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転生者にも事情がある  作者: 蜜柑缶
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04   貴族と対面

 ハックとブラブラしながら色々と情報を仕入れるため町中を歩いていた。とにかく知りたいことと言えば魔術でしょ!


「ねぇハックは魔術使えるの?」

「はぁ?何言ってんだよ。使えるわけないだろ。オレ黒髪だぜ。熱出しておかしくなったのか?」


 結果、魔術はお貴族様だけの物という残念極まりない事だった。期待していだけにどぉ〜んと落ち込むよ。なんの為の転生だよ。

 お貴族様は血統でその魔力の強さを増していくらしい。髪の色がカラフルなのがその象徴らしく、黒髪や茶色などは庶民の証だそうだ。赤毛は過去に貴族の血が入っていたのかもって事らしいが庶民は庶民だ。魔力もない。


 って事は例の緑髪のお疲れイケメンは貴族か。領主様から派遣された医術者だったのかな。だいぶ若かったけどここじゃ普通に働く年かな?

 貴族なのにリーナの最後をあんなに優しく看取ってくれたなんてめっちゃ良い子じゃない。

 何となく貴族ってだけで怖いって偏見あるけど、偉そうな感じがするのは私だけ?

 

 もう二度と会うことは無いだろうけどあれは心のアイドルに留めておこう。イケメンは癒やしだ。

 ちょっと歩き疲れて来た頃にハックが建物の影に連れて行ってくれた。そこには木箱を幾つか置いてあり二人のいつもの溜まり場らしい。


「大丈夫か?疲れたろ、しばらく休憩しろ」

「ありがとう。ところでさぁ、どうしたらリーナの村に行けると思う?」


 私は期待しないでハックに聞いてみる。馬車でないと行けない所だし子供に何か出来るとは思えないしね。


「あぁさっき言ってたやつか。そりゃオジサンに頼むしかないだろ、普通は」

「普通はって、それ以外にもあるの?」

「……無いよ」


 イヤイヤ待て待て、その間はなんだ。あるだろ隠してるだろ。

 私はハックに黒い笑顔で問いかける。


「あるの?教えてよ」

「無理だよ。オレ今度こそラルクに殺されちゃうよ」


 ハックは恐怖体験に思いを馳せるように遠い目で答える。

 

 あぁ、崖ね。怖かったね、あの時のラルクは。でも私は聞くよ。


「あんたから聞いたって言わないから。ね、教えて」

「いや、どっちにしろアリアには無理だって。それに行けても帰れるかわからないぞ」


 なんだソレ、行きっぱなしって事?それはダメだな。家出して生きていけるほど私は逞しくない。


「ハックも行かない?」

「だから、死にたくないって。ラルクに殺されるか流行病で死ぬか二つに一つなんてやだよ」 

「流行り病はおさまったんじゃないの?」

「さぁまだ聞いてないけど。医術者の人がまだこの町通って無いからまだなんじゃない?」


 なんと、帰りにこの町を通るらしい。


「だったら少しは様子が聞けるかな?」

「いや普通に無理だろ。貴族なんて平民と簡単に口きかないから」


 えぇ〜やっぱり偉そうなんだ。私は村の事やオルガの事を聞きたかったのに。


「ねぇ、オルガの事知ってる?」

「変な婆ちゃんだろ?村外れの。前に父ちゃんがあんまり小屋がボロっちいから直してやった時に着いてったことがある」

「そうなんだ」

「婆ちゃんの死んだ息子が父ちゃんの仕事仲間だったんだ」


 ハックの父親は大工だ。木工職人も兼ねていてけっこう腕が立つらしい。ここでは大体親の仕事を継ぐからハックも大工になるらしく最近はちょっとづつ手伝い出しているようだ。




 そろそろお昼だから帰ろうぜとハックが立ち上がり私も素直に頷くと家路についた。ちょっとお腹も空いてるしね。

 トボトボと歩いていると向こうから馬車が何台も連なりやってきた。私はハックに言われるままに道の端っこによると立ち止まり目の前を通り過ぎる馬車を見た。


「あ、貴族の馬車だ。例の医術者達じゃないか?帰ってくんだ、今晩はここに宿をとる気だな」


 ハックはそう教えてくれた。

 

 え、この町に泊まるの?何とか話を聞けないだろうか?


