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アテーナーの戦士たち  作者: ルト
第1章
7/20

第6話 買い出しは楽しい

 射撃スペースでの訓練を終えた2人は、ユウの運転でユウの家こと公民館へ向かっていた。


「もうすぐ着くから、着いたら準備しよう」


 ユウがルームミラーで、後部座席の2人を見ながら云った。


「準備?」

「ああ。『リベレーター』の本拠地(ほんきよち)に向かう準備だ」


 ユウはそう云うと、アクセルを踏み込み、アメ車のスピードを上げた。アメ車は車のほとんどいない道路を、標識(ひようしき)による規制速度を完全に無視したオーバースピードで突っ走っていった。


「やっぱりユウはスピード狂だ」


 ゴローが云った。

 公民館に入ると、1人のユウと同じくらいの少女が出迎(でむか)えた。


「お帰りなさいユウ……って、あら?」


 明るい茶色の髪で琥珀色(こはくいろ)の目をした大人しそうな少女は、ショーイチとゴローを見て目を丸くする。


「ユウ、この人たちは?」

「あぁ、マリアか」


 ユウは云う。


「人間界からアポストロス・ゲートによって迷い込んだんだ。政府による被害者だ。右目が赤いほうがショーイチ、左目が青いほうがゴローだ」

「ショーイチです」

「ゴローです」


 二人は自己紹介する。


「初めまして。マリア・オリーアです」


 マリアと名乗った少女が、笑顔で云った。


「か、かわいい……」


 ゴローが小声で呟いた。


「マリアも私と同じで、過去の戦争で両親を失っているんだ。それ以外過去に何も接点(せつてん)は無いんだが、同じように魔法が使えることと、どこか()かれ合うものがあって、今こうして一緒に暮らしているんだ」

「よろしくお願いします」


 マリアは礼儀(れいぎ)正しく云う。


「よし、じゃあ早速だが来てくれ」


 ユウが全員を居間として使っている部屋に案内する。ユウがダイニングテーブルの上に地図を広げた。


「これは、ユーフラテスの地図だ」


 ユウが2人に云った。そして地図のある都市を指さした。


「ここが今、私たちのいる町のコナラ。そして政府はここ、エリアTKにある首都(しゆと)のメトロポリスにある」


 地図に描かれた黒い旗のマークを指さして、ユウが云う。別の地点には青い星のマークがついている。


「このマークは何だ?」


 ショーイチが青い星のマークを指さして訊く。


「『リベレーター』の支部がある場所だ。ちなみに、本部はここ。エリアHDのシエラだ」


 ユウは、コナラやメトロポリスからかなり離れた位置にある都市を指さした。


「げぇっ! 遠いぜ!」


 ゴローが云った。


「しかも鉄道や船などの公共交通機関は、政府にマークされているから使えない」

「じゃあ、車で行くのか?」


 当たり前のことだと思いながら、ショーイチが訊いた。ユウが、(てのひら)を上に向ける。


「走っていく体力もないだろ?」

「走るなら、どっかのチャリティー番組のマラソンのほうがマシだ」


 ゴローが云う。


「それにしても、遠くないか?」


 ショーイチが云った。


「途中の支部で休息を挟みながら向かう。まぁ、まずは準備だな」


 ユウはそう云って、地図を畳んだ。


「ねぇ、ユウ」


 マリアが口を開いた。


「ショーイチさんとゴローさん、人間界からこちらに来て色々とあって疲れているんじゃないかしら?」

「む……それもそうだな」

「準備は後で行うとして、今日は休憩した方が良いんじゃないかしら? そんなに、急ぐわけじゃないでしょ?」

「そうだな。本部に集結するのは、まだ少し先だ。少し早めに出る予定だったが、少しくらいゆっくりしていってもいいな。よし、部屋に案内しようか」


 ユウはそう云うと、2人を使っていない部屋に案内した。2人が案内された部屋は、ベッドが2つ置かれた相部屋(あいべや)だった。


「ここは学校や企業の合宿などで使われていた部屋だ。私とマリアは宿直室(しゆくちよくしつ)で寝ているから、ここは使っていないんだ」

「へぇ、宿直室で寝てるんだ」


 ショーイチが云った。


「云っておくが、寝込みを襲ったりしたら、タダじゃおかないぞ?」


 ユウが腰の拳銃に手をかけて云った。


「しません! そんなこと!」


 ショーイチは叫ぶように云った。


「じゃあ、用意ができたら、また居間に戻ってきて」


 ユウはそう云って居間の方に歩いていく。

 2人は使うベッドを決めると、そこに持ち物を置く。


「持ち物なんて、さっき手に入れた銃以外にはほとんどないな……」


 ショーイチがポケットをまさぐりながら云う。


「本当だね。財布も携帯電話もガムも、みんな置いてきちゃった」


 ゴローもポケットをまさぐって云う。


「とりあえず、銃だけでも持って行こうか」

「そうしよう」


 ショーイチはサブマシンガンを1丁と予備の弾丸を持ち、ゴローはショットガンと予備の弾薬数個をポケットに入れ、居間に戻った。居間に入ると、いい匂いが2人の鼻を突いた。


