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セシャトのWeb小説文庫2020  作者: 古書店ふしぎのくに
第一章 『祈りの門 朱色の喪失 箸・にしきたなつき』
4/90

愛について考えてみた。狼子供と人形の君

冬休みを皆さん各々取られており、今日よりブログ担当のお二人が復帰されます。おべりすくさんは日曜日から復帰となり、ゆっくりと年始の時間を過ごせたんじゃないでしょうか? 私ですか? 私には冬休みも春休みもありませんよぅ^^

 狭間の世界。そこでお雑煮を食べながらやる気のなさそうな男は口を開く。



「おい、アレどうするんだ?」



 一升瓶を抱きながら炬燵の中でゴロゴロする女性は酔っぱらいながら猫みたいに炬燵の中に潜り込みながら不適に笑う。

「知らなぁーい! 今日から年始のお仕事開始だけどアタシ達、ここから出られないぢゃん。きっと、クリス坊やならなんとかしてくれるって、それよりも何か作品のお話してあげようか?」


                       ☆



 赤坂の重工棚田豪邸にて、メジェドはロッキングチェアに腰掛けながら充電をしながら作品を無機質に読んでいた。



「メジェドのガイスト機関のように電気エネルギーで動けない。人間という存在には興味が湧くであります。しかし、生気を吸うというのは昆虫が花の蜜を吸うような、植物が土壌から栄養を吸いだすようなものでしょうか? 総帥が失踪して4時間、沢城主任と連絡が取れず、アリアお嬢様のドレスも仕立て上がり、総帥の指示に従い。『祈りの門 朱色の喪失 箸・にしきたなつき』の読み解きを再開」



 祈りの門へときた陽介の生命維持の方法に関してメジェドは人間以上に面倒な体になってしまった事に酷く羨ましく思っていた。わずかな電力、外にでれば太陽光ですら自分は稼働エネルギーをため込む事ができる。人外と言えども生物。自分はその生物ですらない。それ故、性行為という物に関しての興味が尽きない。メジェドはギリギリ、一般表現で許される陽介と青螺の秘め事に対してリアルなカメラアイを大きくして読み進める。


 以前沢城とクリスの留守を狙ってやってきた欄という女性がメジェドに口止めと言って置いて行ったBL同人誌。それを無機質にメジェドは眺めていたが、信じられない事に自分の主である総帥クリスと古書店『ふしぎのくに』のトトさんが出演し、クリス受けのトト攻めというマニアックな代物だった。

 メジェドにとってそれは強烈なインスピレーションと共に記憶と記録に強く刻まれる事になる。それ故、BLというジャンルにおいて並々ならぬ興味を抱いていた。今この屋敷に生命反応はいない。メジェドはその本を取り出すと開こうとした。

 その瞬間、辺りが暗くなり、雷鳴が落ちる。眩い光に人間であれば目を瞑ったかもしれないが、メジェドはノベラロイド・マリア型初号機。赤坂の豪邸に突然現れた生命反応。それは露出の多い制服のような服を着た黒髪の少女。

 動物のような瞳。それを見てメジェドは瞬時に理解する。



「人ならざる対象を確認。予測、イシュタルの門を介してダンタリアンの召喚に成功」

「だんたりあん?」



 ゆっくりとメジェドに振り向くとメジェドの反応を上回る速さでメジェドを持ち上げた。



「だんたりあんは何処にいる?」

「対象、ダンタリアンにあらず。アンノウン。『祈りの門 朱色の喪失 箸・にしきたなつき』への突入実験は失敗……」



 メジェドは自らの破壊を覚悟したが、謎の対象に降ろされる。



「くあしく」

「?」

「今の作品をくあしく」



 『祈りの門 朱色の喪失 箸・にしきたなつき』の事だろうかと、メジェドは記憶した部分を語った。



「くはは! 本能のままに家族を犯すか? 愛だ!」



 両手を上げて少女はオペラのようにポーズを取る。そのポーズをメジェドは知っていた。幼少の頃のクリスと共にいた古書店『ふしぎのくに』の神様ともう一人、ダンタリアンのだーんたーりあーん! のポーズ。



