第三十五話 それから
「今日もみなさんこんダンジョン~。それでは今日も元気にダンジョン配信を始めていきましょう!」
:配信始まった!
:うーん、あの神回シリアス顔が嘘だったかのようなニコニコ笑顔。
:事後に真顔で嘘八百吐いてたことを告白してこれか。実は反省してねえな?
:一部界隈が嘘吐きだの詐欺師だのと噴き上がってたからな。まあ事実だが。
:裏事情オープンされたらそりゃ仕方ないになったけど。
「必要経費な嘘だったのでやむを得ないですね!」
:笑顔で開き直りやがって。
:面の皮が厚い。
:俺は結構ホッとしてる。あんな鬱寄りのシリアスたまにでいいんだよたまにで。
:もうすっかり平常運転だな~。
「そりゃそうですよ。いつもいつも額にしわ寄せて悩み事とかゴメンです」
:つまり黒鉄大和がシリアスな時は世界がヤバイ。俺覚えた。
:知りたくなかったが知る必要はあった。
:この文明社会が綱渡りすぎる事実から目を逸らしてたところを強制的に向き合わされた感がある。
「また変な風評被害が巻き起こっているような……おかしい。誰か助けて」
:そんな奴誰もいないぞ。
:みそPを呼べ。
:みそPが頼りになるわけがないだろいい加減にしろ。
:じゃあ恋華ちゃん!
:そういえばあの子もう退院したんだっけ?
:配信後にベルーガくんともどもオモイカネ系列の病院に緊急入院までは知ってる。
:もうちょっとアンテナ張ろうぜ。本人がD_lineで退院報告してたろ。
:SNSまでは管轄外です。
:ベルーガくん復活のニュースは素直に嬉しかった。
「んー、ちょっと話題がダンジョンから逸れますが恋華さんのこと知りたい感じです?」
:知りたい!
:需要しかないからもっと話してくれ。
:あれから情報があんまりないし心配なんだよ(後方腕組み兄貴面)
「OK。今日は話せる範囲で恋華さんについて話しましょうか。みんなが思う恋華さんの可愛いところとか」
:せやな!
:賛成!
:誰も不幸にならない優しい世界。
その瞬間大和の手首につけたウェアラブル端末がビビビ、と振動する。
画面を見れば禊からのメッセージ。
恋華「それだけはお止めください!!!! 恥ずかしさで死んでしまいます!!!!」
どうやら禊経由で恋華がストップを送って来たようだ。わざわざエクスクラメーションマークを4つも並べているあたり羞恥心に結構ダメージがいったらしい。
そしてどうやら続きがあるようで、中身を読んだ大和がふむと一つ頷く。
「……残念ですが本人からストップが入りましたのでこの話題は中止です」
:えー。
:えー。
:えー。
:というかこの中に潜んでるのかよ草。
「代わりに近況くらいなら話してよいとお墨付きをもらったのでそっちを話しますね。なにか知りたいこととかあります?」
:まず退院した後は? 冒険者活動をどうするのかとか決まってるの?
:大和君のパーティ加入?
:Lv.はちょっと足りないが恋華ちゃんならすぐ追い付くだろ。多分。
:というか加入させろ(迫真)
:もっと恋華ちゃんに構え(恋華推し過激派)
:責任を取るのだ(真顔)
「責任? 何のことか分かりませんが恋華さんなら暫く完全に別行動ですよ?」
:は???
:そこで首を傾げるな。
:釣った魚に餌をやらない男は死ぬべきだと思います(真顔)
「覚醒によるレベルアップが急激すぎて体と心がズレてるんですよね。バロンとの戦いは緊急時でしたが、落ち着いたらリハビリを始めるのが至極当然というか」
:お、おう……せやな。
:これは頷かざるを得ない。
:お気楽馬鹿話中に真面目な話題を振るな。対応に困る。
「星玄先生とアニマさんが退院を手ぐすね引いて待ってましたからねー。多分物凄くキツくて物凄く実入りのあるリハビリになると思います!」
:リハビリとは???
:笑顔で言うな鬼かお前は。
:一般的に言ってガチの冒険者トップ層に挟まれての修業はリハビリじゃなくて地獄って言うんじゃねえかな。
「一般的なリハビリじゃないですからね。覚醒で急激に上昇した位階とそれに見合わない技量や精神力のズレをアジャストさせる作業なので。見合う領域にまで叩き直すのはまあ自然の理というか」
:しみじみと語るな。
:冷静に考えて3カ月程度でLv.が倍以上上がったのは異常過ぎる。
:転生体って凄い。
:ちょっと羨ましい。
:なお前世の因縁という厄ネタ付き。
:やっぱ羨ましくなかった。
:とにかく急激なレベルアップで色々と歪みが出てくる訳か。
:恋華ちゃんガンバ!
:今から泣きそうです……。
:なんかいた。
「頑張ってください、恋華さん。応援しています!」
:はいっ!!!!!!!!! 頑張ります!!!!!!!!!
:目にも止まらぬ即レスぅ……。
:(チョロッ!?)
:匿名なのを忘れてお返事する恋華ちゃんバカワイイ。
:二人が納得しているみたいだしこの話題はもうよくない?
