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帝と平凡な恋  作者: 沢本 桃吏
第一章
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帝と平凡な恋 第十二話 好き?

第十二話です。

妃たちの目線が…。



橙は後宮に来るたびこんな、キラキラと希望を込めた目線に見られていた。


ふぅ、まぁ、気にしなくていいか。



今日は、九嬪の妃のところに行かないといけない。


帝は政治的な判断で妃を選ばないといけない。


もちろん、求められれば夜伽もしないとならない。



嫌なのに…こんな立場。

自分に向いていないとつくづく思う。





菊蘭ジュェラン妃、久しぶり」


「お久しゅうございます、橙さま。わざわざお越しくださりありがとうございます」


菊蘭はふふっと小さく笑う。



「今日も変わらず綺麗だな」


菊蘭は後宮内でも一、二位を争う美人だ。


長い薄茶色の髪が特徴的で全体的にふんわりとしている。だが、知的な雰囲気がある人だ。



「ふふっ、ありがとうございます。橙さまも美しくて見惚れてしまいますわ」



親が、高官で後宮に来たばかりの頃はオドオドしていたが、後宮に慣れてきてだいぶ堂々としている。



橙が東宮の頃から妃として後宮にいたので接しやすい。



「今日は、お茶だけですか?」


「望むなら、どうぞ」


「そこは、押し倒す勢いで言ってもらわないと困りますわ」



冗談っぽく言いながら菊蘭は西洋のお茶と茶菓子を机に置く。



「そんな勇気は、ないです」


橙は目を逸らしながら言う。



「私が教えてあげましょうか」


妖艶な笑みを浮かべて顔を近づける。



「…え、っ」


「なんて、冗談です。ごめんなさい、あまりに初心だから悪戯をしたい気分になってしまって」



悪い意味でも後宮に慣れてきてしまったみたいだ。


「でも、やっぱり後宮で帝という立場にいるのなら、こういうことには慣れておいた方が良いと思います」


そっと、橙の唇に自分の唇を当てる。


「少しは、慣れているのかと思いましたが、まだまだですね」


勝ち誇った笑顔を見せる菊蘭。


そして、橙は分かりやすく顔を赤くしていた。



「私に似合う男性になってから挑戦はお受けいたしますわ」



「…今日はこれで」


橙は自分の未熟さに恥ずかしくなり部屋を出る。






「うぅ゛どうして、こうなるんだ」


橙は自分の部屋に帰ってすぐに毛布をかぶって唸っていた。


鼻で笑うような顔の菊蘭の顔を思い出して頭を抱える。



「“挑戦”か」


やっぱり、帝としてはまだまだ成長できていない。



耐性をつけないといけないのかもしれない。


「困ったな」


うぅっと唸っていると、いきなり部屋の外から声が響く。


驚きすぎて寝台から滑り落ちてしまった。


「失礼します」


「な、なんだ?」


声がうわずってしまう。


「入ってもよろしいでしょうか?」


この声は沙々か。

「あ、あぁ。いいぞ」



沙々が入ってくる。


そして、なぜか着ている服がしっとり濡れていた。



「申し訳ございません。このような姿で」

「別に構わない。手拭いはいるか?」



「はい」

手拭いを受け取った沙々は髪を軽く拭いた。


「それで、どうしてそんな格好してるんだ?」


「雨が降っておりまして、濡れてしまいました。それと、先程、琉縷妃のお父様が来られました。『早く、帝を出せ』と叫んでおられました」



「あぁ、琉縷の」

多分、帝以外の男に子を孕まされたことを知ったのだろう。


そりゃ、怒るか…。


「通してくれ」

「かしこまりました。それでは」


沙々は身を翻そうとして近くにあった棚にぶつかり倒れそうになってしまう。


危ない!


とっさに体が動き手を伸ばして、抱きすくめた。


そして、後はご想像通りである。



床に倒れた二人は沙々が上、橙が下になって顔がくっつきそうなほどに近づく。


「橙さま、離してくださいませんか?」


「…あ、あぁ。気をつけるんだぞ」



沙々の体を抱きすくめた時、思った以上にメリハリのある体をしていた。



服を厚着していて分からなかった。


いや、今はそこじゃなくて…。


橙は俗に言うむっつりすけべらしい。



「ありがとうございました。失礼しました」


沙々が去って行ったところで橙は深いため息をつく。



「こんなことで、ドキドキしてたらダメだよな」




琉縷の父親に会うために熱を持っている頬を手で仰いだ。





「どういうことですか?皇帝」


言葉遣い的には丁寧に聞こえなくもないが、態度は完全に不敬と言われても仕方ないものだった。



「こちらの管理不足でした」


もちろん琉縷にも非がある。


皇族とはいえ、皇帝になることはない人との不貞があれば、ただでは済まないことは分かっていたはずだ。



「謝るだけで済むと思っているのか?」


「おい、お前。これ以上の主上への不敬は許せない」


護衛が刀を抜く体勢を取る。


「チッ、権力に守られているからと言って調子に乗るな」


護衛が殺気を含んだ目で今にも殺しそうなので、橙が手で制す。



「私は琉縷妃にも非があると思います」


言いたくなかったのだが、あれだけ好き勝手言われれば、言ってもいいだろう。



「同意がないとそういう事も起きないでしょう?」



「…ん」


反論できないみたいなので、畳み掛けるように言う。



「なので、こちらばかり責められてもお門違いかと思いますよ」


にっこりと絵に描いたような笑顔を作って言った。


琉縷の父親は悔しそうな顔をする。



「今日はもう遅いですし、お帰りになられては?」



暗にさっさと帰れと言う。



「…それでは、また来ます」


「琉縷妃のことをあんまり責めないであげてください。妊婦に怒りの感情はよくありませんから」


「…」





そんなこんなで地獄の様な雰囲気の話し合いは終わり、橙は部屋でだら〜としていた。



こんな姿ばかりしているとだらしない帝と思われかねないのでたまには仕事をしようと思うが、今は特にやることもないので寝台に横になる。



「沙々、可愛いよなぁ」


無表情すぎて気づかなかったが結構、綺麗な顔をしている。


もちろん見た目だけじゃない。


中身も、透き通っていて綺麗だ。



「好き…なのか?」


分からない。


結論も出したくない。



出してしまったら、このままではいられないから。




ありがとうございました。

また、よろしくお願いします。

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