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第三十二話 善と悪


 †《コンボ:聖義咆哮》†


 視界を真っ白に塗り潰す悍ましい光の奔流が恋華を襲う。その威力は控えめに言って滅殺の域。Lv.50に達した恋華すら消し飛ばして余りある大火力だ。


「その一手、読んでいました!」


 †《黒の寡婦》†《黒の左手》†《黒魔術(中級》†《属性権限:闇》†《魔銃:黒雛改》†《殉死の黒炎》†


 だがいきなりの強襲を恋華は予想していた。事前の戦闘チャートの作成と連携。これもギルメン達からのバックアップの一つ。

 左手に構えるは一対の双銃が片割れ、銃身をメタリックブラックにコーティングされた魔銃・黒雛改。魔女(ランダ)が振るう左手()の魔術を最大限引き出すべく仙道蛇狐が腕を振るったセミオーダー・フルカスタム。

 対となる右の魔銃は何故か恋華にもその機能を知らされないまま、腰のホルスターでくすんだ黒の銃身を眠らせている。


 †《コンボ:紅煉華》†


 銃の形をした魔法の杖によって増幅・収束された煉獄の炎をその銃口で狙いを定め、迫りくる白の砲撃へ真っ向から撃ち放つ!

 黒と白がぶつかり合い、しばしの間拮抗した。

 だが徐々に黒が白へと塗り潰されていく。恋華が弱いのではなく、バロンが強すぎる。つい先日、大和と相対した時より恐らく一回り以上Lv.が上がっている。


(強い。黒雛のブースト付きなのに、このままじゃ撃ち負ける……!)


 恋華の感覚は正しい。装備で地力の差を埋める腹積もりだったが、両者に思った以上の差がありすぎた。あと数秒もしない内に予見した未来が訪れるだろう。

 故に、


「――ベルーガさんっ!」


 †《眷属契約:オルトロス》†


「ガアアアァァァッ!」


 契約者(恋華)の器に霊体を潜ませた強大なる双頭犬が魔力を凝らせて顕現。今こそ戦いの時と咆哮をあげる。

 一人で足りぬならさらに一つを足して迎撃に臨む。もとより地力の差は覚悟の上。不足があれば他所から持ってくればいいという力業!

 バロンにはけして真似できない、仲間(パーティ)という力だ。


 †《双頭犬》†《双つ首》†《魔女の愛し子》†《属性権限:闇》†《殉死の黒炎》†


 双つの頭それぞれに業火が宿る。《魔女の愛し子》で主からの魔力を最大限受け取り、さらに属性権限で威力をブースト。

 そして特筆すべきはその地力(Lv.)

 恋華の眷属となったオルトロス(ベルーガ)はその覚醒に同調することLv.45にも達した。明らかに(イビツ)な成長。だがこの一戦に限ればその”力”が頼もしい。


 †《コンボ:双頭煉華》†


 双つの首から漆黒のファイアブレスが豪快に吐き出される。主より賜りし黒き炎が《紅煉華》と合わさり、より強大なる”黒”と化す!


 (ゴウ)、と。


 白光と黒炎が互いを喰らい合い……白が黒を塗り潰す。魔女(Lv.50)が、双頭犬(Lv.45)が絞り出した最大火力をバロンの必殺が上回った。

 だがその勢いは大きく弱まった。


「その程度なら!」


 †《魔装:黒羽》†


 黒のマントをその身に巻き付け、恋華が防御態勢を取る。

 《魔装:黒羽》。大和が纏う一点もの(黒翼)の量産品とでも言うべき高級装備。その最大の売りは強力な防御性能と耐性の付け替え。今は当然光属性に対する耐性を付与している。形態こそ違うがベルーガも同種の耐性装備を身に纏っている。

 その恩恵を最大限に生かし、光の奔流に飲み込まれた恋華達は小さくないダメージを受けながらもなんとか凌ぎ切った。


(生き延びた……バロン、思った以上に強い!)


 この攻防で驚くべきは恋華とベルーガの全力をも上から圧し潰したバロンの底力。正直想定より一段上をいっている。

 ランダの覚醒が進んだことで引きずられるように《世界の敵(ワールドエネミー)》としての格も上がったのだろうが、果たしていまそのLv.はいかほどか……?


『よしっ、データ抜いた。表示するね』


 電子音声の主……三人目の仲間、霞ミル (ハイエンドモデル)がバロンのデータを表示した。彼女もまた恋華のもとに集った力の一つであり、仲間だ。


 【基礎データ】

 種族:バロン

 位階:6()8()

 【スキル】

 《世界の敵》

 《白の聖獣》

 《善悪均衡》

 《森の王》

 《奉納の舞踏》

 《執着》

 【耐性】

 耐性:光、木、火、土、金、水、物理

 弱点:闇


 恋華(ランダ)の覚醒が進んだことでバロンのステージも上がったのだ。スキルはほぼ変わらずともLv.が大きく上昇している。

 今のバロンは単独で大都市を壊滅させ、《サバイバーズ・ギルド》が本気でかからねばならない超抜級の災害へと成長していた。


:Lv.68……68!?

:冒険者トップクラスどころじゃねえ、大和君でもなきゃもう勝てんぞ!?

:剣城師匠や英国のサー・グランドクロスならいい勝負ができそうだが……。

:おい、いい加減加勢しろヤバイぞ!


「……この一戦、僕は手を出せません。言ってませんでしたっけ?」


:言ってねえわ!

:は??? もう一度言うぞ。は???