:パーティ加入も順調にリハビリ (?)しつつLv.を上げればその内話題に出るだろうし。
「それじゃ次の話題募集しま〜す。何でもいいですよ?」
:じゃあ質問。大和君は恋華ちゃんと付き合うの?
:話題変わって無くない?
:お前本人と衆人環視が見ている配信の中で真正面からそれぶっこむの?
:今ごろ羞恥心で悶えているであろう恋華ちゃん、プライスレス。
:性癖と倫理観が歪んでいる……。
「……………………付き合う?」
:お前は! お前で! 首を傾げるな!?
:冷静に考えてくださいね? 一般的に言って女性は白馬の王子様に憧れる傾向があるんですよ。
:あの不幸のどん底にいた恋華ちゃんに手を差し伸べたのは誰?
:最後まであの子を信じ続けたのは?
:あのニタニタ笑顔の害獣を地獄に叩き込んだのは?
「僕……ですかね?」
:ですだよ。
:ちょっと男気が過ぎる。
:むしろ男でも惚れる。
:これをただの善意で済ませるのは逆に人の心がない。
「あの時は大分バロンへの私怨が籠っていたので……。恋華さんのためなんて恥ずかしくて言えないというか」
:(それ結局恋華ちゃんのために怒ってたんじゃ……いやよそう俺の勝手な予想で皆を混乱させたくない)
:正直あの害獣にキレる気持ちは分かる。とても分かる。
:ガタガタ震えて最後を待つ畜生の顔、控えめに言って最高だったな!
:黒鉄大和ガチ切れという実績を解除して逝った害獣。
:マジで惜しくないし心底腹が立つのであの最後は胸がスッとした。
「ですよね! 力余ってダンジョンごとやっちゃいましたけど正直全く後悔してないです!」
:まあその代償にお前はとんでもないモノを盗んでしまった訳だが。
:とっつぁん、それは一体……!?
:彼女の心だよ!
:もういい機会だから恋華ちゃんと付き合ってしまえ。
:せやせや。
:お相手が恋華ちゃんかはさておき青春の一つも謳歌して欲しい(後方保護者面)
「付き合う……うーん。実感がない」
:腕組んで首傾げる程悩むことか?
:もしやこやつ男女交際という概念を理解していないのでは?
:HAHAHA。いくら大和君でもそんなこと……あるかな?
「失敬な。お付き合いってあれですよね? 一緒に学校へ行って放課後は一緒に寄り道したり休日にデートしたり若さに任せて青春が暴走するんですよね?」
:うーん、清くはないが極めて正しい男女交際の図。
:典型的すぎて捻りがない。やりなおし。
:なに求めてるんだよ大喜利やってるんじゃないんだぞ。
「もう大分学校は行ってないし行っても浮きそうだしそもそも休日って何すればいいんでしたっけ? 家では大体寝たり次の配信のネタを練ってるんですけど」
:わァ……あ(涙)
:(大和君が不憫すぎて)泣いちゃった!
:ワーカーホリックが過ぎる。
:ウキウキ恋愛話からブラック労働に話題が飛ぶとはこの節穴をもってして見抜けなかった。
:ダメだこいつこのままじゃ一生ダンジョン暮らしだ。
:一番問題なのは大和君を酷使しないと迷宮災害を押し留められない日本の現状なんですけどね。
:まず本人を取り巻く環境がクソという事実。
「まー仕方ないですよ。現状これが最適解になっちゃってますし。なのでみんなもダンジョンに行きましょうね?」
:ほんっとさぁ……こいつさぁ……。
:笑顔が痛々しい……。本人に嘘偽りがないのが余計にキツい。
:セルフブラックを課してる輩を矯正するのがこんなに大変だったとは。
:メンタルもそうだがまずブラック環境を改善しなきゃ(使命感)
:クッッッッッソ面倒くさいけどこの後ダンジョン行ってくるわ。面倒くさいけど。
:仕方ない、付き合うぜ。
:俺も俺も。
:ったりぃ……まぁ行くけど。
「え、なんですか一体。みんな急にやる気になって気持ち悪い。何かキッカケでもありましたっけ?」
:まさかお前からその台詞が出るとは驚きだよ。
:不思議そうな顔しやがって。このクソボケニブチンショタがよぉ……。
:羞恥プレイがお望みで?
:……まああの配信は色んな意味でインパクトあったからね。
「? 配信?」
:おま……おま……。
:え。これ俺らが自分で言わなきゃダメ?
:ここまで言ってるんだから察してよお願いだから(懇願)
:俺らにも羞恥心というモノがあってですね……。
「超能力者じゃないんだから言われなきゃ分かりませんよ。さあ」
:さあじゃないよ。
:このクソボケニブチンショタは直接言わないと伝わらないんだ。恥ずかしいだろうが仕方ないんだ。
:仕方ねぇ。みんな、覚悟を決めろ!
:恥を覚悟で言ったるわ!
「お? 心の準備はOKですか? さあどうぞ!」
:人類最強にもどうにもならないことがあるって分かったからだよ。
:何もできないからって何もしないのはキツい。それだけ。
:あの時歯を食い縛って堪えてた誰かさんの力になるためだ言わせんな恥ずかしい。
――その後の配信模様を多くは語るまい。ただ、黒鉄大和のらしからぬ姿を見たともっぱらの評判になったのは確かである。




