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セシャトのWeb小説文庫2020  作者: 古書店ふしぎのくに
第一章 『祈りの門 朱色の喪失 箸・にしきたなつき』
8/90

数パターンの読者 ありえない可能性の門番

この前、バストさんとパンケーキを食べ歩いたのですが、チェロドッグという新しいスイーツを食べましたよぅ! フランクフルトをチェロスで撒いてシナモンシュガーとケチャップとマスタードをかけて食べるのですが……中々冒涜的なおいしさでしたよぅ!

 セシャトとクリスは第四の門番。そして三番目の面接会場にやってくる。ドアに触れると今まで見た事のないくらい嬉しそうな顔をするクリス。

 そしてセシャトに言う。



「セシャトさん、オオカミがいるようだ。少し僕から離れて入っておいで」



 なんの事かと思ってセシャトは離れる。クリスはノックをしてからガチャりと扉を開けた。



「去死ロ巴!!」

「ちゅんすーばーって、久しぶりだね。大陸の木人」

「木人じゃない。季朽葉だ外道! そして死ね」



 クリスに向けて小さなナイフ突き出すが、それをクリスは避けると肘と膝で木人もとい季朽葉の腕をボキりと大きな音が響く程に叩き折った。



「沢城さんや、あの欄とかいう売女より、僕が弱いとでも思ったのかい? 僕より優れた人間なんているわけないだろう?でも、悲鳴一つあげない事は偉かったね。セシャトさぁーん! もう入っていいよぉ!」



 少年のようにそう大声でセシャトを呼ぶクリス。セシャトが入ってくると身構えていた木人もとい季朽葉が折れた腕で頭をさげる。



「いらっしゃい。第三の面接会場へ、門番の季朽葉だ」

「おや、凛々しさは季朽葉さんっぽいですねぇ! って、腕が変な方に曲がってますよぅ!」

「そこの外道に折られた」



 クリスは何もない事を二人に手を見せてから手を閉じる。そして棒付きのキャンディーを取り出す。



「木人。腕を治してあげよう」

「は?」

「いいから」

「むぐっ!」



 口の中に棒付きキャンディーを突っ込んでそしてスマホのような機械を向ける。折れたハズの季朽葉の腕が元に戻ったのである。



「シネぇ!」

「もう。また折られたいのかい? あの愚かな神に助けられた命だ。そんな事より、『祈りの門 朱色の喪失 箸・にしきたなつき』を読もうじゃないか。好きだろ? 小説。Web小説疑似文庫化!」

「えっ!」



 セシャトの前で、神様の奇跡。セシャトの金色の鍵で扱えるその力を使ってみせた。取り出したそれを季朽葉に渡すと木人もとい季朽葉は門の仕事を放棄して読みふける。それにセシャトは嬉しくなって横に座った。



「横、失礼しますねぇ! 魔法が使えない人でも魔法が使える魔封クリスタル。面白い道具ですねぇ! 魔道具なんて言われてよく扱われるギミックですよぅ!」

「知ってる! 直符!」



「おや、御存知でしたか。それは確か中華読みでしたか?」

「不受の愛、同性愛は子を成さないが故に、推奨されていた教育があった。自由の愛、歴史の偉人も同性の子供を愛人に持っていたという」



 木人もとい季朽葉の話を聞いて、棒つきキャンディーを咥えていたクリスは足を組んでからこうつぶやいた。



「プラトニックラブか」

「むむむむ、そうなんですか?」

「一概には言えないけど、プラトニックラブっていうのは、心の恋愛ではなくもっと獣じみたものだよ。プラトンは少年趣向をもった人間でね。同性愛こそが、真実の愛と説いた。何故なら子をなさない、神の僕たる人間を生み出さない性交。それこそを至高としたんだよ。ここで恋する木人に話を聞こうか?」



