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第十二話 ヒエラルキー的なもの (前編)

「ここがいいかな。」


 そういって俺は、教室の一番後ろの席に座った。

 次にこの教室で始まる講義は英語だ。

 なぜ大学生になってからも、英語の授業を受けなくてはならないのか甚だ疑問だが、必修科目なのだから仕方がない。

 必修科目。つまり、この科目の単位を取れなければ大学は永遠に卒業できないのだ。

 ならば、単位を取るしかない。

 単位を取るといっても、中学や高校の時みたいに、ただ出席していれば取れるものではないらしい。

 やはりテストがあり、ある程度の点数を取らなければならない。

 取れなければその単位は落とすことになり、落とした単位はまた取り直さなければならない。

 

 それが再履修である。


 その再履修を免れるためにも、ある程度真面目に講義を受けないといけないのだ。

 ああ、面倒くさい。


「隣いいかなー?」


 そんな大学の理不尽な履修システムに考えを巡らしていたときだった。

 語尾を伸ばした独特な口調で、俺に話しかけてくる奴がいた。


「えっ? ああ、いいよ。」

「おっ、サンキューサンキュー。」


 隣の席に置いてある俺の荷物を退かしてやると、「よいしょ」と言いながら男は席に座った。


「やっぱりさー。英語の授業は後ろにかぎるよなー。」

「ああ、そうだね。」


 座るのも束の間、いきなりこっちを向いて話しかけてくるこいつは何なのだろうか。

 俺が人見知りする性格もあるだろうが、知らない人と話すのが苦手な俺は、とりあえず相づちだけでも打つことにした。


「ところでさー、テキストってもう買った?」

「いや。というか、この授業は、教授がプリントの教材を配って、それ使って授業するみたいだよ。」

「マジ? ラッキー! テキスト代って高いもんなー。助かったわー。」


 この男は、俺が返事をするのを良いことのどんどん話しかけてくる。

 まあ、テキストがプリントで助かったのは同感だ。

 講義によっては一冊3,000円もするようなテキストを買わされることもあるらしい。


「ああ、そうそう。俺、吉田って言うんだー。よろしくなー。」

「高井です。よろしく。」


 なんとまあ、そっけない返事だったと我ながら思う。

 そんな感じで俺と吉田は出会い、友達とまではいかないが会えば一言二言、言葉を交わすような間柄になった。

 この時は、まだ飲み仲間とまではいかず、本当にただの知り合いという感じだった。

 そんな関係が大きく変化したのは、大学に入ってから一ヶ月経ち、大学に慣れてきた頃のことだ。



 俺は、いつも通りに大学に来て、教室に入り、教授が来るのをボーっと待っていた。

 いつも時間ギリギリに来る吉田が、今日は来なかったのだ。

 どうせサボりだろうと俺は思っていた。

 

 大学の講義というのは、その教授や学部、学科によりけりだが、出席しないでも試験で良い点を取れれば単位がもらえる授業があったりする。

 つまり、講義をサボり、試験前だけ友達にノートやプリントをコピーしてもらい、それを勉強して点を取るという輩が生まれるのだ。


 それもアイツらしいと言えばアイツらしいと思い、絶対コピーなんかさせてやらないと俺は心に誓ったのを憶えている。


 結局その日は、その講義だけでなく、大学にも来なかった。



 そして次の日……



「高井! 助けてくれー!」

「へ?」


 大学の構内にあるベンチに座って休憩していたら、いきなり吉田が目の前に駆け込んできたのだ。


「なんだよ。いきなり。」

「それが、大変なんだよー!」


 吉田がこんなに焦っている所なんてはじめて見たぞ。

 でも、プリントはコピーしてやらないぞ。


「シルバーが……」

「シルバー?」

「そう! シルバーが逃げちゃったんだよー!」


 どうやらコピーとかそんな話ではないらしい。






「というわけで、この犬を知らないかな?」


 俺は今、大学の近くにある公園に来ていた。

 あれから吉田を落ち着かせ、話を聞いてみると飼っていた犬が散歩中に逃げ出してしまったらしい。

 吉田は、大学を休んでまで捜してはみたものの、その日は結局見つけることが出来ず、本当は今日も捜しに行くつもりだったのだが、大学も休みすぎては大変なことになるので仕方なく来たという。

 講義が終わったら、また捜しに行くということなので、すでにその日の講義が終わっていた俺は、一足先に捜索に狩り出されていた。

 まあ、暇だったし、吉田も本当にへこんでてかわいそうだったからな。


 そういう訳で、散歩中に逃げたという現場の公園に来ていた。


「昨日逃げたらしいんだけど見たことないかな。」

「うーん、どうだろう。野良猫なら結構いるけどねえ。犬はどうだろうなあ。お前はどう?」

「むむむ…。」


 ちなみに逃げた犬というのは、シベリアンハスキーで、名前はシルバー。オスである。


「あっ! そういえば今日の朝、こんな感じの犬を見たかも。」

「おっ、マジで!? それってどこら辺かな?」

「たしか広場のゴミ箱の近くにあるベンチの下で、じっとしてたような。」

「なるほど。とにかく行ってみるわ。ありがとう。」

「いやいや。こちらこそお腹いっぱい食べさしてもらって助かったよ。」

「うんうん。最近じゃ、ここら辺もカラスが増えてきたからね。エサの確保も一苦労さ。」

「そうか。それじゃ思う存分食べてくれ。」


 俺はそう言うと、先ほどコンビニで買ったポップコーンの残りを全て、有力な情報をくれたポッポさん1号、2号に与えてあげた。

 ついでに、ポッポさん1号、2号とは、この公園在住の鳩である。

 やはり、その土地について詳しく知るなら、その土地に住んでいる動物に聞くのが一番である。

 まあ、普通の人には出来ないけどね。ふっふっふっ。


「おお! こんなにもくれるのか! あんたは人の形をした神か!」

「俺たちだけじゃ、こんなに食べ切れん。仲間を呼ぶか!?」


 なんかポッポさん達が仲間を呼ぶ声が聞こえたけど、まあいいか。


 さて、有力な情報も入ったし、吉田が来る前に発見しますかね。

 吉田が来ると、逆に捜し辛いのだ。

 なんたって動物に話が聞けなくなるからね。

 ということで、早速ポッポさん2号が言っていた場所へ向かう俺だったのだ。


 その後、俺がいなくなった場所には、ポッポさんが13号まで増えたというのは、俺の知らない話である。


後編に続く!

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