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帝と平凡な恋  作者: 沢本 桃吏
第一章
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帝と平凡な恋 第十話 恋するお茶会 (番外編)

今回の話は番外編に近い話を書きます。

「沙々、そっちのお掃除頼める?」


侍女仲間のシュェは温厚な性格で可愛らしい子だ。


沙々よりも年下だが、働き始めたのは雪の方が先なので先輩である。


「はい」


ほうきで掃いて、雑巾で拭く。

その繰り返しで、床を綺麗にしていく。



沙々は掃除が好きだ。

なので、掃除をすることは毎日のちょっとした楽しみでもあった。


「雪さん、掃除終わりました」


「早かったね」


「次は何をすれば良いですか?」

沙々は少しだけ目をキラキラさせつつ尋ねる。


新しい掃除の仕事が欲しいのだ。


「今日はもう終わり。休まないと、骨折も治ってないでしょ?」


雪は、にこっと柔らかい笑顔を作った。


あの事件から一週間が経とうとしていた。


あれから、何事もなく平穏で安全な日常を送れていた。




事件の後、橙は自分の侍女くらい守れるように強くなると言っていた。


十分強いと思うが鍛えるならとっさの判断力だろうか。



「沙々、ちょっと来てきて」


手招きされて隣の部屋に移動する。


隣は調理場になっていた。



「橙さまね、よく働いた者にはご褒美をくださるの。私も貰ったんだ。紅茶っていうの」


外国の文字が書いてある箱を取り出す。


沙々はやることがなくて窓の外を眺めていた。



良い香りがするとそちらを見ると雪がカップを両手に持って近づいてきた。



「はい、お待ち」

凸凹になっている机の上に湯気が立つカップを置く。


「美味しい」


口に含んだ瞬間、美味しさが溢れる。




「うん、美味しい」


「橙さまらしいですね。頑張った人へのご褒美」


「お菓子もあるよ〜」


雪は棚の上から洋菓子を持ってくる。




「人によってご褒美が違うんだ。私は食いしん坊だからかお菓子をもらったの。言ってないのに好みを知ってくれてるんだー」


「よく観察してるんですね」


二人は世間話をしながらお茶会をする。




「さぁて、本題でーす!」


一気にテンションが高くなる。


「ねぇ、沙々にも好きな人いるでしょ?」



やはり、若い娘が盛り上がる話題は恋愛話と相場が決まっているのだろうか。



「…いえ、そんな人はいません」


「嘘だぁ。いるでしょ?」


何か答えないと永遠と終わらない気がする。



「…恋、なのかは分からないですけど胸の辺りがモヤモヤとして変な感じはします」


胸に手を当てて言う。


それが恋でも妃じゃない。


そんな侍女が“皇帝”を好きになる資格なんてない。




「あらぁ、好きな人がいるの?」


後ろからぎゅっと誰かに抱きつかれる。


「やめてください。紅花ホンファさん」


紅花と呼ばれたのは橙の宮の下女である。


「さん付けはやめてくださいな。私は単なる下女ですよ〜」



下女、後宮の中で最底辺の身分だ。


そんな下女がなぜ普通に侍女たちと話せているのかと言うと…



「紅花さんって元々九嬪だったんですよね?」



紅花は元々四夫人の次の位の妃でそして、最底辺の下女になった。


「んー、まぁね。そうじゃなくてさ、小沙の好きな人のこと聞かせてよ。まさか、橙さまとか!」



「…」


沙々は沈黙で返した。


「橙さまなんだねぇ」


「私も尊敬してるよ。橙さまのこと」


雪と紅花は苦笑いを浮かべつつ言う。



「好き、なのかは分からないですけど…気になるといえば気になります」



沙々はよくよく観察しないと分からないくらいに頬を赤くした。



その反応を見て二人は顔見合わせて、笑った。




「応援するよ」


「いえ、そんな…」


「私も下女なりにサポートします!」


「いや、」


二人は沙々の骨折していない方の手を握る。


そして、二人の目は輝いていた。





「さてと、小沙。私たちが妃にさせることは出来ませんけど、橙さまが小沙のことを好きになればいいのです!」


紅花は目を輝かせながら話す。



「よし、それじゃあ任せてください」


そして沙々はしばらくの間、着せ替え人形にされていた。







暑い…。


灼熱の太陽が地面を照らす。


お偉方の前では肌の露出の多い服は避けられる。

なので、沙々は長袖の姿のまま仕事をしていた。



最後に水を飲んだのはいつだろうか…。



頭がくらくらして、倒れてしまいそうになる。

そこでいつの世もかっこいい憧れの人が現れる。


けど…


「大丈夫?」


倒れかけた体を支えたのは、一人の宦官だった。



「君、橙の…」


そこで意識がなくなってしまった。






目が覚めると、男の人が二人いた。


一人はよく見る橙で、もう一人はさっきの宦官だった。



「お前、いつの間に宦官に…」


哀れみの目線を宦官に向ける。


「人を哀れみの目で見るな!」


話し方からして、仲が良いようだ。



「それに、宦官って結構良いこともあるんだぞ」


宦官は宦官の良いところを伝え始める。



美人が近くで見れる。


綺麗な人の近くにいれる。


美人揃いで目の保養といわゆる、妃たちを近くで見れるのが良いところらしい。



「沙々が倒れそうになってたところを助けてくれたのはありがとう」


橙は宦官に頭を下げる。


宦官は皇帝にタメ口で話しても何も言われないのだろうか。


沙々は目を閉じながら盗み聞きをしていたが、そろそろ起きようと思った。



「俺と幼馴染のよしみでタメ口を許してるんだ。もっと、後宮でも堂々として良いのに。話によるとコソコソと雑用ばかりしているそうだな」



「あはは、宦官が堂々としていたら周りからどう見られることか…。妃たちを近くで見れるだけで幸せだよ」


この人、清々しいな。


話が面白くなってきたのでもうしばらく目を瞑ったままにしとくことにした。



「高官の子息なら、武官になれば良かったのに」


「いやぁ、宦官の人数が減ってきて困ってるって言われたら断れなくてさ…。それに、妃も見れるって言うから」


「妃、妃ってうるさいなお前」


「なんとでも言ってくれ」


なぜか自信満々な態度で胸を張っている。


面白そうな人だ。

沙々は漫才でも聞いているような気持ちになる。



「そろそろ、帰った方がいいんじゃないのか?お前の上司、怒ると怖いから」


橙の提案に宦官は引きつった顔をする。



「それもそうだな。またな、橙!」


「じゃあな。香蘭コウラン


香蘭という男は満面の笑顔のまま去って行った。



起きようとすると、その前に橙が近づいてきた。


そして、寝ている沙々の頭を柔らかく撫でると部屋を出て行ってしまった。



胸の鼓動が早くなってしまう。


「撫でるだけでこの威力…」



これが恋なのかはっきりしないまま、沙々はまた気を失ってしまった。




ありがとうございました。

また、よろしくお願いします。

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