179 番外編 ディミトロフ家12
ウチの両親は手がかかる。
世間では理想だの、お似合いだの言われてるけど真相は違う。
皆に心配をかけ他領の騎士団副官や護衛や兄弟を巻き込んで壮大な夫婦喧嘩を繰り広げるバカップルだ。
ちょっと話し合えば良いのにそれをおろそかにして体裁を気にしすぎて危うく別れかけるという、バカップル以外たとえようもない。
まぁ仲が良いのは認めるし羨ましくもあるかも。
そんな両親ではあるが次期領主のバルテレミー様と引き合わせてくれたことには感謝してる。
一目惚れだった。
カッコよく賢くて優しい。唯一難点は私の母さまが好きらしい事だ。まぁ、好きと言っても人妻だしかなり年上だから問題ない。
私は母さま似だから見た目は好みのタイプだと思うけど、年令が少し若すぎるようだ。でも9才差位イケるはず。
母さま達が龍を見に行っている間のことだ。
バルテレミー様に会いに連れて行ってもらった。
そこにはブルーラート領のたいして可愛くもないどこかのお嬢様達がバルテレミー様に群がっていた。
チッ、邪魔だな。
「リアム、アレ退けてよ」
「馬鹿言うな他領のお嬢様だぞ、問題になる」
「そう年の変わらないのもいるじゃない。あれだけでも退けてよ」
「もう〜、知らないぞ」
リアムは文句を言うが結構出来る奴だ。キッチリ仕事をこなすだろう。
私はバルテレミー様にご挨拶した後お嬢様にも挨拶した。
「初めまして、アリーチェです」
私の髪の色を見て数人がビクつく。この髪は母さま譲りで私はとても気に入っているが、自領では呪いと呼ばれ引かれる事も時々ある。
別に気にしない。
だって大好きなバルテレミー様はいつも「綺麗な髪だね」って言ってくれる。
「なんのお話をなさってらしたのですか?」
ニッコリ愛想良く話に加わろうとした。
「そうね、アリーチェ様には少し難しいかも。ダンヴァース領で以前問題になった流行病についてお聞きしていたの」
なかでも一番見た目のマシなちょっと賢そうなお嬢様、サラが優しげな瞳で話してくる。
コイツが一番厄介そうだな。
「あぁ、それはわたくしの父と、母が解決した食中毒の話ですわね」
私が流行病では無く、食中毒だという事、解決に両親が関わっていた事を話した。
「まぁ、それではよくご存知ですの?お話を聞かせてくださる?」
お嬢様は優しく小さい子に話を合わせる感じに持ってきた。自分は子供に優しいステキな女性なんですよってアピールしたいのだろう。そうは行くか。
「そうですわね、多少はお話してもよろしいでしょうか?
解決には両親の手による地道な研究の結果がかなりの部分をしめます、研究というのは根気のいる作業ですが人の命に関わることですので懸命に取り組み、それによって効果のある薬や原因を突き止めたと聞きいております」
私は当たり障りのない程度の話で様子をみた。本当はその裏に一族の真っ黒なやり取りが繰り広げられていた事も最近聞いたがとても話せる事ではないし。
バルテレミー様は私の話を聞いてクスクスと笑い、周りのお嬢様達がドン引きしているのを楽しんでいるようだ。
「アリーチェは優秀でね、来年には学院に通う予定なんですよ。農村経営と薬草の研究をやりたいと言っているのです」
何故かバルテレミー様が自慢気に話している様にみえる。
「そうなのですね、では最近の病や薬学のお話もご存知なのかしら?」
「それは……わたくしにはどこまでお話して良いか判断ができかねますのでバルテレミー様にお任せしませんと」
出過ぎず、しかし優秀さはアピール。完璧じゃない?今まで自領内でどれだけバルテレミー様に群がるお嬢様方を蹴散らしてきたと思ってんのよ。
「宜しいですか、バルテレミー様?」
サラは自分は聞き上手なんですよって顔で彼に小首をかしげる。
「えぇ、学院の講義で話している事なら構いませんから」
