第二会場、牛乳を注ぐ事を極めし魔王・蘇方
新しいipadを頂きましたよぅ! ダンタリアンさんが来てからapple製品率が高くなってきましたねぇ^^
そしてダンタリアンさんのご自宅の冷凍庫ですが私専用とでもいう程アイスが入っています。ダンタリアンさんが大好きなアイスクリームはドナテロウズだだそうですよぅ! 私もたまに新宿で食べるのですが、ザ・ジェラートですねぇ^^
「セシャトさん、君の壊れた友人……ではなく、獅黒だったか? 奴に渡されたこれは一体何かな?」
プルプルと手を振るわせてクリスが握っている物。去り際にヘカもとい獅黒に渡されたのはセシャト、クリスそれぞれに履歴書だった。
「恐らくは物語への同化だと思うのですが……私もクリスさんも一応は雇用主ですからねぇ……履歴書はいくらなんでもあんまりですねぇ」
そう言ってふふふのふと笑い、言われた通り真っすぐ歩くと、次の部屋への扉があった。
そこをノックすると声が帰ってくる。
「入る事を許可するゾ」
クリスがドアノブに手をやって開けると、そこにはヘカよりも小さい女の子……カーティガンを着たというか着せられたような多分人外。
頭には何かのヒーローらしきお面を斜めにお祭り被りしている。
「貴女は誰ですか?」
セシャトの質問に幼女は笑う。
「頭が高いわぁ! 余は蘇方。貴様等を魔王軍に入れるかの面談……ではない、この妬みの門の面接をあの小憎たらしい、獅黒にまかされておる。ここに人間が来るなんぞ、中々ない事だからな。何か余に面白い話をする事を許可してやろうぞ! 光栄に思え、ゴミ以下の人種共め! 精霊王も小僧もおらんから、暇で暇で死ぬところであったわ」
ヘカ、もとい獅黒とは違ったベクトルのテンションを持つこの幼女を前にクリスはため息をつきながらパイプ椅子に腰かけると目を瞑った。
「何故、季朽葉ではなく蘇方なんだ? 魔王なんだろ……」
クリスはツッコんだら負けだと確信してセシャトに任せて昼寝でもするようにぐったりと脱力した。
「時にそこな小娘よ。柘榴とは何か? うまいのか? 蜜柑やバナナより」
成程。
ネロが口にするという柘榴について興味を持った魔王。もとい蘇方。これが日本人の考える柘榴と海外の人が考える柘榴で大分変わってくる。
「ペルシャ等で食べられる柘榴は桃やサクランボのように甘い種の果実です。逆に日本では酸味がきつくて病みつきになる果実ですよぅ」
よだれを垂らしながらセシャトの話を聞きつつ。魔王もとい蘇方は聞く。
「少年を喰うとは、美味いのは身体の柔らかい雌ガキではないのか?」
「ふむ、本作では男の子を指してはいますが、そもそも少年とは幼い子供の事を言います。故に女の子でもいけなくはないでしょう。身体の穢れもなく、魂の質を栄養とされるのであればですがね」
「夢魔の癖に餌のえり好みとは良い身分だな! されど、恋しい者でなければ嫌というのは分からなくはない……が、余が解せんのは何故雄同士でまぐあう? 避妊か? 淫魔であれば性別の垣根などはないも頷けるが、しかし眷属の作り方まであるとは何者だこやつ」
やおいの『や』すら知らないであろう魔王もとい蘇方にセシャトは閉口する。ここでこそ、ふて寝をしているクリスの出番ではないかとチラチラ見るが、彼が協力してくれそうにはない。
「人肉を喰うと中毒を起こすのか? 余は食った事はないが、ドラゴンとかその辺のバケモノは丸のみにしておったぞ」
詳しくそのファンタジーのあれこれの話を聞きたいなとセシャトは思ったが、中毒を起こすというのは物語の設定で……等理解してくれそうもない。
「プリオン病だ。その昔、サルの脳みそを宮廷料理で食べた古代中国の貴族も患ったと言われている」
「クリスさん!」
クリスは頭を抱えながら身体を起こすと真顔でこういう。
「ネロ、もとい本物の門の番人の夜の相手をするに、君たち女性ではなく、僕ら男である必要があるのか……それは僕等男は本能的に君たち女性、いや雌を恐れているんだ。僕等は君たちがいなければ生まれてくる事はできない。それが鋼鉄の子宮だったとしてもね。それ故、恐れる者を攻撃してしまう。されど、理解し甘えようともする。そして、君たちになろうとする。これが人間の雄の一般的な反芻行動だよ。故にこの門の彼らは安心できる同類を求め、されど女性という者への理想も忘れてはいない」