 季朽葉はクリスに話を持ち掛けられ、自らが愛する者の顔を思い出して頭から湯気が出る。それにクリスはひどくつまらなさそうに、セシャトは恋バナに興味深々で見つめる。



(おれ)は……」

「いいよいいよ。話さなくても。そう、今回のこの第四章は少しややこしくて過去バナだ。なんとなく流し読みをするWeb小説読者には頭に入ってこないだろうね。でも、僕や木人、君のような活字に憑りつかれた人間からすれば御馳走のような物だよね」



 ややクリスを警戒しつつも木人こと季朽葉はうんうんと頷く。



「自分だけの物にしたい。晶の心は正直。外道の言う。プラトニックラブがここで展開されていく」



 クリスはため息をつく、ようやく気付いたのかと……ゆっくりと作品の読み取り方をクリスは木人もとい季朽葉に教えているのである。

 季朽葉は疑似文庫で顔を隠しながら、男性同士の秘め事に関して興味深そうにしている姿を見てセシャトは木人こと季朽葉は優秀な腐女子の才能という頭角を現しだしたなと思っていたところ……気づいてしまった。



「クリスさん、今季朽葉さんが読まれている作品ですが、もしや……」

「あぁ、うんそうだよ。セルバンテス版を疑似文庫化したんだけど、何か問題でも?」



 セシャトは木人もとい季朽葉に年齢を聞いてから、疑似小説文庫を取り上げた。



「年齢制限は守らないとダメですよぅ!」



 セシャトが取り上げた疑似小説を季朽葉は取り返そうとするが、セシャトはその本をぱっと消して見せた。



「確かにセルバンテス版もとてもリアリティがあって面白いですが、ここは服や小物を使った描写の巧みさから、描写を夢想してみましょう。悔しさや、憤り、そして小さな怒りを言葉として表現せずに全て事後としての表現ですねぇ」



 季朽葉は、セシャトにそう言われて考える。そして作品のキャラの気持ちを理解し、表情を歪める。そして一言。



「慎一が可哀そうだ」



 そう季朽葉は読んだ。それにセシャトは驚き、クリスは笑う。そしてクリスは自分の出番かと話しに割った。



「僕は愛と恋を本気で感じた事がないんだ。かたや、ここも本物も別世界の季朽葉も愛と恋を知り、そしてそれに蝕まれる。教えてくれないかい? 愛とは恋とはどんな気持ちになる? 犯し、犯され、そして食い散らかす野蛮であり純潔。人の生み出した最高傑作の感情・愛」



 季朽葉とクリスは全く真逆の感想をこの項目に抱いていた。手に入れたくても手に入らない愛。そして無理やり手に入れても意味のない愛。クリスは続ける。



「僕も律氏と一緒でね。通い詰めていた古書店が消えたんだ。ピンクの髪の女が偉そうに店番をする酷くつまらない場所だった気がする。でも僕は誰にも慰めてはもらえなかったさ。だから、僕は祈りの門に至るに足る権利を持っているんじゃないかなって思うのさ」



 セシャトは驚いた。ここは普通に読めば感動的な部分である。が……クリスのように読み解く事もできる。天上の頂、所謂祈りの門の開場の理由付けという二重設定。いや、いくらなんでもそれはクリスの深読みすぎるだろうと、だが木人もとい季朽葉はまさに今、クリスの考えに流されつつあった。

 セシャトはこれはダメだなと思ってしまう。物語の考察は自由である。されど、感情や感想の押し付けは絶対に行ってはいけない。

 それ故、セシャトは最善手を打った。



「それにしても獅黒さんとヘカさん。表現は似ているんですが、見た目もキャラクターも全然ちがいますよねぇ!」



 漆黒の衣に身を包み、やや不健康そうで、そしてどちらかといえば負のイメージを持つ存在。されど、方やミステリアスで掴みどころがなく、かたや底が浅いのに皿が広すぎて拾いきれない。セシャトのその発言はクリスの不快にさせ、季朽葉は何を言われているのか分からなかった。



