2話
講義室へ到着するとマリアは入り口で立ち止まり、友人の姿を探した。まだ、席はまばらで席数の半数ほども埋まっては居ない。
授業は選択履修のためクラスと言う概念は魔法学園には無い。
因みに座学よりも実技の授業の方に人気があるのは言わずもがなではある。
体育祭などのクラス分けが必要な時は、その時点での実力成績で組み分けされて即席のチームが作られる。
自由度が高いため、3年間在籍していても名前も知らない同級生も数多く居るくらいだ。
しかしその反面、実力があり優秀な人材は特に目立ち注目を浴びるため学内でも有名になりやすい。
マリアはどちらかと言えば前者・・・名前を知らない生徒に部類されるだろう。
マリアの友人は講義室の中でも特徴的な髪色をしているため直ぐに見つかった。階段をゆっくりと上がり彼女の隣の席へと向かった。
「あ、マリちゃ~ん」
「ローラおはよう!」
友人のローラ・ミーサンはピンクのふわっふわな髪に黒曜石の様な瞳でマリアに手を振りながら待ってくれていた。
黒い目はキツい印象を与えるが、髪色と少しだけふくよかな身体で逆におとなしそうで母性を感じる印象を与えている。
そして、マショマロのように白く柔らかい魅惑的な肌をしており、ローラはそれなりにモテる。
ローラの隣の席を狙う男子生徒は多いが、この講義ではマリアの定位置のため席争奪戦は今のところは起っていない。
反対側の席はローラが早めに登校したため、朝イチの講義だと席は一番端。誰も座る事ができないわけだ。
「今日も可愛いねぇ〜」
マリアはほんのりと桃色に染まっているローラの頬をぷにぷにと触り、その柔らかさに朝から癒される。それが、ある意味日課である。
「この柔らかさがたまんな~い」
「マリちゃんも可愛い~~」
ローラも仕返しとばかりにマリアの頬を突いてきた。
マリアは成績も普通であれば、容姿もいたって平均的・・・普通である。
黒が混じったような茶色の髪の毛に、瞳。
身長も高くないし、体型も普通。
少しだけ自慢できると言えば、パッチリとした二重にちょっとだけ大きめの胸くらいである。
胸だってローラと比べたら桃とメロンほど差があるので大声で自慢できるほどではない。
「ありがとう〜。可愛くなれるように頑張る」
「あらら?マリちゃん、今日はなんだかとっ~てもご機嫌だね?」
「うふふふっ、わかる?」
「わかるよ〜。いつもより、可愛いし幸せそうなオーラが出てるもん」
マリアは席に座り、授業で使う教科書やノート、筆記用具を机の上に取り出しながら文通相手が現れた事を話しはじめた。
「実はね、昨日文通相手が見つかったんだ」
文通が始まった事が噂になり、相手にバレないようにするためなるべく声のトーンを落としてローラへと伝えた。鼻歌を歌いたいくらい嬉しいが、流石に我慢して少し気持ち悪い笑みを浮かべる。
「マリアちゃんおめでとう。でも、その顔やめよう?ちょっと気持ち悪い」
ローラは正直である。だから、こう言う時もハッキリと教えてくれてマリアは助かるのだ。
「おい、マリその話ほんとかよ?」
背後からコンと椅子を蹴られ、小さめの声量で声をかけられる。後ろを振り向けば、少し赤めの茶髪をワックスでしっかりと遊ばせた男が上半身を前のめりにして、ベーゼルの瞳をグイッとマリアに近づけてきた。
それなりに整った顔をしているが、見慣れているため怯む事はない。
「本当よ、アルフ。残念ね、私の方が早かったわね」
マリアは鼻でフンと笑い、勝ったとばかりにドヤ顔を向ける。
マリアに声をかけて来たアルフレッド・ショータングはダボついた制服を着用しており、袖も指が出るくらいの長さがあった。
生意気なこのアルフレッドは可愛らしい見た目で幼くは見えるが、真面目で成績は優秀であり、同学年の中では有名な部類だろう。そして、小さい頃から付き合いのあるいわゆる幼馴染だ。
「はぁ?ふざけんな・・・どこの学園のヤツだよ」
「学籍番号の先頭が1だったし、本人もうちの生徒だって書いてた」
学籍番号の先頭の数字は国に3つある魔法学園を識別するための数字である。
1はシャープン
2はリーンス
3はコディショル
文通を始めるにあたり、男性側は在籍している学園にまずは文通を掲示してもらう。1ヶ月、相手から返事がなければその手紙は破棄。そして、それでも文通相手を探したい場合は1〜3好きなら学園に掲示依頼ができる。しかし、掲示は一枚のみで、3校同時に掲示できない。
よくあるのは2、3ヶ月在籍している学園に掲示して、それ以降は他校への掲示に切り替える事が多い。
勿論、掲示しても3年間一度も返事が無く終わる者も一定数いるほど相性のいい相手を見つけるのは難しい。
「ウチかよ・・・」
アルフレッドは軽く舌打ちして、後ろの席へと座り込んだ。
不機嫌そうなアルフレッドにマリアは首を傾げる。
アルフレッドはこうして時々、マリアへと不機嫌そうに絡んでくる事がある。
別に実害は無いが少し口が悪いので、慣れてなければ萎縮してしまうだろう。
「そんなに、私が先に文通相手を見つけたことが面白く無いのかね」
「マリちゃんって少し鈍いよね・・・・。で!?お相手はどんな人?」
ローラはニコニコと楽しそうにマリアの事を見つめる。
文通の話には興味があるようだ。
「うーん、ここの3年で初めて文通相手を募集した事くらいしか情報は無かった。早速今朝、返事を出してきた」
嬉しそうに話すマリアの話を横で相槌を立てながらローラは聞いてくれる。
それが嬉しくてついつい色々な事を話してしまうわけだが・・・。
ローラともう1人その話に聞き耳を立てていたアルフレッドは話を聞きながらイライラを募らせる。そのことを知らないマリアは、講義が始まるまで話し続けるのであった。