最近バルテレミー様は新入生相手に講義をして若い人に接する機会を増やしている。派閥のとりまとめと領地の運営の為だ。お陰でバルテレミー様が優秀でカッコイイ事が知れ渡り競争率は高まる一方だ。
あの両親のお陰で一歩先んじてるとは言え油断は出来ない。でも母さまだって領地内外で既に有名だった父さまを一発で落としたと聞いてる。
私にも出来るはず。
その後何度も聞いた事がある講義の内容をサラと一緒に熱心に聞いた。何度聞いても勉強になるし話している姿がカッコイイ。サラも少し頬を染めて聞いている。
他のお嬢様は話に付いていけずリアムが上手く引き付け少し離れた所で楽しげに会話している。
アイツも父さま似で領地内で人気の物件になりつつある。なにせあの父だ、確実に美麗に育つだろうし家柄もいい。ダンヴァース領は最近巻き返していて徐々にレベルが上がってきているからリアムでも良いと思うお嬢様は多いだろう。
そこへキーラン様がやって来た。
「アリーチェ、リアムちょっと来い」
かなりウンザリした顔で呼ばれた。
「子供二人だけという訳にはいきません、私も同席します」
バルテレミー様が付いてくる事になった。本当はいい加減お嬢様の相手が嫌になってきていたのだろう。
別室に行き開口一番、
「お前らの両親を何とかしろ」
「何とかとは?やはりフェアリーネは具合が悪いのですか?」
バルテレミー様が驚いている。
昨日のアレか。
「二人で話し合えば良いのでは無いですか?夫婦のことですし」
「そうそう、昨日、言えることは言いましたよ」
私とリアムが言う。
母さまがとうとう爆発していた。無理も無いと思う。
「何があったのですか?」
一人だけ事情がわからないバルテレミー様が尋ねる。
「母さまが暴れてました」
「暴れてたって……?」
事態を飲み込めないバルテレミー様にこれまでの流れをキーラン様の話も交えて説明した。
「それはキーラン様のせいでは無いですか!」
バルテレミー様が怒っているがちょっと違うと思う。
「違いますよ、もう時間の問題だったんです。キーラン様は切っ掛けに過ぎません、むしろ良かったかも」
私がそう言うとリアムも
「そうだね、あのままじゃ母さまが本当にご病気になっただろうね」
私達は今迄の経緯を二人に話した。
「昨夜の内に話し合ったのではないのですか?」
「昨夜マティウスは私といた。フェアリーネの拒絶っぷりに恐れをなして一晩中付き合わされてもうウンザリだ。フェアリーネ、フェアリーネと泣き言ばかりだ、以前のあいつとは全く違う」
キーラン様が大きくため息をついた。
「何が問題なのです?」
バルテレミー様の問に3人で口を揃える。
『お互いに好き過ぎ』
騎士団長としてある程度の体裁は気にしなくてはいけないだろうけど、そのせいで母さままでそれに付き合わされ頑張り過ぎてる。
母さまはそもそも父さまが忙しいのは自分のせいだという後ろめたさが根本にあり、限界を越える我慢をして来た。
華やかな人生を謳歌してるって言う人もいるようだけど、母さまは農村にいる時が一番楽しそうだ。
平民と交わり薬草を栽培したりみんなでご飯を食べたり。父さまが側にいないからふとボンヤリしてる事があるけどそれでも気楽そうだ。
「それで、どうするつもりなのですか?」
キーラン様に聞いてみた。
「まぁ、話し合いは必須だろうけど、とにかく炎龍の事を先に片付けないとな。それからだ」
良し、それならアイツを呼ぶか。
「リアム、作戦考えて。私はルーチェを呼んでここの龍をやっつけてもらおう」
「そんな事出来るのか、だったらちょっと考えるか」
私達の会話を聞いてバルテレミー様が焦った声を出す。
「待ちなさい、子供達だけで動いては危ない」
「子供じゃないです。でも私達の事になると2人はなりふり構わなくなるから丁度いいと思います」
キーラン様がニカッと笑う。
「よし、言ってみろ。私が手配してやる。あぁ、バルテレミーは来るな。お前は顔に出るからバレる。護衛を貸してくれ」