「戻ったか。今、マリアが昼食を作っているんだ」

「ユウは手伝(てつだ)わないのか?」


 ショーイチが()いた。

「わ……私は、あまり料理が得意なほうじゃないんだ……」


 料理が得意でないのが恥ずかしいのか、ユウがほのかに顔を赤くして云った。

「ふーん」


 おそらく照れているのだろう。ショーイチはそう感じ取ると、適当に合槌(あいづち)を打った。

 しばらくしてから、マリアが(どんぶり)を運んできた。丼には、2人にとって馴染み深い料理が入っていた。


「ラーメンじゃん!」


 ショーイチが驚く。ここにきてラーメンが出てくるなんて、予想外だった。ゴローも同じ気持ちであるらしく、目を丸くしている。


「この世界には、人間界が由来の料理も数多くあるんだ。ちなみに、このラーメンは東京という所が発祥(はつしよう)のしょうゆラーメンだ」

「さぁ、どうぞ召し上がってください」


 マリアが云うと、2人は箸を手にしてラーメンを食べ始める。どれどれ、この世界のラーメンはどんなものだろうか。

 2人が口にしたラーメンは、間違いなくしょうゆラーメンであった。これまでに何度も食べてきた関東風のしょうゆラーメンそのものであった。


「……美味い!」

「あぁ、俺達の世界のものと全く一緒だ」


 2人はマリアの作ったラーメンを絶賛する。


「本当ですか? お口に合ってくれたみたいで、良かったです」


 マリアはそう云って微笑む。


「それで、これからどうするんだ?」


 ショーイチがラーメンを食べながらユウに訊いた。


「食事を終えたら、買い出しに行こう。私とショーイチが買い出しに行って、マリアとゴローはここで待機(たいき)してもらう」


 ユウはラーメンにコショウを振りながら云った。


「じゃあ、決まりだな」

「ん!」


 隣から助けを求めるような声がする。振り向くと、ゴローが何かを(のど)()まらせたらしく、もがいている。


「んん、んーっ! んんん……」

「大変!」


 マリアが水を持ってくると、ゴローは水を一気に飲み()した。


「……ぷはぁっ! 死ぬかと思った」

「ゴローさん、そんなに慌てなくても、誰も横取(よこど)りしたりしませんよ」

「いやぁ、美味(おい)しかったもんだからつい……」


 ゴローがそう云うと、マリアは頬を赤くした。


「もう、ゴローさんってば」


 マリアは頬を染めながら喜んでいる。


「なぁ、ユウ。マリアって料理を()められると、いつもああなるのか?」

「いや、そりゃ私がマリアの料理を褒めても喜ぶけど、ここまで喜ぶのは珍しいな……」


 ユウが不思議そうな顔をして云った。



 食事が終わると、マリアが後片付けをしてゴローがそれを手伝った。マリアが洗った皿をゴローが乾いた布巾(ふきん)で水気を拭い、片付ける。


「ゴローさん、手際(てぎわ)がいいですね」


 マリアは云った。


「俺、1人っ子だったからさ、自分のことは何でも自分でやってた……というよりやらされていたんだ」

「そうなんですか。すごいですね」


 マリアが云うと、ゴローは頬を赤らめた。




 その頃、ショーイチはユウと共にアメ車で買い出しに向かっていた。車の多くない道路を、アメ車はユウの運転で、標識による規制速度を無視したオーバースピードで走る。


「なあ、ユウ」


 助手席に座っているショーイチが云った。


「ん、どうした?」


 ユウがハンドルを握りながら応える。

「なんで俺を選んだんだ?」

「……それは」


 ユウがウインカーを出してハンドルを右に切り、進路を変更する。後方から、1台のスポーツカーが猛スピードで走ってきて、二人が乗ったアメ車を追い抜いて行った。


「物を見る目が……ありそうだと思ったからだ」


 ユウは静かにそう答えた。その頬は、ほんの少しだけピンク色に染まっていた。

 しかし、ショーイチにはそのことが分からなかった。


「……よく分からんけど、いっか」


 ショーイチは首をかしげると、猛スピードで移り変わっていく景色に目をやった。思えば、左ハンドルの自動車の助手席に乗るなんて、初めての経験だ。日本の右ハンドルの自動車と違って、何か不思議な気持ちだ。

