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第十四話 そんな季節になりました

今回は、ちょっとしたホラー風味です。

 世間では、本格的に梅雨入りし、洗濯物の乾かない嫌な天気が続いている。

 また、雨が上がれば、ここぞとばかりに蚊が、雨の時に出来た水溜りで繁殖し、大量の仲間を生み出している。

 そして夜、ただでさえ蒸し暑くて寝苦しいのに、奴は耳障りな音を立てながらこちらに近寄ってくるのである。

 こいつ、わざと音立てて俺に喧嘩売ってんのか? と思うくらいだ。

 このまま、この状況が続けば、俺のイライラは頂点に達し、この部屋はきっと終日蚊取り線香臭くなるだろう。

 そうだ。今度ホームセンターに行って大量に買っておこう。うん、それがいい。


 そんな感じで、眠れない夜が続いてた日のことだった。


 その日の俺は、眠れないことによるイライラと暑さによる疲れでどうかしてたのかもしれない。

 それは、吉田と飲みに行った帰りに起きたんだ。






「それじゃー。また今度なー。」

「おう。」


 吉田と別れ、一人で暗い夜道を歩いていく。

 酔っているせいかもしれないけど、夜道を歩くのは結構楽しかったりする。

 ここら辺は、夜になると昼間とは違って人も少なく、静かな街になる。

 置かれている街灯も間隔が広いためか、その役目を果たしきれてない。

 たまに擦れ違う人の顔も近くまで来ないとよく分からなかった。

 そんな薄暗い夜道を歩くなんて、普通なら避けたいところだろうけど、俺にとっては楽しかったりするのだ。


 ……別に犯罪めいたことをしてるとか、そういう危ない意味ではないよ。


 きっと、ただ単に静かな街を自由に歩くというのが、自分にとってリフレッシュになっているんだろうと思う。

 だから俺は、吉田と別れた後、真っ直ぐ家に帰らず、わざと寄り道をしながら帰ったんだ。

 そう、寄り道をしながらね。

 そして、俺はこの後すぐに、寄り道したことを後悔することになるのだった。






 酔っているせいだろうか……。

 いや、おそらく違うだろう。

 では、俺の気のせいだろうか……。

 それも違うだろう。


 俺はそれを間違えなく感じ取っている。

 そう、それは先程からヒタッヒタッと気配を忍ばせて、俺の後ろから付いて来ているのだ。

 この時点で俺は、すぐに家に帰ればよかったと後悔した。


 周りには、人の気配や姿、形は全く見えない。

 しかし、この不気味な気配はしっかり感じているし、周りに誰もいないということは、この気配は俺に付いて来ているということ。


 冗談じゃない!

 このままだと、家にまで付いて来てしまい、最悪の場合、家に取り憑くのではないか。

 季節が季節なだけに、そういった類の話はよく耳にする。

 肝試しに行った友人が、帰ってきた後、大きな病気や怪我をしたり、夢でうなされたりするようになった。

 知り合いに霊感の強い子がいて、その子に診て貰ったら、なんと悪霊に取り憑かれているといった具合の話だ。


 正直に言おう!

 俺は、こういう話に弱い! ぶっちゃけると怖いんだ!

 なまじ俺には動物と話せるという、謂わば超能力があるからかもしれない。

 未来予知や念動力、透視といった超能力が実際にあると思うし、UFOや地球外生命体がいるとも思っている。

 それと同じで、幽霊の存在も信じているのだ。

 だから、怖い! なんで真っ直ぐ帰らなかった、ちょっと前の俺!


 そんな後悔と恐怖に身を震えさせながら俺は、この後どうしようか必死に考えていた。

 その時だった。


「……ないよ〜」


 ……な に が?


 声がした……。

 間違えなく聞こえてしまった。

 思わず振り返って、声がした方向を確認してみたが、そこには何もいなかった。

 気のせいか?

 いや、きっとそうだろうと思い込み、再び前を向き、一歩二歩と足を踏み出した時だった。


「やっぱりない」


 今度ははっきりと、しかもさっきより近いところで声がしたのだ。

 もう後ろには振り向けない。

 俺の体は恐怖で固まってしまった。


 昔、友達が、夜中に家でホラー映画を見たときの話を思い出した。

 部屋を暗くして、一人で映画を見ていたとき、映画のクライマックスシーンで、タイミング良く部屋のドアが勝手にしまったのだという。

 そのとき、友達は恐怖のあまり「助けて! ママ!」と叫んだらしい。


 話を聞いたときは、阿呆だな。と笑い話になってしまったが、今ならその友達の気持ちが良く分かる。

 うん、すごく分かる。


「大切なものなの。どこにあるの?」


 今の疑問系は、俺に向かって使われているのか?