「人外になってようやく愛を知る。愚かだ人間、そして愛おしい! なんだ? この物語は短編連作だ」



 ふむふむと一人で納得する少女にメジェドは渾身のツッコミを入れた。



「貴女は誰ですか?」

「全ての書物を愛する者。ルプス」

「では、ルプス様。お言葉ですが、短編連作ではなくシリーズ物としての長編ではないでしょうか?」



 牙を見せるルプス。腰に手を当て先ほどまでメジェドが座っていたロッキングチェアに体重をかけるように座る。



「まぐあいの最中に別の者の名前を呼ぶとは、最高の蔑みだ。愛だ」



 メジェドは愛を知りたいとずっと思っていた。されどこのルプスはすぐに愛を語る。



「太陽のように全てを助ける者。愛だ! だが太陽のように等しく命を絶やす者の方が陽介らしい。人形の君はどう思う?」



 人形の君。メジェドの事であろう。そして人形の君ことメジェドはルプスに頭を下げる。



「愛を教えてください」

「物語が突然、異世界の物語に変わった。愛だ」

「これも愛?」

「憎悪も嫉妬も、怒りも悲しみも全て愛。この物語は愛を描いた物語だ。愛に歪みも正しいもない。ただ、人の心をどう受けるのか、それが愛。今回は魔王の話。ルプスに近しい者。しかし、この物語を記す者。ハイファンタジーを書かせた方が上手いかもしれない。あと人形の君。お腹がすいた」



「これは気づけず、失礼しました。すぐにご用意いたします」



 メジェドが用意したお菓子を両手で持ってガツガツと食べるルプス。口のまわりについたクリームをメジェドにふき取られながらルプスは語る。



「スターシステムを取り入れた短編連作だ。作品の大きな物語のベースは祈りの門に合わせ、それぞれの物語に振り返ったり反芻するわけでだ。祈りの門シリーズではなく、祈りの門という短編集だと思った方が入りやすい。それ以降はシリーズとして読めるかもしれないけれども……もうないのか?」



 ケーキを三ホール程平らげてルプスは満足しない。メジェドは頷くとお菓子を作り始める。そんなメジェドを見てルプスは語る。



「こういう祭りの食べ物も悪くない。そしてコンテストという物も祭りでは定番のネタだ。実際学園祭以外でこんな意識の高いコンテスト開かれていないけれどもね」



 ルプスはお菓子を食べれば食べる程、子供らしさを取り戻す。そして悪戯っぽい顔でメジェドに聞いた。



「永遠を生きる嘆きの自動人形的にはどう感じるの? 人形の君にも待っている人の一人や二人はいるんでしょう?」



 メジェドは蘇方と青螺のように自分とクリスも手を取って踊る事が出来ればどれほど嬉しいだろうかと思う。メジェドは蘇方と青螺の様子を映像として再生し、ないハズの心がときめいた。



「人形の君には姉妹や兄弟はいる?」

「メジェドに姉妹機は現在存在しません。そう言うルプス様は?」

「いるよ。殺したくて殺したくて夜も眠れなくなるくらい愛してやまない姉、もし数多の世界があり、同じ顔をした者がいればみんな殺したい。殺したら必死に生き返らせてもう一度殺したくらいに愛している」



 メジェドは愛という認識の一つを更新する。空腹を満たす為に命を頂くという事に関しては彼らも人も変わらないんじゃないかとメジェドは考える。高速で計算を行えるメジェドの頭脳が明確な答えを割り出す前にルプスは軽くお辞儀をするとメジェドに手を差し出した。



「ルプスと踊ってみればいい。駄賃だ」

「エスコート致します」



 ルプスの両手を持って踊るメジェド。無邪気に獣のような牙を見せて笑うルプス。それは名前の通り、狼の子供のようにメジェドに懐いて飛び跳ねるようだった。



「こんな事を喜びにしているなんて人形の君は欲が乏しい、抱いてしまえばいい。そしてどうしても自分の物にしたいなら、殺してしまえばいい……違うか?」



 メジェドはこの質問には高速でアンサーを返した。



「否。総帥を殺す等はありえません」

「愛だ! ルプスは人形の君が欲しくなってきた。接吻をしてやろうか? 人形の君よ。我が愛と共に永遠になれ」



 ルプスは目を瞑りキスをせがむ少女のような仕草を取る。

 それにメジェドは首を横に振り、拒む。それにルプスはあからさまに不満を表してからメジェドの手を離した。



「それもまた愛だ」



 ハストルとヴェルデの関係性を夢想でもしているのか、メジェドはルプスに尋ねる。この作品から心持つルプスが感じる物は何か?