「たまに入る、唐突な痛いコメディは照れ隠しだと、そう言いたいんですよ。木人。いいえ、万に一つもありえない可能性の季朽葉君」

「何? 全然分からない」

「この作者は”やおい”という物をよく知っている。あえて、ヤマ無、オチ無、意味無の三原則をこうして守った。まさに、愛だな。僕はね。この作品を面白いという人間は三パターンくらいに分かれると思う。一つは当然BLを好む古き良き読者だろう。そしてもう一つは独自の見解を持って作品を読む僕やセシャトさんのような、最低の読者だろうね。最後の三つ目は最も罪深い……」

「それはダメです。クリスさん、ダメですよぅ!」



 本作はしっかりとしたストーリを持たせておきながら、根本たる”やおい”要素を殺さない珍しい作品である事は確かだろう。昨今は性癖に貪欲な作品は減った。エロ同人誌ですら最近はメッセージ性の強い物が多い昨今でだ。メリハリをつけて作者の性癖というより個性をしっかりと表現しているのかもしれない。

 最後にクリスが言おうとした事をセシャトは止めた。クリスの言う最低な読者は、隅から隅まで見渡せる視野を持ち、それ故に何も見えていないのだ。そんな読者よりも罪深い読み手という者。それをテラーたるセシャトは絶対にクリスの口から言わせるわけにもいかなかった。



「クリスさん、確かにこの作品との同化を果たせば、恐らくその解答に至るでしょう。ですが、それは神のみぞ知る事です。いけません」



 律も慎一も晶も孝博も恐らくはそれを体現した者なんだろう。分かったからこそ、傍観すべき事がある。クリスは、当てはめたのだ。この妬みの門の門番達とオリジナルの彼らとの似て非ざる共通点を……



「そうだね。セシャトさんの言う通りだよ。まだ僕は人間だし、可能性の一つとしてこの仮初の門番達の意味をようよう理解できるかもしれない。が、それはやはりこの一言である程度説明ができるよね? 祈りの門に縛られた者達は皆一様にワーカーホリックだよ」



 言ってしまった。この作品の反芻を繰り返すキャラクターの動かし方、ある種独特なループ物の作品。飽きを楽しむという事が出来る者が到達できる作品。そういう読書の仕方をセシャトやクリスはワーカーホリックと呼ぶ。

 本の虫と似て非ざるそれはエンゲージメントによって評価が分かれる。人間の至高や行動パターン、さらに感情という神、この場合は作者のみぞ知る部分があり、本作の全てを完全理解する事が出来ない。単純に文章として書かれている事以外の考察を逐一考えていくと、その分岐の数は多く、とくに伏線というわけでもなく明言されない部分もある為、それを面白いと思えるかどうか、まさにセシャトやクリスのような自己解決してしまう読者よりさらに一歩進んで混乱する読者がいるという事。それも自身の回答を出さずに、混乱したままそれを楽しんで次に進むわけだ。

 クリス的に言えば、それは作品との向き合い方としては罪深いと言いたいのだろう。そしてセシャトはクリスに楔を打った。



「クリスさん、この際ですのでお伝えしましょう。そこに至れる読者さんは、最高深度の同化を果たせるんじゃないでしょうか?」



 この作品でそれが出来る人物をクリスは容易に想像した。あのピンクの髪をした女店主。



「あぁ、やはり彼女は僕を掌の上で遊ばせたいようだ。木人、中々楽しかった。僕等は次に進むとしよう」



 貴公子、クリスはもはや一人の幼い悪ガキのように満面の笑みを浮かべて握りつぶすように履歴書を掴んで第三会場から出て行った。

さて、去年とっても人気の高かったキャラクター木人さんが季朽葉さんとして登場します。『祈りの門 朱色の喪失 箸・にしきたなつき』神様と一緒に読める日が来るといいですね! 次回、最後の門番が登場しますよぅ! さぁ、誰なんでしょうね!

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