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3話

次の日放課後、マリアは図書委員の当番のために図書室のカウンターへと座り、図書館室内をボーッと眺めていた。

クラスがないため委員会は完全に抽選で、3年間変わる事は無い。図書当番は2週間に1回程度のペースで回ってくる。


マリアは図書委員の仕事が嫌ではなかったし、本を読むのは割と好きなため苦ではなかった。


(あ・・・、今日も来てる)


図書委員でカウンターに座っている事で初めて気づくことも数多くある。

図書室を利用する生徒というのはほぼ同じようなメンバーで、利用頻度がそれぞれ違うくらいである。その中には図書館で勉強している人、本を読んでいる人、図書を貸し借りに来た人と3パターンに分かれるが、時々それ以外でも見かけない生徒や教師がくる事もあるので、人間観察するには都合がよくて面白い場所である。


図書室をよく利用する中に、図書室に不釣り合いな人物が1人いる。


ブルーブラックの髪は一目見れば黒にしか見えないが、窓から差し込む太陽光が当たると青く見える綺麗なサラサラとした頭髪。

襟足長めのマッシュウルフにカットした髪から見える耳にはピアスが複数個ついている。

本を捲る手指は長く、爪は黒く塗られている。胸元のボタンは2個ほど開いており、鎖骨辺りにはチェーンがチラリと見えている。

どう見ても見た目はヤンチャそうなのだが、彼は図書室によく足を運び一人で読書に励んでいる。

何度か図書を借りるタイミングが合い、マリアは彼の名前を知っている。


3年のゼフィサス・ゼフィルス。紫の切長の目がアンニュイな雰囲気を醸し出している。

マリアは二言だけだが声も聞いた事がある。


『貸出し、返却』


以上。

声は低めだな・・・くらいの印象でよくわからないのが事実だ。


物静かで、ヤンチャな見た目の裏腹に成績はすこぶる良いらしく、途轍もなく優秀で有名であった。

しかも、イケメンのため彼が図書室に居る時は女生徒が幾分か多い。


マリア的にも素敵でカッコいいとは思うが、何処となく敷居が高い。


目の保養くらいが丁度良くて、こうして今日もチラチラと勝手に盗み見ては『眼福です。ありがとうございます』と心の中で勝手にお礼を伝えている。


それよりも、今のマリアにとっては文通相手からきちんと返信が来るかどうかの方が重要である。

返事が無ければ、そこでやり取りは終了。

相性の良い相手なのに、誰かもわからず会うことすら叶わず終わってしまうのだ。

手紙は間違えが無いか、字が汚く無いかと何度も、何度も読み返した。

昨日の朝投函したので、今日にはお相手に返事が届くだろう。これから先の事ばかり気になって仕方ない。


(お返事がありますように!)


集中力をこうして何度も切らしながらも、マリアは読みかけていた魔力の相性についての本を少しずつ読み進めていた。

図書室を閉める時刻まで後少しのところで、室内を見渡せば利用している生徒は数名。

マリアは片付けの準備をしようと読みかけの本を閉じてカウンターへと置いた。

そのタイミングでカウンターへと影が落ちる。見上げると先程、目の保養をさせてもらっていたゼフィサスが、数冊の本を片手にマリアの前へと立っていた。

近くで見ると、物憂い気な表情が色っぽさも醸し出していて女性人気も納得の顔の作りである。


「あ、貸出ですか?」


いつもなら貸出ですか、返却ですかと聞くところではあるが、この時間ならばほぼ貸出だろう。

ゼフィサスは頷き、手慣れたように本と学生証を差し出してきた。


貸出しの手続きを手早く済ませて、最後に返却日を用紙に書き出し本と学生証と一緒にそれを渡そうと、マリアは顔を上げると、ゼフィサスは先程までマリアが読んでいた本へと視線が向いていた。


「この本がどうかされました?」


「・・・読みたかったやつだな、て」


「私ほぼ読み終えているのでこちらも貸出し手続きしましょうか?」


(あ、喜んでる)


ほぼ無表情ではあるが、なんとなく喜んでいるような気がした。

そんな気がするだけで、本人からは特になにも返事はないがマリアは貸出の手続きを勝手に行い、その本も差し出した。


「どうぞ」


「読みかけだったんだろ?ごめん」


微かに驚いた表情を見せて、その後は無表情に戻った。だが、マリアの見立てでは完全に喜んでいるように見えた。


「この本、そんなに読みたかったんですね」


にっこりと笑い答えると、睨み返された。


「ははっ、そんなに照れなくても・・・。面白かったのでおすすめですよ」


マリアは何となくわかるゼフィサスの表情に、思わずいつも友人に接するようなに気軽く喋りかけてしまっていた。口が勝手に動くのだ。


「・・・」

「あ、すみません。ペラペラしゃべって・・・」


ゼフィサスの切れ長の瞳に鋭さが足され、怒っているわけではなさそうだがマリアはとりあえず謝った。

必要以上に喋りかけてはいけないと、マリアはお口をチャックする。

だが、何故だかマリアは猛烈におしゃべりしたくて口がムズムズしてしまい、マリアは勝手に口が開かないにように掌を口に押し付け、じっと耐えた。

早く行って欲しいのに、こういう時に限ってゼフィサスはその場から動こうとしない。

マリアはいたたまれず、返却された本を棚に戻す作業に取り掛かろうと立ち上がった。


「もう少しで閉館なので、気をつけて帰ってください」


このくらいの言葉であれば不自然でないだろう。


相手が先輩のため、取り敢えず失礼しますと頭を下げて数冊の本を抱えて本棚の並ぶ方へと移動した。

離れる際に見たゼフィサスの表情は、いつも通りの無表情ではあったがマリアの不自然な言動に疑問を抱いているようにも見えた。

マリアはゼフィサスからの視線を気にしつつも知らないふりを決め込み、目の前の本を棚に戻すという作業に注力するのだった。



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