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セシャトのWeb小説文庫2020  作者: 古書店ふしぎのくに
第一章 『祈りの門 朱色の喪失 箸・にしきたなつき』
9/90

最後の門番と邪神あざーとす

さて、なんだか唐突に寒くなってきましたねぇ! これは雪に注意してくださいねぇ! 私は新しいコートを着る機会が増えるので少しだけ楽しみが増えます。四季折々楽しみがありますが、この寒い時期は炬燵に入ってお気に入りの本を読むというのがベストかもしれませんねぇ!

「この流れで行くと、またあの頭のイカれた女の子の獅黒がいると考えるべきだろうか?」

「どうでしょう。ヘカさんは目立ちたがりですからねぇ。その可能性は大いにありえます」



 ガチャリと開けるとそこはレストランのようだった。それもこ洒落たレストランじゃない。昔のデパートの最上階にあるような洋食レストラン。

 そこにやってくるのは眼鏡をかけ、角の生えたショートカットの女の子。ヘカではない……。セシャトは誰だろうと思っているとクリスは冷や汗をかいてその少女を見つめる。



「実に趣味が悪い。君の名前は?」

「私は、獅黒です。貴方達にのお食事のひと時を最高の物にするコンシェルジュです。こちらメニューになります」



 メイド服のようなエプロンドレスに身を包んだ少女。何処となく誰かに似ている気がセシャトはしていた。



「まぁいいや。僕はメロンソーダにオムライス……いや、お子様ランチをもらおうか? セシャトさんはどうする? 今時分、お子様ランチなんて中々食べられないと思うよ」

「プリンアラモード付きですか! では私もお子様ランチと珈琲をお願いします」



 獅黒は眼鏡の位置を直しながら頭を下げて注文を承る。インカムに手を当てて注文を通したようだ。獅黒・彼女曰く、お客様を楽しませる話を始めた。



「死者が自らが死んだ事を気づかない事に関してどう思いますか?」



 セシャト、クリス共に頼子の事だろうと思う。それにクリスが話す前にセシャトが語る。



「死者がなくなった事を気づかないのではなく、生者が亡くなった方に未練を持つからです。想いは形を持ち、残る。いえ、遺るのです。そしてその方は想いだけを持って彷徨うから……と言われていますね」

「ではそちらの兄さんは?」

「……っ、そうだね。死者は語らない。と言っておこうかな。だから指輪が残ったのさ」

「成程、ありがとうございます。この祈りの門がナビダイヤルである理由は?」

「ナビダイヤルは有料ダイヤルだから、繋がらなくても課金されていく。それに気が狂って電話を切ってくれるという事を狙っているのさ。それにしても狐の面の形をした、生態HUBかな? 実に興味深いね」



 クリスの言葉に対して、獅黒は手を向けてこう言った。



「あちらに同じ物をご用意致しました」



 クリスはすぐに見に行くのだろうかとセシャトは思ったが、クリスはお冷を飲みながら笑う。驚かないのである。



「異世界の言語を変換する事なんて簡単だとは思わないかい? 所詮は言葉さ、僕等は意味不明な仕組みを人間の言語に変えてきた恐らく全宇宙最高の知能を持った生物じゃないか、だから手当という物があるんだよ」



 クリスは面白い事を言った。それに無表情の獅黒は初めて不思議そうに首をこくんとかしげて見せた。セシャトはその様子に愛くるしくなる。



「実に可愛い獅黒さんですねぇ! ヘカさんのそのあからさまな偽物とは違って……むむむむ。それにしても手当とは?」



 クリスは失礼と一言言ってセシャトの手にクリスは自分の手を乗せる。そしてクリスは語る。



「母親が風邪を引いた子供に手を当てるだけで、症状が和らぐ事がある。それと同じで身体を重ねる事で精神的な安心を求める事が出来るんだよ。その衝撃は場合によっては麻薬の快感を越えてしまう。故に依存する。性欲と食欲が一緒になってしまっているんだろうね。君ではない獅黒氏はね」



 子供に見える少女獅黒に生々しいお話をするクリスを制止しようかと思ったが、獅黒は至って普通にセシャトとクリスの手元にとある果物を用意する。



「前菜のイチジクでございます。どうぞ、ナイフとフォークで召し上がり下さい」



 セシャトとクリスは言われた通りにそれを静かに食べる。セシャトはあまりのおいしさに叫ぶ。



「はひゃあああ!」

「子宝に恵まれる。祈りの門の住人へのあてつけかい? こちらの獅黒君?」

「いえ、考えすぎです兄さん。新鮮なイチジクは冷やしていただくだけで最高のスイーツであり前菜になりえます」

「成程。一本取られた。ここはそういうところか。じゃあ話を変えよう。貧しい少女にサンタはこないが、サタンが来るという事に関してどう思う?」

「その言葉を変化してお返しします。兄さんはもし、命にかかわる少女からの助けに対してどうしますか?」



 クリスなら笑って助けるとそう言うだろうとセシャトは信じていたが、クリスは言葉に詰まるようになんとも彼らしくない返答をしてみせた。



「さぁ、どうだろうね。場合によっては見限るかもしれないね。言わせたいのだろう? 僕に人間の限界を、全ての人間を僕では救えないと」

「最高の回答です兄さん。兄さんはどんなお仕事をされているのですか?」

「ありがとう。素直に喜んでおくよ。僕はね。自分の会社の全ての仕事をした事があるんだ。掃除も秘書も事務も、開発も製造も営業も、そしてコールセンターもね。自分の目で見て必要な物と不要な物を知る為にね。だから彼らの働きぶりは実に素晴らしい業務提供したいくらいさ」



