありがとうございます」

お淑やかで優しい琉縷は橙よりも年上である。


その貫禄と、綺麗な美貌に加えて教養、魔術、したたかさも一流で橙の一番のお気に入りだった。



「今日は何を飲まれますか?」「いや、今日はいらない。少し顔を見たかっただけだ。気持ちだけいただくよ」橙は長椅子に座り琉縷を観察する。



長い黒髪、長いまつ毛、薄い唇。

一見、前に来た時と変わらないように見えたが…


「お体の具合でも悪いのですか?」

つい、東宮時代の癖で敬語を使ってしまう。


「どうしてですか?」

琉縷はいらないと言ったが、茶を準備していた。

振り返ることなく言う。



「少し、気だるそうに見えたんだが」


「バレてしまいましたか」琉縷は可愛らしく下を出した。

こういうたまに見せるあどけなさがまた良い。



「実は…_____」






まだ、朝は肌寒い。

小鳥のさえずりが心地よかった。

「朝か」


橙は寝台から立ち上がり背伸びをした。


「桜の季節は良いねぇ」窓の外を見ると桜が満開に咲き誇っていた。


昨日は、とんでもない事実を聞かされて眠れなかった。



なので、橙はすごく寝不足だった。



「橙さま、酷いクマができてますよ」梓晴が心配そうな顔をする。


「眠くてたまらない」

「どうしたのですか?」


昨日の出来事を思い出す。





「実は…妊娠していました。…朱江さまの」

「は?」橙は驚き過ぎて口を半開きにしてしまう。



そもそも後宮は帝の子を作る所だ。


なので、後宮内に出入りする男は皆、宦官と言って去勢する必要がある。


だが、例外もいた。



この国の後宮では皇帝が直接、許可した場合のみ監視役を最低一人はつけて後宮内に立ち入ることができる。


そして、朱江というのは…




「なんで兄さま妃に、しかも四夫人に手ぇ出してんだよ」


梓晴がいなくなった部屋で独り言を言う。


橙は頭を抱えて唸る。


朱江は、橙の兄である。


この国は長子相続なのになぜ、橙が継いでいるかと言うと…



簡単に言うとその朱江という男が遊び人だからである。


帝にならば、それはもちろん妃と夜伽をするのは仕事なので間違っていない。


だが、朱江は妃だけではなく女官や下女などを皆、全員平等な目線で、手のひらで転がしていたのだった。


部下が諌めても悪びれることもなく、へらへらといつも笑っていた。


これはダメだと結局、橙が帝になったのだ。



そして一応皇族なので血筋的には問題はなく、まぁ多少の間違いがあっても大丈夫などの軽い考えで監視役なしで後宮に置いていた訳だが…


「四夫人に手を出していいとは言っていない」



「そもそも間違いだったんだ。あんな奴を後宮にそのまま置いておくなんて…」



だけど、帝になりたてのまだ幼かった橙が許可したことなので恨むにも、過去の自分を恨むしかない。


「悩みの種が増えてしまった」


橙は朱江の件をどうしようか考えながら魔術の練習に勤しむことにした。





「沙々、最近はどうだ?」

橙は、柔らかい笑みを湛えながら聞く。


沙々を応接間に呼び出していた。



「特に、変わりはありません」


相変わらず、平板な声で答える。


いつもこんなだ。


誰と居てもいつでも笑った所や感情を表に出したところを見たところがない。


「見てみたいな」

ボソリと呟いた橙。


「どうされました?」

隣にいた梓晴が尋ねてくるがなんでもないと言っておく。


「沙々、明日から俺のそばで働け」


橙はやけににっこりと満面の笑みを浮かべた。


ありがとうございました。

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