「ねえ、どこにあるの?」


 どうやら俺に聞いているらしい……。

 知らねえよ! と言ってやりたいところだが、下手に言うと何されるか分かったもんじゃない。

 俺は、答えが見つからず、黙ることしか出来なかった。


「ねえ、知ってるんでしょ?」


 黙ることしか出来ない俺に、さらに問いかけてくる声。


「あなた、知ってるんでしょ?」


 声はもう、すぐそこまで来ていた。


「知っているなら教えなさい。」


 足が動かない。

 逃げることも出来ずに、その場に突っ立っていることしか出来ない俺。

 すると、何かが俺の背中を這って、肩に止まった。

 そして、肩に止まった何かがこう言ったのだ。



「私の尻尾はどこにあるの!?」



 ………へ?






 俺が恐怖していた声の主は、幽霊や妖怪なんかではなかった。

 それは、ただのトカゲだった。


 話を聞くところによると、そのトカゲは近くの公園を歩いていたら、野良猫に見つかってしまい、必死で逃げ出したのだという。

 しかし、トカゲの足とネコの足。どちらが速いかは考えるまでもないだろう。

 近くに隠れられる障害物もなく、必死の逃走も空しく、トカゲは簡単に捕まってしまったらしい。

 だが、トカゲの抵抗はそこで終わらない。

 必死にもがき、じたばたさせ、足掻いた結果、見事逃げ出すことに成功したのだ。


 自分の尻尾を犠牲にすることによって…。


 俗に言う、トカゲの尻尾切りである。

 逃げ出すことに成功したものの、今まで在った尻尾がなくなってしまい、体のバランスが上手く取れなくなってしまったトカゲは困っていた。

 そんな時、俺たちが近くを通ったのを見て、この人たちに何とかしてもらおうと後ろをつけたらしい。


 それを聞いた俺は、脱力してしまい「はぁ」と大きな溜め息をついた。


「まあ、なんだ。そのうち生えてくるんじゃないか?」

「そうですかねえ。」


 なんとも不安そう顔をするトカゲ。 

 まあ、尻尾がなくなったのは可哀想だが、だからといって俺を怖がらせた罪は重い。


「大体お前、そんなに早くから俺を追ってたなら、もっと早く声を掛けろよ。」

「これでも、貴方たちが立ち止まってから、すぐに声を掛けたんですよ。」

「そうかよ。」


 トカゲにとっては、人の足に追いつくのも一苦労なのだろう。尻尾もないし。


 ……うん? ちょっと待てよ。


「お前、今なんて言った?」

「え? だから、貴方たちが、立ち止まってからすぐに声を掛けたんですよ。」


 貴方たち?


 立ち止まってから?


 いやいや、吉田といたときは、そんな声は聞こえなかった。

 俺が聞き逃したという可能性もあるが、何よりも、俺が立ち止まったのは声がしたからだ。

 そういえば、その声とこいつの声、若干違うような気が……。


「どうしたんです?」


 俺の様子が変だったのか、トカゲが俺の方を見て確認してきた。

 そう、「俺の方を見て」だ。


「ち、ちなみに、貴方たちっていうのは、俺と、さっきまで一緒にいた男のことだよな?」


 何かに祈るようにトカゲに尋ねる俺。

 声が震えているのが自分でも分かる。


「何言っているんですか?」


 そこまで言うと、トカゲは視線を俺の後ろにやった。


「貴方たちっていうのは、貴方と貴方の後ろにい「私のことに決まってるじゃない」る髪の長い女の人のことですよ。」


 

 ………。




 その後、俺はどうやって家に帰ったかは覚えていない。

 ただ、あの場から脱兎の如く逃げ出したのは間違いない。

 

 そして、その日を境に、帰りに寄り道することを止めた俺だったのだ。



作者は、幽霊が出てくるようなホラーは結構好きでして、逆にスプラッター的なものは苦手です。(あっ、でも『ソウ』の第一作目だけは好きでした。)

ということでホラー企画に合わせて、ホラーっぽいものを書いてみました。


ホラーを書いたことのない作者が、ホラーっぽいものを書くとこうなります。

期待された方には「へ? なにこれ?」な内容だと思います。

ごめんなさい。

作者は反省してます。


以上、後書きという名の言い訳でした。


誤字脱字等ありましたらご指摘くださると助かります。

それでは、また。

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