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アテーナーの戦士たち  作者: ルト
第1章
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第7話 異世界の夜

 日が()れて、夜になった。公民館が闇に包まれ、ユウは電気系統(でんきけいとう)のスイッチをいじって灯りを点ける。電気を点けていない部屋は、驚くほど暗かった。マリアが夕食を作っている間、ユウは地図を広げてルートを決め、ショーイチとゴローは銃の手入れをした。


「なぁ、ショーイチ」


 ゴローが云った。


「ん~?」

「今夜、寝れると思うか?」


 ゴローが、手入れの終えたショットガンを置いて云った。


「なんでそんなこと聞くんだ?」

「だってさ、今日だけで、かなり色んなことがあったぞ。学校での地震、突然の異世界への旅行、ユウやマリアとの出会い、初めて本物の銃を手にした……挙げていくとキリがないよ」

「そうだなぁ……」


 ショーイチも銃の手入れを終え、ベッドに寝転がる。


「まぁ、きっとなんとかなるんじゃないかな?」

「……そうなるといいけどなぁ」


 すると、部屋のドアが開き、マリアが入って来た。


「ゴローさんにショーイチさん、夕食ができました」

「あっ、すぐ行くよ!」


 ゴローが答え、二人は居間に向かった。


「うおっ!」

「すごっ!」


 居間に入った二人は、同時に声を大きくした。テーブルの上には、大量の料理が並べられている。とても4人で食べきれるのか不安になるほどの料理が、テーブルの上に鎮座(ちんざ)している。そのほとんどが、人間界の料理と似ていて、人間界の料理ではないものだった。


「おう、来たな」


 ユウが腕を組みながら云った。


「これ、全部マリアさんが?」

「はい。腕によりをかけました」


 ゴローの問いに、マリアが笑顔で答える。


「さて、みんな(そろ)いましたし、食べましょうか」


 マリアの一言で、夕食が始まった。

 ユウによると、この世界では、夕食のときにはその国の伝統的な料理を食べるのが一般的だそうだ。朝食や昼食には、実に様々な料理が食べられているらしいが、夕食は決まってその国の伝統的な料理が食べられているらしい。決まったことではなく、昔からの習慣だそうだ。

 ショーイチがパンを食べながら横を見ると、ゴローが骨付きの鶏肉にむしゃぶりついていた。ユウはスプーンを使ってスープを飲んでいて、マリアはサラダを食べている。食べているものはみんなバラバラだ。ショーイチはそんなことを考えながら、水でパンを流し込んだ。


「ショーイチ、初めて食べるユーフラテスの伝統料理はどうだ?」


 ユウが訊いた。ショーイチは口の中にあった肉料理を飲み込み、水を飲んだ。


「んー、けっこう美味いぜ」

「そうか……」


 ユウは、少しだけ嬉しそうに云った。ふとゴローを見ると、手を休めることなく料理を食べ続けている。いったい細い体のどこにそんなに入るのか、ショーイチには分からなかった。


「もう、ゴローさん。そんなに急いで食べると、また詰まらせますよ」


 マリアが、(あき)れと嬉しさの混ざった声で云う。


「分かっているんだけど……これ美味いな」


 ゴローはそう云って、再び骨付きの鶏肉にかぶりついた。フライドチキンのような料理が、次々にゴローの口の中へと運ばれていく。


「これは私の得意料理なんです」

「俺、これ気に入ったよ」

「ありがとうございます。そう云ってくれると、嬉しいです」


 マリアは少し頬を赤らめて云う。

 食べきれるか不安になるほどの量であったが、4人が食べると、すぐに無くなった。



 夕食が終わり、ショーイチとゴローは相部屋で談笑していた。


「マリアさんの料理、美味しかったなぁ」

「そうだな。あれなら店が開けるかも」


 2人がそんなことを談笑している中、ユウとマリアは居間にいた。マリアは明日の朝食の下ごしらえをしている。


「マリア、どこか楽しそうだな」


 ユウの指摘に、マリアは驚く。


「えっ……そ、そう?」

「さっきから、鼻歌を歌っているぞ」


 マリアは顔を赤くした。


「マリア、ひょっとして――」

「ち、違いますよっ!」


 ユウが云いかけた所で、マリアは顔を赤くしながら、慌てて(さえぎ)った。


「そうか」


 ユウはそう云って、机の上に拳銃を置いた。回転式拳銃で、回転式弾倉には6発のマグナム弾が入っている。木製のグリップには、狼が(かたどら)られた古い銀貨がはめ込まれている。

 久しぶりに騒がしい1日になったな。ユウはそう感じていた。突然やってきた、人間界からの2人の少年、ショーイチとゴロー。何とかして、彼らを人間界に戻してやらなくては……。


「ユウ、どうしたのですか?」


 マリアが話しかけてきた。


「先ほどから銃を眺めながら、どこか遠い目をしていましたよ?」

「え……ああ、ちょっと考え事をしていたんだ」


 ユウは少し笑って云った。


「ユウの笑顔、久しぶりですね」


 マリアの言葉で、ユウは笑っている自分に気がついた。ここ最近、最後に笑ったのはいつだろう。ちょっと思い出せない。


「……今日は、いろいろと忙しい1日だったな」


 ユウは拳銃を磨き、ホルスターに戻した。腰のホルスターは、拳銃の重みで少しだけ下がった。


「私は先に寝るから。おやすみ、マリア」

「おやすみなさい、ユウ」


 マリアの言葉を背中で受けとめ、ユウは宿直室に移動した。ホルスターを外して枕元に置き、靴を脱いでベッドに寝転がる。


「……ショーイチ」


 ユウは自分の口から出た言葉に驚き、毛布(もうふ)を頭から被った。どうして、自分の口からこんな言葉が出てしまったのだろう? それに、どういうわけか身体が熱く感じられる。いったいこれは何だ?

 ショーイチ。ゴローと共に、突然人間界から迷い込んだ少年。ただの人間だと思っていたが、それは間違いだった。あの紅い目。きっとあの目は魔法の適性があることの証明。人間界ではどうだったのか分からないが、こっちの世界に来てから目の色が変わった可能性が高い。いずれにしても『リベレーター』の本部で調べる必要がある。

 そんなことを考えているうちに、ユウは自然に眠りについた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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