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帝と平凡な恋  作者: 沢本 桃吏
第二章
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帝と平凡な恋 第十九話 謎の軍勢㊁

第十九話

戦場の状況をまとめると…


謎の軍勢は色とりどりの孔雀の模様の入った旗を掲げているらしい。


「孔雀?」


最近どこかで聞いたような。

なんかこういう何かが引っ掛かる感覚、最近多いな。




「はい。孔雀の意匠の旗を振ると、魔術がかかるようで回復してしまうそうです」

武官が説明する。


「なるほどな」



そして、過半数は再起不能に近い状態らしい。


困ったな…。



「どれだけ強いんだよ」



橙は頭を悩ませる。


「かなり上級者がいるみたいですね」

そして今、隣には沙々がいる。



なぜ、沙々がいるのかと言うと時は少しさかのぼる。





「それでは」


沙々が去って行こうとするので止めた。



「待って。ここにいてくれないか?」


「なぜでしょうか?」


沙々は不思議そうに聞いてくる。



「お前がいてくれたら、本気出せそうだ」




「え?」



という流れで沙々が隣にいた。




「強い武官はここに配置しよう」



「今はとりあえず、数が欲しいですね」


沙々にも意見して欲しいと言っていたので思っていることを言う。




地図を見ながら話し合う。


だが、時間はもうない。



出来るだけ早くしないと大変なことになる。




それこそ歴史に残る、国全体を巻き込む戦争が起きてしまう。



「これで、良いだろう。そして、俺も行く」



「それは、橙さま!?ダメですよ」


龍布が慌てて止めるが橙の気持ちは変わらない。




自分だけ安全圏で見守って、武官たちだけに危ない目に合わせて戦争が終わったら、はい終了っていう感じにはしたくない。



「いや、行く。絶対にだ」


護衛たちまで止めに入るが橙の方が圧倒的に強いでひょいっと軽く倒される。




「沙々、着いてきてくれるか?」



橙は沙々に手を差し伸べる。


「はい」



沙々は橙の手を取り、力強く握り返した。





「行こう」







戦場の様子は思ったより酷かった。



地面はドス黒い赤色に染まり、血の匂いがしていた。



動かなくなった人がゴロゴロと地面を埋め尽くしていた。


軍勢の指揮官みたいな人が孔雀の意匠が入った旗を振る。


すると、兵たちは回復してゾンビのようにまた攻撃をしてくる。



「…これは」


橙は絶句する。


立ち尽くすしかなかった。




戦争を甘く見過ぎていたのかもしれない。


気がついてしまった。


孔雀…最近どこかで聞いたなと思ってはいた。


だが、そこまで深く考えなかった。



孔雀の意匠の話をしたのは東国に行った時、橙の宮の改修工事の業者の人と話した時だ。



それに、まだヒントはたくさんあった。五日後…気になってはいた。


それも業者の到着日と同じだった。



「グルだったのか」


東国のこの謎の軍勢とあの業者。



昔、橙の曽祖父が国を納めていた時代に東国とのとある諍いが原因となって戦争が起きたことがあったらしい。


その戦争ではたくさんの人々が犠牲となった。




その時の、身内や親しい者を殺された恨みを代々語り継いでそして、恨んでいる者まだたくさんいるのだろう。


その集まりが今回の戦争を引き起こしたわけだ。



俯いて、立っている橙のもとに一人の救護隊が来る。


「被害状況は?」


「…死者数667人。怪我人が2960人です」


酷い…。


酷いという言葉だけで表すのはダメかもしれない。





「分かった」


橙はなんの感情も孕んでいない声を出す。



その異変に周りのものはすぐに気がつく。


だけど、それでも気がつくのが遅かった。


橙は宙を浮いて、ある程度周りを見渡せる高さまで来る。



「レッジェーロ」


ブワッとかろうじて動いていた者たちもまとめて魔術をかける。



「テレポート」



仲間の軍を安全なところへ移動させた。



橙の次の行動が読めた龍布は急いで橙の前に出ようとするがほんの少し、遅かった。



「ストロングフィアム」



両手を敵の兵へ向けた。


そして、あたり一体が火の海に包まれる。




「…地を焼き尽くせ」



その言葉で炎は勢いを増す。


「橙さま!橙さま!おやめください!!」


龍布の言葉は橙にとって雑音と同じように聞こえていた。



「地獄を味わうがいい。俺の仲間を傷つける奴らめ」



叫び声が聞こえる。



地獄絵図、本当に地獄のような景色だった。


「失せろ」


ニヤリと誰が見ても怖い笑みを浮かべた。


龍布の顔が青ざめる。



「沙々さん!!」


後ろにいた沙々の方を見る。


沙々も龍布と同じことを思っていたのか準備が整っていた。


髪を高く結んで、戦闘体制だった。




「橙さま!」


近づこうとしても熱くて橙に近づけない。


「やめてください。大丈夫です、私がいます」


優しく子供に語りかけるように落ち着いた声で言う。