「ルプス様はこの章から感じる愛とはなんでありますか?」



 ルスプは全ての事柄を愛と例えて語る。それを学習したメジェドはその愛とは憎悪なのか、悲恋なのか、後悔なのか、期待なのか? もし自分のマスターであるクリスが戻ってきた時に少しでも多くの情報を共有する為に答えを待つ。



「この愛は様式美と、生の実感に対しての愛だ。愛とは時に狂おしい病として、そしてまた同時に生の実感を感じる物ともなる。王は最後、きちんとした様式美を持って逝く。実に尊い事だとルプスは思う」



 すーはーすーはーと深呼吸をしながら再び、だーんたーりあーんのポーズと取る彼女をメジェドはカメラアイで追う。



「王なる者はレガリア。銀の角を持つという。人形の君、想い人はレガリアを持っているの? 人の身でありながら君の想い人はそこに立とうと言うの?」



 メジェドは思う。総帥、棚田クリスはその翼焼かれようと、その命削ろうと、このルプスやその他人ならざる人外に並び立ち、そしてそれを統べる力を望んでいる。



「総帥は王になるでしょう」

「最期の王に?」



 メジェドは頷く。



「総帥はあらゆる事を捨て、王冠を取るでしょう。ルプス様、メジェドと共に総帥の作る世界を見ませんか?」



 メジェドにとってはじめてできた友人だったのかもしれない。友というものをどの概念で考えるかにもよるのだが……恐らく機械の身体と0と1の思考で作られた自分とこのルプスは似て非ざる存在であると仮定していた。もしかすると彼女はメジェドの手を取るかもしれないという可能性を割り出していた。

 そんなメジェドに手を伸ばすルプス。

 そしてその手を止める。



「ルプスは、王にはつかない。何故なら、ルプスは祈りや願いを壊す者だから、獅黒にとっての祈りの門は自らの後悔を永遠に忘れる事ができない物になった。ならば王はどうだ? 一つの救い、あるいは生涯を現わしている。人形の君の想い人は人でありながら、その道を選ぶというのは王は王でも王道をそれ、冥府魔導に堕ち、魔王にならんとしている」



 ルプスはゆっくりとクリスの自室に向かう扉をあけた。沢城とメジェドしか入室を許されないその扉。数多の警備システムがルプスを襲う。それらを紙クズでも壊すように破壊しつくすと、ルプスはクリスの仮眠用のベットにダイブした。

 寝室とは別にショートスリーパーのクリスがいつでも仮眠できるようにと用意させた神聖な場所で身体を丸めて眠るルプスにメジェドは慌てる。



「そこは、メジェドでも触れた事がない場所であります。ルプス様、お部屋を用意しますので」



 ベットで丸くなるルプスと目が合うとルプスは口パクでメジェドに伝える。”魔王はいずれ死ぬ”と……


 沢城が屋敷に戻ってきた時、ちらかり、クリスの部屋が破壊された状態で立ち尽くすメジェドの姿。監視カメラには何も映っておらず、メジェドのこの数時間のメモリーが完全に消えた状態でメンテナンスを行い。沢城はクリスがきっと一人で暴れたのだろうとこの状況を理解した。


今回はお気づきの方もいらっしゃるかもしれせんが、ふしぎのくにより生まれたグレーラインの方々が次々に登場される形になっていますよぅ! 次回は誰が出てくるんでしょうか?

『祈りの門 朱色の喪失 箸・にしきたなつき』の主要人物達も皆グレーゾーンの方々です。是非ともその黒に近い、白。それとお白になれなかった黒を楽しんでくださいねぇ^^

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