帝と平凡な恋 第二十三話 幼い頃の橙 (番外編)
第二十三話。
番外編です。
橙の幼い頃の話を書いてみました。
橙は小さい頃から宮の中で大切に育てられてきた。
毎日、外から聞こえてくる楽しそうな声に羨ましく思いながら勉強に励んでいた。
けど、橙も子供だ。
遊びたい時だってある。
そんなある日の橙の冒険の話である。
その日は珍しく、外に出ることができていた。
護衛は二人。
つまり、二人の目を盗むことができれば一人になれるということだ。
よしっ!!
「ねぇ、あっちに変な人がいるよ?」
「本当ですか?」
その言葉に反応する護衛たち。
もちろん、大嘘である。
「ほら、あの建物の裏に入って行った」
「…」
挟み撃ちにした方が早いのだが、橙を放っておくわけにもいかず、逡巡する。
「ぼく、大丈夫だから。はさみうちにした方が早いんでしょ?」
橙は自分の周りにバリアを張る。
「早くしないと逃げちゃうよ?」
「…絶対にここから動かないでくださいね」
そう言って二人は建物の裏に入っていく。
そして、一人になった橙はニヤリと幼い顔に悪い笑みを浮かべた。
自由だぁ!
手を広げて喜ぶ。
「今のうちに逃げないと」
素早く移動する。
しばらく行くと後宮の真ん中に出た。
派手な衣装を着た妃に宦官という人たち。
「広〜い」
橙にとっては一人で初めてこんな広い場所に出たのだ。
そして、周りは子供が一人でしかも男の子が一人で後宮を闊歩していることに驚いていた。
後宮にいるということは荷台などに紛れ込んで入ってきていない限りは、皇帝の子供ということだ。
橙は周りに顔を見せていないので知っているものが少ない。
噂のみで伝えられていたのだ。
ちなみにこの頃、朱江は十五になっており、すでに問題行動を起こしていて次期皇帝候補ではなくなっていた。
橙がキョロキョロと一人で歩いてること自体がまず問題なのだが、相手が相手だけにおいそれと話しかけることができずに困っていた。
「ねぇ、おにいさん。ここどこ?」
橙は近くにいた宦官に尋ねる。
「え、えっと〜」
着ている服が高級品ということで紛れ込んだ可能性は無いに等しかった。
なので、宦官は固まってしまう。
「あの失礼ですが、貴方は皇子でしょうか?」
「うん。侍女たちはそう言ってた」
宦官は頭を下げる。
「失礼いたしました」
周りの人たちも橙に向かって首を垂れる。
「ねぇ、ぼくお散歩しているんだ。案内してくれない?」
「御意」
宦官は皇子を勝手に案内することに忌避感を抱いたが、もしもここで言うことを聞かなかったと暴れてしまったら責任は自分にあることになってしまう。
なので、案内をすることにした。
「ぼく、いろんなとこ行きたいな」
「かしこまりました。まずは、庭園です」
桜が咲き誇る、庭園はしっかりと整備されて美しかった。
小川が流れてここだけ異世界に来たような気分になる。
「きれい」
「私もここはとてもお気に入りなのです」
「次は九嬪の妃たちの宮が集まるところです」
庭園を満喫して、次の場所に移動する。
美女たちが侍女を引き連れて歩いていた。
橙の方を見て、驚いた表情を晒していた。
だが、次の皇帝になるかもしれないと思うと失礼があってはならないと驚きを隠して微笑んでいた。
それを何とも不気味に感じてしまう橙であった。
すると、妃たちとは比べ物にならないくらい家臣を引き連れた人が通る。
「お父さま!」
橙は走って近寄る。
「ん?橙、何でこんなところにいるんだ?護衛はどうした?」
皇帝は不思議そうに聞く。
「えっと、いなくなっちゃったの」
しまったと橙は思った。
自分が護衛から逃げ出してきたことがバレてしまう。
そう思ったのだが…
「なんだと?橙を放っておいてどこへ行ったんだ?」
怒られるのは橙ではなく護衛たちだったのだ。
子供心にとても悪いことをしたと思った。
そして、橙の冒険は終わってしまい、護衛たちは鞭打ちの刑になったらしい。
橙は反省して、その後護衛たちに謝りに行った。
怒られるかと思ったが二人は優しくて笑って許してくれた。
今…
「橙さま!仕事をしてください!」
龍布が追いかけてくる。
「嫌だよ。そんなつまんないもの」
橙は元気に走り回っていた。
ありがとうございました。