「橙さま、私は橙さまの事を尊敬しています」


バリアを張ったまま近づいていく。



「私は…好きですよ。橙さま」


暖かい笑顔を浮かべて言った。




その言葉に分かりやすく反応を見せた橙。



「…す、き…?」

たどたどしい口調で話す。



「好き、です」


少し恥ずかしそうに言う沙々。




その途端、橙は急降下した。



急いで、沙々が受け止めようとするがその前に龍布が橙を抱き抱えて地上に降ろす。



どうやら気が抜けたようで眠っている。


大暴れした後の子供のようだ。




戦争は終わり、と誰もが思った。



「あれ、敵軍の人の数が半分くらい足りないような」


一人の武官がその事に気がついた。


「気のせいじゃない?」

他の武官が言う。


皆がそう思い、気を抜いてしまった頃…敵はやってきてしまう。




「やってしまえ!!」



男の声が響く。



そちらを見ると五千人近くいそうな軍勢がそこにいた。



気配を消していたのか…。




武官たちはすぐに反応するが数が足りない。


龍布も加勢する。




それでも形勢逆転には程遠い。




「沙々さん!お願いします!」


龍布が沙々に助けを求める。



「分かりました」


眠っている橙を見ながら答えた。




「いざとなったら…よろしくお願いします」



沙々は力強く歩いて行く。





「行きましょう」



それから、しばらく慟哭と叫び声が響き渡った。




「オールバリア」


沙々はとりあえず、救護隊の方にバリアをかける。




「グラススピア」


氷の槍を敵に向かって放った。



兵が何人も倒れるが、指揮官が旗を振りすぐに回復してしまう。



「どうしたら…」




攻撃しても回復する敵をどうやって倒したら…。



とりあえず、援護が来るでの時間稼ぎのためにも耐えないと。




「援護部隊が到着しました」



仲間の数が増えるだけでもありがたい。



「アニヒレーション」



この魔法は使用者の保持魔力の量に応じて強くなったり、弱くなったりする。



そして、援護で来た武官たちの半分くらいはまだ見習いなのだ。




それで、何が起きかと言うと…ご想像通りである。


力不足で武官たちは逆に攻撃を受けてしまう。




実践不足のまだ青い武官たち。




「まだ、アニヒレーションを使うのは早い気がします」


「同感だ。もう少し弱体化させてからじゃないと俺たちの強さでは敵わないだろう」


せめて、橙さまがいたら…と思うがその本人は寝ているのでどうしようもない。




「フレア!」


敵軍は血を吹き出しながら倒れても、少ししたら再度立ち向かってくる。



どれだけ強力な復活の魔術がかけられているんだ。




ただ、相手は人間。


もちろん、相手がこちらに怯めばこちらにも勝機はある。



時間をかければかけるほど体力は消耗しないものの気だけが滅入ってくるだろう。



そこに付け入ることができれば良いのだが。



それまで、こちらの軍の体力、気力が持つ気がしない。




「ならば、力尽くで抑えるしか」


沙々の声が聞こえると思ったらぶつぶつと呪文を唱えていた。



一体何をするんだ。



…長い、呪文?



「待て、沙々さん!」




長い呪文の正体は全てを呑み込み尽くす水、風、火の魔法だった。


「大丈夫です。皆さんに、被害は及びませんから」



そう、沙々は救護隊や仲間の兵たちにはバリアを張っていた。


そして、この魔術で一番の被害を受けるのは…放った本人だった。




「問題はそこではない!やめるんだ!」



「私の保持魔力はこの国でも上の方だと、橙さまはおっしゃられていました。だから、私なら倒すことができます」



淡々と言葉を紡いでいく。



「私は皆さんを守りたい。私は元々奴隷村で使い捨ての物のように働かされていました」



沙々は懐かしい話をしていく。




奴隷村で生まれた沙々は幼少期から劣悪な環境で大人たちと同じように働かされていた。


村にやってくるお偉いさんたちは奴隷たちの助けを無視して働かされ続けた。



それでも、村の人たちは暖かくて優しかった。



沙々も昔はよく感情を表に出していた。


あの時までは。




いきなりやってきた国で一番、偉い人。



その人は、粗相をしてしまった沙々の家族たちをまとめて処刑した。



沙々ともう一人の男の子は、なぜか分からないがその偉い人の同情の末、処刑を免れた。




それから、寂しさも忘れて時が経ち…そろそろ感情という物自体を忘れそうになっていた頃に後宮の女官選抜会が開かれるということを知った。




最初は、復讐ということも考えた。



だけど、後宮の暖かい環境に包まれていてそんなことは考えなくなった。


この人たちと一緒にいられることがどんなに幸せで恵まれていることか。



そのうち、感情という物を思い出してきた。


それも橙と周りの人たちのおかげだと思う。



「だから、私は…守りたいんです!」


ありがとうございました。

また、よろしくお願いします。

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