「リッカルド叔父さんは駄目です。母さまが好きだから飛んでってついでに全部話してしまう」
リアムの話にキーラン様が呆れる。
「リッカルドは結婚してるであろ?フェアリーネは何をしてるんだ」
「フェアリーネが魅力的なだけです。あの人にはなんの落ち度もないでしょう!」
バルテレミー様がムッとして答えた。
やっぱり、母さまが好きなんだ。
「お前までか、たいした女だな。マティウスの心配も無理ないかもな」
バルテレミー様が頬を染めて顔をそらした。
「じゃあ、バルテレミー様とリッカルド叔父さんは待機で。アリステアとマーゴットは大丈夫だから2人に協力してもらいましょう」
リアムが作戦を話した。
「何とかなったようだな。マティウスはちょと怪しんでた感じだったけどあえて乗ったのかな」
キーラン様が父さまと母さまの様子を見ながら言った。
「それでフェアリーネ様はどうするのですか?」
マーゴットが心配して尋ねてきた。
「母さまは農村に行ってもらう。多分、ここから帰る時にそのまま寄って置いていくことになる」
リアムがちょっと淋しそうに言った。大好きな母さまと離れるのは嫌だけど、あのままじゃ病気になるまで働かなきゃいけなくなるから仕方ないね。
「そうですか……淋しくなりますね」
「マーゴットはどうするの?」
「どうって?」
「リッカルド叔父さんの事どうするの?マーゴット叔母様、別れる?」
私は護衛とその対象としてじゃなく、叔母と姪としてきいてみた。
「別れるなら当分母さまと農村に行っても良いんじゃない?顔合わせるの嫌でしょ」
「アリーチェは私達の仲は取り持ってくれないの?」
「取り持って欲しければ子供を持つと良いよ。そしたら頼まなくても済む」
「今回の問題がそこだから駄目かも」
マーゴットはガックリして答えた。
「マーゴットは子供欲しくないの?」
「リッカルドが踏ん切りつかないのよ。父親になるのが怖いみたい」
「作っちゃえば踏ん切れるんじゃない?」
「やっぱりそうかな……そうしてみる」
アリステアが呆れた顔してる。
「アリーチェにそんな相談なんかするなよ」
キーラン様が嫌そうな顔をした。
父さまと母さまが仲直りした2日後、自領に帰ることになった。
母さまがこのまま農村に行くからこの旅が当分離れる2人の別れの旅だ。
「キーラン、お世話になりました」
母さまがとびきりの笑顔で別れの挨拶をした。
「なるほど、来た時とは別人のようだな。幸せそうだ」
母さまが頬を赤くして顔を伏せた。
幸せ全開ですね。
「フェアリーネ、本当にこのまま農村へ行くのですか?」
バルテレミー様が名残惜しそうな顔をする。
もう!
「えぇ、一旦帰ってしまえば出るのは難しそうですから。落ち着きましたらまたアデミンストにも顔を出しますわ。その時にお会いしましょう」
母さまが優しく微笑むとバルテレミー様が少し頬を染めた。
ムカつく!
「バルテレミー様、わたくしはアデミンストに戻りますわ」
私は彼の前にスッと近寄った。
「あぁ、そうだね。アリーチェは学院へ行かなければならないしね」
バルテレミー様がニッコリして言った。
「わたくしは母さまによく似てるって言われます」
「とてもよく似てるよ」
「だからもうすぐ母さまが父さまを一発で落とした時のようになると思うのです」
後ろで母さまが「なんて事を言ってるの」って嘆いてる。父さまの声は聞こえないけど顔が引きつってるかも知れない。
「アリーチェ、いったい何を……」
「今のうちに手をつける方が思います」
そう言って背伸びをしてバルテレミー様のくちびるにキスをした。
驚いた彼は何も言わず、後ろでガタガタと騒がしい音が聞こえた。
「やっぱり君似だ……」
「……ごめんなさい」
両親の嘆く声が聞こえた。
何がイケナイの?
これで完結です。
お付き合い頂きありがとうございます。
ブクマ&評価ありがとうございます。