「どこに泊まるかわかる?」


 私は慌ててハックの腕を掴む。


「わ、わかるけど。この町で一番いい宿屋だろうから」

「どこ?連れてって」

「いやな予感しかしないな、いやだよ。なんかする気だろ?アリア変だもん」


 何もしないからと、乗り気でないハックの腕を掴んだまま馬車が走り去ったほうへ引っ張って行く。ホントかよ〜と言いながらも貴族が泊まる宿屋まで連れて来てくれた。


 宿屋の前に馬車は止まっており中から何人かの黒いマントのフードを被った一行が降りてくる。

 みんな薄汚れていて疲れているようで、宿の主人らしき人が中へと案内すると空の馬車は裏へまわるようだ。流石に中には入れないので裏にまわってみることにした。少し離れたところから、馬車から荷物を降ろしたり馬を外して厩へ入れたりしているのを見ていた。


「なぁ、もう帰ろう。腹減ったよ」

「もうちょっとだけ、なんなら先に帰ってもいいよ」

「イヤイヤ独りで帰ったらウォルフにまで睨まれるから、オレ」


 ハックはすでにラルクには目をつけられてるのでウォルフには嫌われたくないらしい。ウォルフはもともと面倒見が良いので近所の子供に評判がいい兄貴!って感じた。


 宿屋の馬丁が厩の中に入って行ったのを見計らって馬車に近づいてみる。この町には不似合いのシンプルだが高価そうな造りだ。


「まずいって、早く行こう。貴族には近づくなって父ちゃんに言われてるんだから」

「わかってる。静かにして、ちょっとだけ見たいだけだから」


 私は馬車の周りをぐるりと見て反対側へ回ると、そこに一人の黒いフードを被った人影がカバンを持ち上げながらゆっくりと立ち上がるところだった。

 

 ヤバい!まだいたんだ。怒られる!


 後ろでハックもヒッ!と小さく悲鳴をあげた。


「……子供か」


 私達に気付いた男はポツリと言うとそのまま向き直り宿の方へ歩き出した。助かった……とハックがホッとしていたが私は思わず……


「待って!」


 声をかけてしまった。

 やっちゃったよ、せっかく向こうから立ち去ってくれようとしていたのになぜこの口は言っちゃうかな。


「なんだ」


 意外にも普通に振り向き、しかし無表情に答える。私は声をかけといて一瞬口ごもる。


「……っ、あ、あの、聞きたい事があるんです。よろしいでしょうか?」


 なんとか言葉を振り絞って、震えながらその男を見た。男は少し黙ったままだったがおもむろにフードに手をかけた。パサリと後へはずされたフードの中から緑の髪がサラリと現れた。


 アレ?この少年リーナの村にいた子だよ。リーナを看取ってくれた、お疲れイケメン!ワォ、運命の再会?!イヤイヤ浮かれてる場合じゃないって。

 

 彼はこちらに近づいてきた。あの時は熱にうなされて頭が朦朧としたいたのでよく見れなかったが改めて観察すると、サラサラの緑の髪、薄い金色の少し冷めた感じの切れ長の瞳、スッと通った鼻筋、キリッと結ばれた薄い唇、かなりのイケメンだ。

 

 ハックは私の後でブルブルしながらも私の腕を掴んで、でも逃げずにいた事は褒めていいと思う。チビってるかも知れないがそこはそっとしておいてやろう。


 私は大きく深呼吸して意を決して言葉を続けた。


「お疲れのところ申し訳ございません。実は封鎖された村の事をお聞きしたいのです」


 何とか自分の知っている限りの丁寧な言葉で話す。前世でも大した所に勤めていなかったのでちゃんとした敬語なんて知らないし、ここでそれが通じるとも限らない。彼は少し顔をしかめ、しかしまた無表情に戻る。


「村は……領主様の通達通り焼き払われ清められた。心配はいらぬ」


 私は覚悟していたとはいえやはり村が焼かれた事実にショックを受けた。頭の中で燃え上がる村が浮かび上がり泣き叫ぶ人々の声が聞こえるようだった。実際には村人の生き残りは焼かれている訳では無いだろうがそういう印象だ。


「そ、そんな、やっぱり……」


 そうつぶやくとフラリと倒れそうになった。ハックは掴んでいた腕を慌てて引き寄せると何とか私を支えてくれた。貴族の前で倒れるなんてマズ過ぎる。


「どうした!大丈夫か!」


 イケメン貴族は驚くとサッと手を差し出してくれた。冷たそうだと思っていたからちょっと驚いた。

 私を支えてくれていたハックは熱が下がったばかりだとしどろもどろに説明し、それを聞いた彼は私をそっと抱きかかえると額に手をかざした。

 その瞬間優しい蒼白い光がふわりと私を包み込んだかと思うと何だか体がスッと楽になった。


 これって、癒やしの魔術か……凄い!


「これで暫くは大丈夫だろう。早く家に帰りなさい」


 イケメン貴族はそう言って私を立たせると離れようとする。


「ま、待って!」

「まだ何かあるのか」


 またも引き止めた私に今度は明らかに不機嫌そうに睨まれた。


「オルガは?オルガは無事ですか?」

「オルガとは?一人一人の名前まではわからない」

「村はずれに住んでる老婆です」


 彼は少し考えると首を横にふる。


「わからない。村人の生き残りは二人だけだ。他所に出稼ぎに出ていて難を逃れたらしい」

「そんな、じゃあやっぱり全滅なのね」


 私はため息と共に肩を落とした。




 

 


 

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