帝と平凡な恋 第一話 帝の橙
素人ですので言葉遣いなどに誤りがあるかもしれません。ご了承ください。
「つまらない」
いつかの某国の帝の橙は頬杖をつきながらボソリと小声で呟いた。
それを聞き取った人がいた。
「つまらない、じゃありません。まったく帝という人がだらしないですよ。仕事をしてください」
呆れ顔の秘書が書類に目を通しつつ言う。
梓晴、秘書として有能な彼女は補佐としてとても良い人材である。
そして、顔がとても整っている。
高い鼻に綺麗な形の目、艶感のある薄い唇。
その顔だけでも神秘的なものを感じるのに、彼女が笑うだけで周りの者たちは固まってしまうらしい。
そんな彼女に求婚する者は数知れず。
まだ齢、二十歳で仕事に専念したいらしい。
モテる人が考えることは分からない、というのはいつの世も同じなのだろうか。
なんて、帝が言えることではないのだけど…。
橙は深いため息をつく。
「それは、そうだが…。父さんが亡くなってなければ、今も東宮でいられたのに」
思わず愚痴をこぼしてしまう。
橙の仕事をする手が止まった。
帝の仕事は、こういう書類系のものが多いが他にも大切な仕事がある。
それこそ、後宮が存在する理由である。
帝の世継ぎを作り、皇族を途絶えさせないことだ。
なので、妃のもとに通うという仕事もある。
そして、以前の皇帝…橙の父親は毒味役に毒を盛られ、亡くなった。
疑り深い父親が亡くなったことは信じられなかったが橙にはそれ以上に大変な役割が待っていたのだ。
帝という仕事…。
橙の父親が亡くなったことで橙が帝にと勝手にそう周りが決めてしまったのだ。
東宮だった橙は大人たちに言われるがままに皇帝になった。
皇帝の多忙な毎日は梓晴によってだいぶ普段が減っている。
「…すいませんでした」
酷なことを言ってしまったと申し訳なく思った梓晴は俯く。
「なんて暗い話はやめようか。仕事だ、仕事」
切り替えるように素早く、ペタンペタンと書類に押印を押す。
しっかり、内容を読んでからにして欲しい。
「…そ、そうですね。仕事を進めないと、終わりませんから」
梓晴も書類整理に集中する。
それから沈黙が流れて、気まずい空気になる。
その沈黙は橙によって破られた。
「あ、そういえば!今日は女官の選抜会があるんだったな。今年はどんな人が来るのかなぁ」
気まずい空気を変えるように橙は話題を変えた。
女官選抜会は一年を通してかなり注目される行事だった。
橙はニコッと笑う。
かなり、楽しみなようだ。
毎年、面白い人材が集まってくるので梓晴も少しだけ楽しみではあった。
去年は妃にも負けない美人が入ってきて、後宮に女官として入ってから妃たちから洗礼を受けていた。
「あの女官は今は九嬪になってるからな」
今年も、いろんな人が来るのだろうと思った。
そして、ごく稀に男が女装をして混じっている事もある。
まぁ、そこは置いておくとしよう。
「よし。それじゃあこっちもおめかしして行くとするか」
橙は不適な笑みを浮かべた。
「あ、橙さま。その前に仕事を片付けてください」
「嫌だね」
即答する。
「はい、どうぞ」
否応なしに梓晴は仕事の紙たちを押し付けた。
「うぅ゛」
毎日、青春を楽しむ暇もない若皇帝だったが、心の中でぶつぶつと文句を言っているとつい、口から零れてしまった言葉がある。
「はぁ、せめて美女に囲まれて仕事ができるなら…」
梓晴に鋭い目線で睨まれる。
「あはは、冗談だよ〜」
美女に囲まれて仕事をしたいなら、妃のところに行け、という目だ。
笑って誤魔化しとく。
そもそも、妃に囲まれすぎて美女に囲まれるのはこちらから願い下げである。
ただ、それでも美人は嫌いじゃない。
というか、普通に好きだ。
とりあえず、女官選抜会が楽しみだなと思った橙であった。
そして、この女官選抜会で橙の人生にかなり深く関わってくる人に出会うとはこの時は思ってもみなかった。
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