饒舌なクリスの話を聞いて、魔王もとい蘇方はぽかーんとした顔をする。
「貴様は何を言っているのだ? さっぱり分からんぞ? もしかして馬鹿なのか?」
セシャトは表情にこそださないが、多分クリスはイラだっているような気がしたので、魔王もとい蘇方に説明をしてみせた。
「今回の章に関しては、共依存という物を一つのテーマとして読み解く事ができますよぅ! 蘇方さんには何か相手にすがったり頼られたり、そして相手もまた同じような関係性だった経験などありますか?」
少し考えてから魔王もとい蘇方は頷く。狭い部屋の片隅にある小さな冷蔵庫から魔王もとい蘇方は牛乳を取り出すと三人分コップに注いで配る。
「余はここだけの話、魔王だからなっ。余を慕う屈強な臣下達、そして彼奴等の働き無くして余もまた魔王としては振舞えんかったろう。あと余がおらんとピーピー泣きわめく、精霊王と人種の小僧がおってな? 余は食い物を奴らに所望する。一つの共依存だな。にしてもだ。こやつら、うじうじうじうじと、つまらん話に華を咲かせておるよの? 戦争というものは滅びるか、滅びぬかのどちらかでしかなかろう」
「原始人か君は? 戦争というものは通常よりやたら命が失われる政治活動の一つだよ」
ハストルの未来的思考の前に戦争という概念について語った魔王もとい蘇方にツッコむクリス。されど、クリスは牛乳を一口飲み魔王もとい蘇方を見つめる。
「ただ、戦争程。国が豊かになる経済活動も中々にない。武器が売れれば技術発展し、雇用が生まれる。そして勝った方は略奪し、そして賠償金まで取れる。最高のインフレがやってくるしね。ある種、国を国民ともども売るというのもまた近しい経済効果があるのかもしれないね……普通に考えれば暴動ものだけれど。しかし、本作は作品の章内でスターシステムに近い事をするので、たまにキャラクターの可視化が薄れる時がある」
クリスが言う事は、該当の重複キャラクターと別人だと思ってしまう部分がある。特にそれは……
「そうですねぇ。少し時間を空けて読み直した時にどうしてもこの手法では起こりうる現象ですね。こればかりは、作者さんの脳内完結イメージと、読者さんのそれとに差異が出てしまうからしかたがない事ですけどねぇ!」
セシャトがWeb小説あるあるを語る中で、やはり魔王もとい蘇方は理解できていないでいる。クリスやセシャトは基本的に物語を一気に読み進めるが、Web小説とは本来、空き時間に楽しむ物であり、追っている作品が多かったり、気が向いた時にアクセスする読者は基本前後関係を忘れている場合が多い。
ふとセシャトはここに二人の王がいる事に気づいた。
自称魔王を名乗る蘇方。そして重工棚田の総帥。彼らは内外の者から敵視される事があるのか?
「余か? うむ、基本酒盛りをしておれば余に盾突こうとする奴など精霊や精霊王くらいではないか? 奴らと人種は総じてヴァッカだからな」
そういう魔王もとい蘇方をクリスは鼻で笑って自らの答えは述べない。代わりにクリスは見下すような表情で蘇方に問う。
「自称魔王を名乗る君に一つ聞いてもよいかな?」
「なんだ? 余が答えられる事であれば答えてやろう。履歴書を白紙で出しおった愚かな人種の雄よ。あと自称でなく余は魔王だがの」
「君の世界にメイドはいたかい? 僕の屋敷にも何人か雇ってはいるのだけれど」
セシャトは異世界の魔王に奉仕をするメイドなんてものがいるのか? 確かによくある設定的にクリスが実際の認識合わせの為に聞いたこの質問は意外と尊い。
「メイド? ううむ。ラミアとかそのたぐいの連中が余の身の回りの事をしておったから、それがメイドか? と言われると違うような……」
「あぁ、もういいよ。いないという事だね。じゃあ聞きたいのだけれど、ハストルのように一から魔法を組むとどのくらい時間がかかるものなんだい?」
本作で通常は数時間かかると言われている魔法の構成について、それに魔王もとい蘇方は少し考えてから一人でジェスチャーのような手遊びをすると語る。
「一から、くみ上げるとなるとそれは恐ろしい時間がかかるな。だから、誰かが作って一般化した魔法スクリプトを引っ張ってきて時短させるのが一般的だな。多分、ハストルとかいう小僧も余が手抜きをするように、元々作っておいた魔法理論を重複して使ったんではないか?」
いやに現実的な事を言うのでセシャトは少し閉口していたが、逆にクリスはその話を真剣に聞いていた。