 クリスが引いた。常に自分のペースで語る彼を引かせる獅黒。彼女は一体何者なのか? そしてセシャトはプリンアラモード付きのお子様ランチはいつ来るのか同時に考えていた。



「そちらの姉さん」

「あっ、はい! 私ですね」

「ヨグ=ソトースについて語って」

「そうですねぇ、雑誌連載のキャラクターとしては最古かもしれません。エイリアンをさしていると言われている異世界の神様ですよぅ」



 クトゥルフ神話に名前が出てくるその神だが、クリスを獅黒は見るのでため息をついて語った。



「クトゥルフ神話はそもそも週間か月間か作り話が上手な人の作品を纏めた物を雑誌連載した事で知名度上がったんだよ。そしてヨグ=ソトースはその風刺だ。大いなる嘘。作り物ですと宣言だね。だから、外から来た者ってことさ。こんなところでいいかい? 獅黒君」



 うんともすんとお言わずにインカムに耳を当ててから獅黒は何もないところから何か液体の入ったグラスを取り出す。



「ミックスジュースです! さぁ、冷たい内にどうぞ。そして兄さん、ミノタウロスの迷宮について教えてください」

「君は少し自分で調べる事を……」

「兄さん、教えてください」

「迷宮というのは隔離施設だ。入り組んでおけば逃げれないあるいは勝手に死んでくれる。そしてそこに入れられる人間は、ミノタウロス。化物と揶揄されるような可哀そうな人間の事だよ。ある種、祈りの門はミノタウロスの迷宮か」



 セシャトは静かに非常においしいミックスジュースを楽しんでいる。そしてこのクリスがいると自分の存在理由に関して考えさせられてしまうなぁと少しばかり凹んでいると、獅黒はまたインカムを入れてから頷いて次のお皿を出した。



「たこ焼きのマヨポンに、アメリカンドック、そして回転焼きです」



 セシャトはお子様ランチを頼んだハズなのだが、お次は屋台に出てきそうなフードを持ってくる。



「マヨぽんとは?」

「マヨネーズにポン酢を混ぜた最近流行りで若い女性に人気のたこ焼きのソースです」

「えっ?」



 当初はマヨネーズとポン酢は混ざらないので合わないと言われてきたが、ソースたこ焼きとは違った病みつきになる味に今では人気のたこ焼きの味付けとなっている。まぁそんな事より何故このフードなのかと思ったが、クリスは文句を言うわけでもなく食べ始める。



「クゥトゥルフねぇ……海外版というかアメリカ版妖怪大辞典と言った方が分かりやすいか、這いよる混沌、セシャトさんと同種の神様だったか?」



 大判焼きに大きく口を開けて食べようとしたセシャトは名前を呼ばれて固まる。



「私ですか? 私はクトゥルフさんの系譜とは関係がありませんよぅ! ちなみにですが、同名のエジプトの神様とも関係がありません」

「いえ、セシャトさんは周囲からあざーとすと呼ばれているでしょう?」



 言われている。普通にしているつもりなのに、”あざとい”と邪神アザートスをかけて……それにセシャトは頬を膨らませて怒るような仕草を見せるとクリス、そして獅黒は指を指して同時に言った。



「「あざーとす!」」

「いじめないでくださいよぅ!」



 クリスはナプキンで口を拭いている。そして出された屋台フードを全て食べ終え、ミックスジュースで喉を潤していた。



「イチジクは願いの代価、屋台は神々の御前へ至る為の食事か、そしてミックスジュースは祈りの門に至る為のお神酒と言ったところかな? 急造ながらたいしたものだよ。獅黒君」



 そう言ってクリスは立ち上がると獅黒の頭を撫でた。多分、絶対にヘカが獅黒となっていた姿にはしない優しいクリス。

 それに獅黒は嬉しそうにほほ笑む。セシャトもようやく気付いた。クリスとセシャトは物語を読み同化していたのではなく、強制的に物語を反芻させられ、同化を強制させられていたのである。

 それは役割を与えられた門番達も皆同様。まぎれもなく、この妬みの門は実質イフの世界の祈りの門なのである。



「成程、作者さんの伝えたい事を全体を通じて何者かがこう言った場所を作り上げたという事でしょうか?」

「さぁ、どうだろう。あのヒヨコはあの悪魔の加護を受けているが、こんなイカれた物語を考えはしないだろうね。なにせ、生まれてくる事ができなかった僕の妹を門番として出してくるくらいなのだから」



 クリスは今だ頭を撫で続ける獅黒を見て愛おしそうな表情を向ける。セシャトもようやくこの獅黒が誰に似ているのかが分かった。

 目の前のクリス。そしてその妹、アリアに似ているのだ。されど、純粋な日本人のように見えるので女体少女化した獅黒本人かと思っていたのだが……



「えっと……アリアさんは? 妹さんですよね?」

「あぁ、そうだね。そういう世界線もあったのかもしれないね」



 物語が終わり、扉が閉まるような音をセシャトは聞いたような気がした。この世界は物語を読む速度と同じ速度で動いている。セシャトは思い出したのだ。



「そうです! 祈りの門は今、繁忙期なんです! 」

『祈りの門 朱色の喪失 箸・にしきたなつき』本作は実のところ、イフの世界を反芻する物語が多いですよね? 今回はそんなありえないイフの物語を上から下まで展開しておりますよぅ^^

最後の門番はクリスさんの、本来生まれてくる事が出来なかった妹さん……だそうです。どういう意味でしょうね? さぁ、次回1月紹介最終話です^^

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