作品から読み取るメッセージとディープキス
さて、ここ最近アイスを食べる量が増えていますねぇ……きっとこれはダンタリアンさんとよく一緒にお話しをする機会が増えたからでしょうか? 冬に食べるアイスは何とも言えないおいしさですよねぇ! 炬燵に入りながら、ハーゲンダッツを頂く事が冬の至福です^^
「セシャト、そのカフェおーれとやらは完成したのか?」
第二会場。魔王こと蘇方が門番を務めるそこで、クリスはいつしか蘇方の豪華な椅子に背を預け、蘇方はソファーに座りながらセシャトとクリスの履歴書を眺めてカフェ・オレが来るのを待っていた。
「身分の違いで結婚ができんとは異なることだな。そんなものは理由にはならんぞ! 違うかセシャト? 王たる者。有能な遺伝子を残す為に身分ではなく能力を選ぶものなのだ」
コトンとセシャトは蘇方とクリスの元にカフェオレとミルクキャラメルを置くとふふふのふと笑う。
「さぁ、どうでしょうねぇ。クリスさんはどうお考えですか?」
クリスはカフェオレに口をつけてから、呟く。
「魔王と意見は同じかな。でも、ヴェルデの気持ちを逆説させるにはとても正道の発言とも取れるんじゃないかな?」
その通りなのだろう。クリスは一つセシャトと蘇方に質問をした。
「よく、家具を動かすと地下に続く隠し扉がある。これってよくある描写だけど、どうしてこんなことになってるか知っているかい?」
クリスはウィンクをしてみせる。それに魔王こと蘇方は語る。
「それは王侯貴族達は、好き放題拷問部屋から、逢引き部屋まで作っておるのだろう。その自分の私利私欲に任せてなぁ! こうに違いない」
「何故でしょう? 私もアズ……蘇方さんとほぼほぼ同じ考えなのですが……」
クリスの口には合うとは思えないような市販の駄菓子であるキャラメルを口に運びゆっくりと咀嚼してから答えた。
「日本家屋では中々ありえないんだけど、海外は家を継承する傾向にあるんだ。そして建て増し、元々の部屋を使わなかったりで。作るつもりがなくても隠し部屋や地下室ができあがるのさ。それ故、実は自然なんだよね。逆に言えば日本家屋をモチーフにした作品でこれをしてしまうとあまりにも不自然。何にも考えていない証拠の一つでもあるかな」
プロ作家でもあるクリスはそれなりに厳しい事を平気で言ってのけた。このシーンは洋風モチーフの異世界の為、違和感は極小。さらにこのシーンに関してクリスは清々しい表情で語る。
「イトハ氏は僕は気が合いそうなんだけど、少しだけ甘いかな。僕ならより人に近い夢魔でもより副作用のない者をそのまま作り上げてみせるけどね……アレみたいに」
「アレですか?」
「いや、独り言さ。でもいいよね。この正道の悪党ってのはさ。出る作品を選ばないんだ」
そう言って座りながらクリスは両手を上げて目を瞑る。本人も気づかない内にクリスが憎む大悪魔のポーズを取っていた。
魔王もとい蘇方はイトハの行動に関してクリスとは真逆に不快感を表していた。
「外道ではないか……そしてハストルとやら、愚かだぞ。情報は命だろうに……国を殺す気か?」
「いやいや、魔王。僕だって情報の千や二千くらい差し上げれるよ? 本当に優秀な王はいかなる物を奪われてもなんら問題ないものさ。君はよほど間抜けで愚かな王らしい」
「言わせておけばっ!」
魔王こと蘇方は目を瞑って握りしめた拳をクリスに向けて振り回す。そんな蘇方を妹でもあやすようにクリスは戯れる。
「祈りの門に至る……愚かだとは思わないかい? 魔法が使えるなら、それでその頂きに上るべきだ。僕はそれを科学という僕の魔法で行う。至れぬのは力が足りないからじゃない、努力が足りないからだよ。違うかい魔王?」
「いや、余は天国に至った事はないからなぁ」
そう言ってクリスの膝の上に座りながら魔王こと蘇方はキャラメルとカフェオレを楽しむ。セシャトはこのクリスは小さい子を相手にするのが上手だなと思う。やはり、クリスとアリアも祝日はこんな風にしているのだろうかと一人で勝手な想像をしていたらクリスはセシャトを見てほほ笑む。
「セシャトさん、魔法と魔術の違いを知っていますか?」
「いえ……いくつかの作品では魔法は天に至る法で、魔術はそれを簡略化し人間でも扱えるような物などとは言われていますが……」
クリスは何が面白いのか顔に手を触れて大笑い。それすら品があるのだからシャレにならない。
「同じものなんです。いわば、パンケーキとホットケーキの違いくらいでしょうか? 何処ぞの盗作ゲームライターがこれまた、そう言う設定を最初に持ち出した『魔術師オーフェン』から盗作し、言い出したような事を鵜呑みにした連中がセシャトさんの言ったようなことを述べているんだけど、魔法も魔術も実際人が扱えるようなものではない。ファンタジーの力なんだ。ただ言い方違うだけさ。だから、この作品のように魔法として扱う事の方が実は正しい。存在しない物に術という言葉。実は矛盾しているんだ」
棚田クリス。作品を囲い読み取り、そして語る。魔導に堕ちるという意味でも魔法を使い祈りの門に至るという言葉はしっくりとくる。
「確かに余も魔法を使うが魔術と言えば、魔法をスクリプト化した際の覚え方の事だからなぁ……ちなみに世界線とはなんぞ?」
クリスは数本ピンと反りあがっている魔王こと蘇方の髪の一房を指で摘まみながらそれに応えた。
「矛盾の証明の事だ。例えば、僕と君が会わない世界があったとしたら?」
「ふむ……お? それはおかしくないか? 余と貴様は出会っておる」
