帝と平凡な恋 第三十話 とある少女の思い (番外編)
第三十話を迎えました。
私は、妃として後宮に入った。
位は低くて、容姿も普通より良いくらいで地味で目立たない。
まだ、幼い私は帝が部屋に来ることもなく毎日退屈な日々を送っていた。
そんな、ある日。
たった一人しかいない侍女を連れて後宮を散歩していると石に躓いて転んでしまった。
間抜けな姿を周りに見られた羞恥心で早く、その場を立ち去ろうとしたが足が痛くて歩けそうにない。
侍女があたふたしていると目の前に靴を履いた足が現れた。
ゆっくり顔を上げるとそこには男性がいた。
宦官かと一瞬思ったが、それにしては凛々しい男性だった。
見た目は少年だったが、その身に纏う雰囲気は貫禄があった。
宦官ではなさそうだ。
…ということは。
そこまで考えたところで少女は首を垂れた。
皇帝だ…。
「君は、二十七世婦の一人かな?お名前は?」
誰もが口を揃えて美形と言いそうな顔を持つ少年は優しく尋ねる。
「華華です」
「華華。足、大丈夫?」
「は、はい」
皇帝から心配されてしまった。
あぁ、周りの妃たちから何を言われるか…。
「大丈夫じゃないだろう?医官のところまで連れて行こうか」
皇帝のことは噂程度で聞いていた。
まだ、皇帝になりたての若くて子供っぽい。だけど、国で一番強い方だと。
「平気です。申し訳ありません」
歩いて立ち去ろうとしたが、体のバランスが崩れて倒れかける。
「大丈夫じゃないな」
ふわっと少女の体を抱き上げた。
「少し、眠っててね」
そう言って帝の橙は少女の額に手を添えた。
意識が戻り、視界が明るくなる。
「…うっ」
少女は体を起こした。
「ここは?」
「目が覚めたのですね!」
侍女が嬉しそうに言う。
「うん、あれ?ここまで誰が」
気がつけば自分の部屋まで戻っていた。
「橙さまです。周りの声が聞こえないようにと、華華さまのことを眠らせたようです」
「そうなんだ」
皇帝が…。
きっと皇帝も別の用事で後宮に来ただろうに迷惑をかけてしまったようだ。
「お礼は言えないよね」
「そうですね。家臣の方に言伝をすれば、いいのでは?」
名案だ!
「そうするわ」
ぱぁっと顔を明るくした。
あの時、皇帝に抱き抱えられた時に少女の中で退屈な日々が少しだけ変わった気がした。
「また、会いたいな」
少女は、柔らかく微笑んだ。
そして、しばらくした後に少女は九嬪の妃になれたと言う。
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