:なんだその縛りプレイ舐めてんのか!?


「大真面目です。手が出せるなら最初から全部僕がやっている」


 恐ろしく生真面目な……いや、冷ややかな調子の大和に視聴者達も今日の配信がどこか違うと気付く。

 端的に言えば、黒鉄大和に余裕がない。腕を組み、油断なく戦闘を見つめながら、その視線には焦りがある。いつもと違うその姿に視聴者達も気付き、戸惑い始めていた。


:……なんだそりゃ。訳が分からん。

:ふざけんな馬鹿言ってる場合か! さっさとやれよ!

:理由があるんだろ。それくらいは分かる。


「…………」


 喧々諤々のコメントを黙殺した大和が不動を貫く中、戦闘は当然続いている。


 †《黒の寡婦》†《黒魔術 (中級)》†《属性権限:闇》†《黒闇の繭》


 恋華を中心に闇属性に染まった魔力が波打つように広がっていく。

 地下世界に揺蕩う闇が深まる。洞窟を照らす光が陰る。ねっとりと深い闇が薄暗い地下世界をさらなる闇に沈めていく。

 この地下空洞を決戦場に選んだのは恋華がここを戦場とした経験があるからではない。地下世界……日が差さず、太陽の力が最も弱まる空間へと誘い込むため。太陽を司る聖獣(バロン)の力を弱めるためだ。


「シャアアァァッ!!」


 バロンが威嚇の声を上げ、弱体化(デバフ)の波動に抗う。光の魔力を総身から発散し、粘つくような闇を振り払わんとした。


 †《奉納の舞踏》†


 それだけではない。次の応手も早く、的確だった。

 ()()()()()()と不思議なリズムで頭を揺らしながらステップを踏む。舞踏であり神事であるバロン・ダンスを執り行うことで自身の力を高める一手とする。


「バフとデバフの打ち消しあい……とりあえずは±0。だけど油断はできないか」


 互いに一手消費しつつ、恋華側のターンはまだ終わっていない。


「ベルーガさん、前衛を!」

「バウッ!!」

『OK、プランAだね!』


 恋華は一人ではない。パーティなのだ。


 【基礎データ】

 種族:オルトロス(ベルーガ)

 位階:45

 【スキル】

 《双頭犬》

 《雄牛の守り手》

 《天性》

 《魔女の愛し仔》

 《眷属契約:紅恋華》

 《耐性獲得:光》※装備依存。

 《狩猟術 (初級)》

 【耐性】

 耐性:闇、土

 弱点:光※装備により耐性獲得。


 これがいまのベルーガのデータだ。黒妖犬だった頃とはまさに雲泥の差、進化と呼ぶべき成長を遂げたが相手はバロン。()()Lv.45では地力に二回り以上の差がある。パワーインフレにも程があるが、それが無慈悲な現実だった。


「グゥルゥアアアアアアアアァァァッ――!!」

「シャアアアアアアアアアアァァァッ――!!」


 それでもベルーガは全く怯まずに真っ向からバロンへ飛びかかる。挑まれた聖獣も上等だとばかりに正面から迎え撃った。

 小さな家ほどもある巨体のベルーガにバロンも負けていない。むしろ体躯で劣れど内在する暴力は上回っている。


 †《双頭犬》†《双つ首》†《喰い千切る》†

 †《白の聖獣》†《怪力》†《大爪撃》†


 巨獣と巨獣の肉弾戦。獣が爪牙を武器としてぶつかり合い……地力に劣るベルーガが屈する。双つの首から繰り出される噛みつきを物ともせず、バロンが振るう剛爪がベルーガの脇腹を切り裂いた。


「ガ、アアアァッ!」


 痛撃を受けながらベルーガが踏み止まり、吼える。彼の背中に主がいる。まだ戦える、なら下がる道理はないと。


「シャアァッ――――ギャンッ!」


 弱ったベルーガへの追撃を狙うバロンが一歩を踏み出す――その鼻先に、黒炎の魔弾が叩きこまれる!

 油断したバロンが顔面にまともに食らい、黒の炎が轟々と燃え盛った。地力の差があれど弱点属性だ。致命傷には程遠くともダメージを蓄積させ、バロンの足を留めさせるのに十二分。


『ほら、回復ポーション!』

「はいっ、ベルーガさん!」


 腰元のポーチから取り出した最高級品のポーション瓶をベルーガ目掛けて投擲。瓶が割れ、降り注いだ治癒の秘薬の効能でベルーガの胸元に着いた傷跡が瞬く間に癒されていく。

 少量でありながら高い薬効。一瓶で三桁万円が吹っ飛ぶオモイカネ製の最高級品を恋華が惜しみなく使っていく。直接助力できないギルメン達が提供した心尽くしであり、大きな助けとなっていた。

 プランA。ベルーガが前衛でバロンを留め、後衛の恋華が痛打を与えるスタンダードな戦術(プラン)は今のところ上手く嵌まっていた。


「まずは形になったか、な……」


 大和が配信を忘れて独り言を呟く。視聴者達も矢継ぎ早に一手が繰り出される()()()真剣勝負に見入った。

 視聴者達は長らく大和のエンタメ配信に慣れすぎ、少しずつダンジョンの恐ろしさを忘れていた。そう。ダンジョンとは、モンスターとは……本来恐ろしい脅威(モノ)なのだ。

 だがだからこそ視聴者達の視線を捕らえて離さない、火花のような煌めきが目の前の戦いにあった。


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