第一話 とある昼休みにて
空は青空だ。春のぽかぽかした陽気に誘われて、俺は外で弁当を食べていた。
こういう日は、公園でのんびりとひなたぼっこをするにかぎるんだけどなあ。
「おい、なに空ばっかり見ている。本当に暇人なんだな、お前。」
「うるせぇ、ほっとけ。ていうか、何でまだここにいるんだよ。」
弁当を食べ終え、せっかく、人が気持ちよく公園のベンチの上で寝ようとしていたのに、こいつは、ものの見事に邪魔してきやがる。
「めし食わせろ。」
人様の邪魔をして言った言葉がそれか。なかなか良い度胸してるな、こいつ。
「もうないよ。残念ながら、さっきので最後だ。」
「・・・そうか。」
おっ、素直にあきらめたか。まあ、それなりに満足したってことか。
ちなみに、こいつには俺の昼飯を半分ほど恵んでやった。小さいくせに、よく食べるやつだ。
よっぽど腹を空かしていたんだろうな。
「満足したなら、さっさとどっかに行ってくれ。俺は昨日、今日の授業で提出する課題のレポートを仕上げるために寝てないんだ。それに加えて、せっかくのこんな良い天気なんだ。俺の昼寝の邪魔しないでくれよ。」
「満足などしていない。あんなまずい飯で、私が満足するわけが無いだろう。」
こいつ、俺の昼飯を半分も食いながら、なんてことを言うんだ。
まずいと思っていたのなら、あんなに食べなければいいだろうが。
「それに、昼寝というのなら、別の場所でして貰おう。お前が今、座っている椅子は普段から私が昼寝に使っている。」
俺の昼飯を奪っただけでなく、昼寝の場所まで奪うつもりか、こいつは・・・。
まあ、いいか。そっちがその気なら、こっちもやりたいようにやってやる。
「よっと。」
「なっ!」
早い者勝ちといわんばかりに俺は、座っているベンチに横になった。
一瞬、呆気に取られた様な顔を浮かべたそいつは、すぐに、自分がベンチに座る余地が無くなったことに気が付き、声を上げる。
「貴様、何のつもりだ!」
「寝るつもりでございます。」
ふざけた調子で答えると、本気で怒ったようだ。「ふっーーー!」とか言いながら、こっちを睨んできやがった。
これはこれで見てて面白いんだが、顔とか引っ掻かれそうなので、この辺にしておこう。
「わあ!」
こいつの首根っこ掴んで、俺の胸のあたりに乗せてやったら、そんな声をあげて驚いてやんの。
なかなかどうして、かわいいじゃないか!だから、お願いですから爪を立てて胸の上に立たないでください。
痛い痛い!服に穴が開くだろうが!
「だから、何のつもりだ!」
「いやいや、お願いですから、ちょっと落ちついてください。痛いって!」
俺がそう言うと、ちょっと落ちついたのか、爪を立てるのをやめたようだ。
「いいか? 俺も眠い。お前も眠い。しかし、ベンチはここの一つだけ。ということはだ。」
「ということは?」
俺は、そこで少し間をおき、一呼吸置いた後、くわっ!と目を見開き言ってやった。
「一緒に寝ればいいじゃないか!」
「・・・。」
一瞬、呆けた顔した後、どこか遠いところを見るように俺を見る目。
まあ、俺も別に変な意味で言ったわけではないので、そんな目を無視して続けた。
「それに冷たいベンチの上より、俺の上のほうが温かいだろう?」
「ふむ。」
確かに、それは一理ある。と一つ納得したように頷き、今度は俺の上で丸くなり「みゃー」と欠伸をした。
どうやらこのまま寝るようなので、俺も上に乗せたまま寝ることにした。
「そうそう。」
春のぽかぽかした陽気に誘われて、公園のベンチで気持ちいいなあとバックを枕に横になり、うとうとしていると、俺の上に乗っているそいつが話しかけてきた。
てっきり寝ていたかと思っていたけど、寝る前に言っておくことがあるらしい。
「弁当…。」
「うん?」
弁当ならさっき言った通りない。半分はこいつが食べ、半分は俺が食べたのだ。
「味はともかく、すごく助かった。二日ぶりのごはんだったんだ。」
「そうか。まあ基本的には人が食べるもんだ。お前みたいな猫が食べるようには出来ていないからな。それでも、腹の足しになったのなら、よかったよかった。」
「うん、その…。」
「うん?」
「あっ、ありがとう。」
「おう。」
まあ、なんだ。お礼を言われるのはやっぱり良いもんだ。
例え、それが猫に言われたのだとしてもだ。
そんなことを思いながら、ごろごろとノドを鳴らしながら目を瞑り、丸くなっている猫の頭をなでながら、夢の世界へと旅立つ俺だった。