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7話

マリアは読んでいた本の最後のページを読み終えると、ゆっくりと裏表紙を閉じ、顔を上げる。


向かい側にゼフィサスが座って本を読んでいる事を今の今まで忘れており、少しだけ戸惑った。

ゼフィサスがどんな本を読んでいるのか、興味がわき本の背表紙を盗み見る。

マリアにはその本に見覚えがあった。

最近読んだ医療魔法の本だ。

専門書と言うよりも入門書に近く、素人でもわかりやすく書かれていて、マリアにも読みやすかった。


マリアが本の内容を記憶中から手繰り寄せていると、本から目を離したゼフィサスとバッチリと目があい、気まずくてエヘヘと笑って誤魔化した。


「読み終わった?」

「はい」

「もう、帰る?」

「うーん」


マリアは壁にかけてある時計を確認する。

閉室時間まではまだ時間があるが、本を読みこむには足りないだろう。


「課題しようかな」


マリアはローラの誘いを断ったため、早めに寮へと戻るのは時間がもったいないような気がした。

鞄から今日出されている課題を取り出す。

ゼフィサスはそのまま手にしている本へと視線を戻した。


マリアは算術の授業で出された課題を、解けるところから解いていく。

しかし、後半になればなるほど解けない問題が出てきて、ペンが動かない時間の方が増えてきた。

それと同時に集中力も途切れてきた。


(明日朝イチでローラに教えてもらうかな)


マリアは分からない問題にしつこく縋りつくタイプではない。

頼れるものは頼るタイプだ・・・課題に対しては。


そのままボーッとしていると、向かい側に座っていたゼフィサスが椅子から立ち上がる。


(本読み終わったのかな?)


本を返しに行くのだろうと思ったマリアは、窓から外を眺めだした。

課題をすると言った手前、行き詰まりさぼっているのを悟らせない様にと一応ノートへと顔を向けていた。

ここで、やっと遠くを見る事ができ、ちょっとした気分転換だ。


外を眺めていると、横の席に人が座ってきた。

そこまで、人が多くない図書館。

席もそれなりに空いているのにまさか誰かが隣に座るとは思わず、横目でチラリと確認する。

流石に不届きな事を考えている奴が同じ学園内に居るとは考えたくないが、居ないとも限らない。

マリアは少し距離をとるように見れば、先ほどまで向かい側の席に居た、ゼフィサスがただ隣へと移動してきたようであった。


「課題、見せて」


グイッと顔がマリアに近づいて来て、マリアは驚いた。

ノートを覗き込むためなのはわかっているが、あまりの近さに心臓が爆ぜそうになる。

流石、顔面凶器。

マリアは顔を離してもらうために、ノートをゼフィサスの方へとスライドさせる。

すると少しだけ、顔が離れてくれた。

ゼフィサスはノートを数秒だけ見るとマリアのペンケースからペンを一本取り出し、サラサラと何かを書き始める。

ノートの端の方に綺麗な字で、見たことのある公式が書かれている。


「これを先に使って、次にこれ。ここまで来ればわかる?」

「た、多分」


マリアはノートを返してもらい、ゼフィサスの視線に晒されながらも先程まで苦戦していた問いを解いていく。

少しばかり、緊張はしていたがゼフィサスのアシストでどうにか解けた。


ゼフィサスが優秀だと言う話は有名だが、教えるのも得意らしい。

そのまま、他にもわからない問題にヒントをくれて閉室時間ギリギリに課題が終了した。


マリアもゼフィサスも先程まで読んでいた本を棚へと戻しに行って、図書委員の迷惑にならぬ様に慌てて図書室から退散した。


「ギリギリになってすみません」

「・・・予定ないから」


そっけなく、大丈夫だと言われてマリアから笑みが溢れ落ちる。


「私はこのまま寮へ帰りますけど、先輩はどうしますか?」

「俺も帰る」


そのまま、なぜか2人で寮へと帰る事となりゆっくりとしたペースで歩いていく。

学園でそれなりに有名な先輩と下校している事態に、マリアは戸惑うばかりだ。

学園から寮までそこまで距離は無い。

だが、無言のまま歩き続けるには少々長い距離である。

そして、すれ違う人々の視線も余計に気になる。


ゼフィサスから喋る事は無いだろうと、どうにかマリアは会話の糸口を探る。

当たり障りのない天気の話や体調の話をするが「あぁ、そうだな」の返しだけで会話が続く事はない。

マリアは話す内容を考えていると、図書館で謝罪はしたがお礼を言っていない事に気づいた。


「あ、図書館では助けてもらってありがとうございました。」

「課題くらい・・・」

「あ、じゃなくて本棚の所で。バレたら気まずかったので助かりました」

「あんなところに盛りのついた猫がいてビビった。しかも2匹・・・」

「盛りの・・・ぷっ!」


まさか、ゼフィサスからそんな単語か出てくるとは思わず、マリアは思わず噴き出した。

しかも、今までで一番長く声を聞いたような気がする。


「まともな人間はあの場所は選ばない」

「たしかに・・・。あと・・・先輩は医療魔法に興味があるんですか?読んでた本、私も前に読んだことがあります」

「あの本は最近知り合ったのが興味あるみたい・・・」

「先輩じゃなかったんですね~。先輩にも医療系に興味ある友達とかいるんですね!」


急に打ち解けたように会話が続くようになってきて、それがうれしくてマリアはつい本音が口からでてしまう。


「俺にもって・・・失礼じゃない?」


ジロリと見下ろされ、少しだけゼフィサスが苛ついているようにマリアは感じた。


「そうですか?すみません。意外だなと思っただけです!悪意はありません!信じてください!」


怒らせたのかもしれないと、マリアが必死で言い繕っていると、ゼフィサスの雰囲気がふわりと柔らかい物に変化した。

その筋張った腕が伸びてきてクシャリと頭を撫で付けた。


「わかってる」


髪をガシガシとされ、ボサボサになった髪型をみてゼフィサスは意地悪な笑みを浮かべた。


「仕返し、な」

「もう!先輩、遊ばないでください!」


マリアはボサボサになった髪を手櫛で梳かして、ゼフィサスを怒ったぞ!と睨みつける。

ただ、その表情は威嚇する小動物のようで怖さよりも、愛らしさの方が優っていた。


「遊んではない。・・・さっさと帰ろ」


そう言うとゼフィサスは急に歩くペースを上げた。


「あ、ちょ!待ってください」


2人は頭ひとつと半分程違う身長差だ。

先程まではマリアの歩幅に合わせてくれていたのだろう。


ペースアップしたゼフィサスは早足のようでマリアは小走りで追いかけるのがやっとのペースである。

どうにかマリアが横に並べば、ゼフィサスは再びペース落としてくれた。


(優しいのか意地悪なのか・・・)


会話をしていれ周囲の視線もそこまでは気にならない。

マリアはそのまま寮まで、ゼフィサスはマリアのペースに合わせて歩いてくれた。

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