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4話

文通相手に返事を出して以降、マリアは自分用のレターボックスに手紙が来ていないか、日に何度も確認するのが習慣づいていた。


1週間、待てど暮せど手紙の返事は届かない。


『もう1日待って届かなければ、返事を期待するのを辞めよう・・・」


そう何度も思うが、やはり次の日にも届かなければ、もう1日待って・・・の繰り返しで、諦めきれない。

1年間、憧れ続けてやっと現れた文通相手である。


文通は義務では無い。

ただの出会いのきっかけだ。

しかし、そのきっかけで知りあう事にマリアは憧れていて、運命を感じてみたいのだ。

顔も名前も知らぬ相手を少しずつ知り、相手のことを妄想する。

そして、初めて会う時の緊張感と高揚する気持ち。

その時のことを想像するだけで、心はときめき楽しみで仕方ない。


本日2回目の確認に緊張が走る。

レターボックスの中には、白くて簡素な封筒が一通だけ入っていた。

宛名には名前ではなく、1-2047とだけ書かれており文通相手からの返事であることはすぐにわかった。


マリアはその手紙を手に取ると、喜びが込み上げてきて無意識のうちに手に力が入ってしまった。

手紙にクシャリと皺がよってしまい、慌てて手の力を抜いた。

自室に戻ってから封筒を開けて中の確認をしようと考えていると、手にあったはずの手紙が急に消えてしまった。


「え!?」


落としたのかと慌てて床を確認するがそれらしきものは落ちていない。

その代わりアルフレッドが目に入って来る。

赤茶色の髪をかき上げながら壁によりかかり何か、紙を持ち読み込んでいる。

先程までマリアが見ていた封筒と酷似しており、慌ててアルフレッドへと詰め寄った。


「アルフ!それ私のでしょ?」

「そーだけど?」

「何で勝手に開封したの!?」

「いやらしい事でも書かれてたら、お子ちゃまマリちゃんには危険だと思ったから。善意で読んでやってるわけ」


アルフレッドの意味不明な言い分に、マリアは手紙へと手を伸ばすが、手紙を高く上げられ身長の差でわずかに届かない。

取り返すために仕方なく、アルフレッドの足を踏もうと足を振り下ろせば、予見していたようにアルフレッドは足を引っ込めた。


「あんまり暴力的だと、嫌われるよ。あと、無理に奪おうとして手紙が破れても俺はしらねーからな」

「奪ったのはあんたでしょ!」

「親切心から、な?あー、でも残念。当たり障りない事しか書かれてない。ま、変な相手ならさっさと切れよ」


アルフレッドは手紙をマリアに手渡し、そのまま男子寮の入り口へとエントランスから消えていった。

戻された手紙を見て、マリアはとても悲しくなった。

心待ちにしていて、とても楽しみにしていたのにこんなに雑に扱われて、しかもマリアよりも先に関係ないアルフレッド()に読まれてしまい、怒りも同時に湧き上がる。


マリアはその怒りをぶつけるべき相手が消えてしまった事で、その感情を発散するタイミングを逃し、持て余していた。

くしゃくしゃになった手紙はこれ以上、皺にならないようにカバンからノートを取り出してそれに挟みしまい込んだ。


「・・・頭を冷やして部屋でゆっくり読も」


マリアは深呼吸を繰り返し、どうにか怒りを抑える。


「あ、図書委員の人」


図書委員の人・・・。

寮のエントランスのため、知り合いに出くわす事も珍しくはない。

図書委員は数十名いるが、この場にマリア以外の図書委員が居れば流石にマリアにもわかるだろう。

で・・・あるならば、その声の主が指している‘‘図書委員の人‘‘はマリアの事だろう。


だが、マリアの事を図書委員と呼ぶ友人はいない。


恐る恐るマリアは後ろを振り返ると、見覚えのあるイケメンがそこには立っていた。


「あー・・・こんにちは」


マリアは適当に笑顔を作り、頭を下げる。

図書室でしかほぼ見かけない、アンニュイなイケメンのゼフィサスがその場に立っていた。


無表情で気だるげなのはいつものことだが、今日はキチンと上まで閉められたシャツにタイもしっかりと締められており、ついその部分を注視してしまった。


「なんかイライラしてるね」


声をかけられるのだけでも驚愕なのに、今のマリアの気分を当てられ、思わず動揺してしまう。


「知り合と・・・ちょっと・・・」


喧嘩ではない。

マリアはアルフレッドの理不尽で一方的な行動に対して怒っているのだ。


「ふーん」


ゼフィサスから声をかけてきたのに、あまり興味は無さそうで明後日の方向を向いている。


話しが途切れ困ったマリアは、こちらを向いていない事を良いことに目の前のイケメンをまじまじと観察して、目の保養をさせてもらう。


下校時刻のため、ほとんどの生徒は鞄を手にしているのに、ゼフィサスは手ぶらだ。


鞄を持っているのも、ゼフィサスには不釣り合いなのでこれが通常状態なのかもしれない。


などとマリアが考えているとゼフィサスの視線が再びマリアの方を向き、今度はゼフィサスがマリア凝視してきた。

しばらく見られた後に、ゼフィサスが再び口を開く。


「・・・今日は現場見学だった」

「あーそれなら、教科書は必要ないですね」


疑問の答えを教えてもらい、マリアの気分は少しすっきりした。

3年にもなれば実技や実習がメインになってくる。

鞄は必要がないのかもしれないな・・・とマリアは1人で納得した。


「こないだの・・・本、読み終わった・・・」

「?・・・面白かったですか?」

「まぁまぁ・・・」

「次の当番、いつ?」

「来週の中日ですけど・・・?なんで?」

「読みかけだろ?」

「あぁ~・・・、気にせず好きな時に返してください」


読み終わりかけてはいたが最後までは読み終えてはいなかったのだ。

あの時の言葉を覚えていたのだろう。


ゼフィサスはマリアの言葉に納得いかないような表情を見せた。


「・・・なら、先輩の都合に合わせて図書室に行きます」


その言葉にわずかにゼフィサスの表情が和らぐ。


「・・・なら、明後日の放課後」

「わかりました」

「・・・またね」


(あ、何か嬉しそう?)


表情にあまり変化はないのに、マリアにはそう見て取れた。

そのまま、ゼフィサスは男子寮の入り口へと消えていった。


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