「成程、君は完全な馬鹿というわけじゃないようだな」
「人種。言わせておけば、余を愚弄する数々……命はいらんようだな」
「牛乳のおかわりを」
「……あー、はいはい。ちょっと待て、遠慮を知らんやつめ!」
クリスのコップに牛乳を入れる魔王もとい蘇方。セシャトはクリスが異常な程に喉の渇きを覚えるタイプなんだなとそこはかとなく感じていた。
三人で読み進めていると魔王もとい蘇方が大きな独り言をつぶやく。
「このメイドとかいう仕事。わりがいいなっ! 余もしたいぞ。前にした造花を作る仕事は辛くて辛くて……この世の地獄かと思ったわ」
恐るべき、ホワイト企業であるヴェルデの仕事に大きく興味を持ち、かつ羨ましがる魔王もとい蘇方に大手企業の経営者たるクリスは再び鼻で笑う。
「こんな高待遇の会社が出てきたら、さすがに僕も頭を抱えるよ。楽な仕事はない……とは僕は言わないけど、仕事を楽しめない奴は仕事をする資格はないと僕は思っているよ」
魔王もとい蘇方は図星をつかれて閉口する。ヴェルデ達メイドは楽な仕事だからしたいわけではなく、仕事だからしたいわけであり、そもそもの就業意識が全く違うのだ。
「王政はある種の独裁国家だから、スズリ氏がヴェルデ氏に親しくするというのは実に効果的だよね。ただし独裁国家の弱みは政治力の低さ、それ故国益思考に関しては民主制では考えられない事をしてくれる。故に国民の満足度は高いんだ。君も魔王だと言うならそこを強くするといい」
「そうなのか?」
魔王もとい蘇方に知る由もないが、民主制の政権は政治力は強いかもしれないが、そもそも国家ではなく自分の利権を第一に政治をする為、こちらは効率性は抜群なのだが、残念ながらその効率が国家繁栄に直結しては行き届かない。
結果、どっちもどっちなのだ。
「あと不妊治療ついでに、知っているかい? 近々雄は滅ぶらしいよ。困ったものだね。そうなったらどうなるんだろうね? 特にこの作品の主要キャラ達男色家、いやどちらかと言えば男食家の人外か? 滅ぶのかな?」
クリスの独壇場。何を言っているのかクリスはセシャトを見る。そして魔王もとい蘇方。クリスに感情というものを感じる事は稀有であったが、魔王もとい蘇方は気づく。
人間特有の狂気を今クリスは放っている。時にそれは人外や神々を優に凌駕する狂おしい感情。
「僕はね? 祈りの門の住人であるとか、セシャトさん達であるとか、人外化生になる方法を考えているんだよね。ある物語の中に入り、そしてそこからある物をサルベージする為にさ」
そう言ってクリスは大げさにポーズを取ると魔王もとい蘇方とセシャトに跪いてみせた。クリスの事をよく知る人達からすれば信じられない行動だっただろう。
自分以外の生き物は人間ではないとそう考えるような異常ともいえる自分への信仰心を持つクリス。自分以外は全て下郎。
そんなクリスはその状態のまま少年のように微笑む。
「さぁ、どうかな? この祈りの門の紛い物。妬みの門、愚か者達が門番を行うこの場所を僕にくれないかい? 褒美はそうだね。なんでもあげるよ」
魔王もとい蘇方は、クリスの申し出にめちゃくちゃ心が揺さぶられている。されど、そんな判断を勝手にできる程の権限を持ち合わせてはいない。
「それはできんな。貴様等はその履歴書を持って次の第三会場に行くといい。余は妬みの門の門番の中でも……最弱。ここで牛乳を飲んで物語を語っていた方が良かったかもしれんの……自分で言っていて悲しくなってきたわ」
セシャトは次の会場に行こうかとした時、クリスはパイプ椅子に座りコップを出す。牛乳を所望しているのだろう。
「じゃあそうしよう。この章は上げて落とすんだ。そして少し上がる。だから、次の愚か者は待たせていればいいさ」
「えっ?」
そう驚きつつも魔王もとい蘇方は嬉しそうに冷蔵庫から新しい牛乳パックを取って戻ってきた。
『祈りの門 朱色の喪失 箸・にしきたなつき』本作のパロディを行っているような妬みの門ですが、今回は異世界の魔王・アズリタンさんが登場ですねぇ^^ 牛乳という物がわりと攻めているらしいですねぇ! 当初はクリスさんとアズリタンさんのお二人で展開する物語だったそうですよ! このアズリタンさんは実は100の方法のキャラクターではなく、紹介小説専用キャラクターからの100の方法へ逆輸入だそうです。