「そういう事だよ。例えば、もしも、イフの事象は絶対に起きないという証明。それが世界線。またの名を有名な言葉でシュレディンガーの方程式だね」
「あぁ! あの猫さんですか?」
「うん、そうだね。外道過ぎるネコさんの実験だよ」
そもそも、クリスもセシャトも読者もそしておそらくは作品内で息をしている彼らもまたやり直しはできない事を知っている。それは自己満足なのだ。されど、人とは弱い者。弱いが故に自己満足を通さねば気が済まない。
そしてクリスは本来門番が座るハズの椅子に座って、魔王こと蘇方が行うハズの面接のように蘇方に尋ねる。
「丁度いいや。魔王という者は後悔をしたりするものなのかい? 冥府魔導に堕ちたる王。魔王。魔物達の王。魔王。魔法を極めし王。されど、全て魔なる者の王。そんな者が果たして後悔なんてするんだろうか?」
「いや、余は後悔なんぞした事は……ない事もないかもしれん」
「ふふっ、愚かな魔王。ありがとう。素晴らしい回答だ」
後悔などその程度のものなのだろう。故に人の宿命に魔王は荷が重すぎる。そこでクリスはまだ何か言おうとしている魔王こと蘇方を無視してから語る。
「祈りの門は願望機ではあるが、願望器ではないという事なんだろう。言葉は永遠となるが、その永遠を保っておく物じゃないという事なんだろうね。それ故、いかにあの異常なる場所でもできる事とできない事がある。まさに……愛だな」
何かを理解したクリス。彼はストルガツキィの作品といくらか酷似するところから、人の思い描く到達点はある程度同じ場所なのかもしれないとそう考えた。
「もしかしてクリスさんは……」
「うん、この作品は人間ドラマでも単純な同性愛でも、ミステリーでもないよ。人間科学を体現していると言えるね。難しい話じゃないんだ。ただそうありたい。自分の幸福ってなんだ? その答えをある程度知っている上で妥協せねばならない人間の在り方について書かれているとすれば、恐ろしいよね」
難しい話をしすぎて魔王こと蘇方はちんぷんかんぷんでクリスを眺める。
「貴様は何を言いたいのだ? 愛を語ったかと思うと、願いは叶わぬと言ってみたり、叶うと言いだしたり、その心は何か?」
「愚かと思ってたけど、君は僕のところにいるアリアより賢いな。本質を変える。祈りの門がそういう仕組みであればその仕組みの穴を見つける必要がある。祈りの門の割り出す世界と、自らの望む結果とが合致する妥協点。ただし、そんな物で納得できる者はその門をくぐる価値はなし、難しい話だ。獅黒は、僕がしたい事。そしてセシャトさんが疑似的に行える事をして、大変な事になった。そりゃそうだろう。この作品でも並行世界はありえない、並列世界線でしかないのだから、可能性がなくなればおのずとその線は切れなくなるだろうね」
もしもの話ではなく、今の話で獅黒は世界線に囚われる。まさにここは上手い作りだった。祈りの門という特異点の弱点及び、その整合性を取る為の動きが始まる。
「セシャトさんに魔王。ディープキスの経験は?」
「はっひゃああ! あるわけないじゃないですかぁ!」
「貴様、セクハラか?」
フンと鼻で笑いクリスは語る。
「性交もそうだけど、口内で求めあうというのはある種、粘膜の関わりだよね。それは一つの性交だと僕は考える。そしてそれこそが、男女でなくとも平等に感じられるそれだとね」
そう言ってクリスは魔王こと蘇方に近づく。
「な、なんだ?」
「知っているか魔王、姫は王子の口づけで目を覚ますものなんだ?」
セシャトは両手で顔を隠しながら指の先からその様子を見つめていた。クリスは魔王こと蘇方に口づけをする。
「むむっ!」
それは暴れる魔王こと、蘇方を抑えつけ力強く。そしてしばらくするととろんとした表情で絡み合った唾が糸を引くくらい長いディープキス。突然何が起きたのかと思ったが、クリスは片手でスマホのような物を操作し、その腕に何やらガントレットのような物を取り付けた。
「……さようなら魔王。君はここには相応しくない。帰るといい、ここじゃない僕等とは違う世界に」
クリスはそのガントレットで魔王こと蘇方の腹部を突き刺した。
「クリスさん!」
無理やりクリスのそのガントレットを引き抜くと魔王こと蘇方は蹲りながらクリスをギンと見つめる。
「余をここから解き放った事に関しては……礼を言う」
「礼には及ばないよ。君の事はとても気に入ってしまった。それに御馳走になった牛乳の代金代わりさ。魔王の最期はここじゃないだろ?」
椅子に座りながらクリスは手を振るとガントレットは消え。代わりに柘榴の髪飾りが現れる。元の世界へと消えゆく魔王こと蘇方の髪にそれを挿した。
「貴様、やり方がな? さすがに余もはじめてだったのだから……いくらなんでも……アレはなぁ……」
「処女じゃあるましい」
「処女だぁ! 次の門番はこうはいかんぞ」
クリスは机の上にある履歴書を取ると一枚をセシャトに渡す。セシャトは一体自分は何を見せられているのかと終始困惑しながら、クリスの後を追った。
さて、今回クリスさんがとんでもない事をしてしまいましたね^^ このくらいでは注意勧告もされないと思いますが、作品に沿ってクリスさんも同化を始めました。魔王アズリタンさんの友情出演は今回で終了です。次回はあの人がやってきますよぅ!
そして、当方のパロディと本家の『祈りの門 朱色の喪失 箸・にしきたなつき』の温度感を比べてみるのも面白いかもしれませんねぇ!