 そんなことをショーイチが思っていると、サバイバル用品店に着いた。駐車スペースにユウがアメ車を停め、足踏み式のパーキングブレーキをかけた。


「それがパーキングブレーキなのか……」


 ユウが左足で、パーキングブレーキのペダルを踏むのを見ながら、ショーイチは云う。ショーイチは、親の車の助手席に乗った時に、運転席に座っている親が左手でパーキングブレーキのレバーを操作していたことを思いだしていた。


「……私の足をじろじろ見るな」


 ユウからそう云われて、ショーイチは慌てて目線を逸らした。




 アメ車から降りると、2人は共にサバイバル用品店に入った。


「何から見る?」

「まず、サバイバルにおける必需品(ひつじゆひん)からだな」


 ユウはそう云って、サバイバルナイフのコーナーに向かった。


「うわぁ……」


 ショーイチはため息を漏らす。ガラスケースの中には、大小さまざまな種類のサバイバルナイフが並んでいる。


「普通のアウトドアなら、ポケットナイフ程度で十分なんだけどなぁ……」


 ユウが様々なサバイバルナイフを見ながら悩んでいた。アウトドアに詳しくないショーイチは、どれを選んでいいのか分からなかった。


「なぁ、ユウ」

「なんだ?」

「魔法が使えるのに、武器としてのナイフや銃が必要なのか?」


 ショーイチは云った。

 ショーイチには、そのことがずっと疑問だった。魔法が攻撃にも使えるのなら、魔法を武器にすればいいはずなのに、どうして使わないのか。銃やナイフのほうが、魔法よりも攻撃に優れているとは考えにくかった。


「魔法は、確かに攻撃にも使えるんだが……」

「それなら、どうして使わないんだ?」

「技量の問題だ」


 ユウが端的に云った。


「魔法は使えるけど、攻撃や防御のために使うようになるには、訓練が必要なんだ。私はそうした訓練をほとんど受けていない。だから上手く使えないんだ。あと、魔法は無限には使えない。使い続けていると、疲れて魔法を使えなくなる。いざというときのために、武器は多い方がいいんだ」


 なるほど、MPの存在があったのか。

 ショーイチは納得したが、すぐに次の疑問が()いてきた。


「魔法って、誰も教えてくれないものなのか? 学校みたいのは、無いのか?」

「もちろん、魔法のことを教える専門の学校もあるんだが、現在はそうした学校のほとんどは、政府の監視下に置かれている。だから通えない」

「じゃあ……ユウは魔法を、自由に使えるようになりたくないのか?」


 ショーイチが云った。その言葉で、ユウの顔つきが、少しだけ変化した。


「……ショーイチは、なりたいのか?」

「もちろんだ!」


 ショーイチは即答する。使えるのなら、是非(ぜひ)使えるようになりたい。ショーイチはそう思っていた。


「魔法を何のために使いたいんだ?」

「うーん……何か、大切なものができたとき、それを守るため……かな」


 ショーイチは思いついたままに答える。


「そ……そうか」


 ユウは少し頬を染めたが、ショーイチはそのことには気づかなかった。


「『リベレーター』の本部に行けば、過去の大戦で活躍(かつやく)した元兵士のトレーナーから訓練を受けることができる。私とマリアも、これから訓練を受けるんだ」

「本拠地に向かうのは、そのためなのか」

「そういうこと。じゃあ、そろそろナイフを選ぼう」


 そう云って、ユウは再びサバイバルナイフを眺める。


「……これがいいな」


 ユウが選んだのは、少し大きめのサバイバルナイフだった。ナイフの刀身は大きめで、刀の背には(のこぎり)のような刃がついていた。()の部分は、内側が空洞(くうどう)になっていて、小物を入れることができるようになっている。

 どこぞのベトナム帰還兵のワンマンアーミーが持っていそうなものだ。

 ユウはそれを4本ほど購入することに決めた。


「一応、人数分は確保しておかないとな」

「この柄の部分には何を入れるんだ?」


 ショーイチが、柄の部分を(のぞ)きながら云う。


「薬とか釣り糸とか釣り針とか……そういうものを入れるらしい。入るものなら、自分の好きなものを入れていいんじゃないか?」

「ふーん」


 サバイバルナイフの次に2人が見たのは、火の元となるものだ。ライターや火打ち石が並んだ場所で、2人は商品を眺める。


「火打ち石は今どき使わないから、ライターのほうがいいな」


 ユウが手に取ったライターは、人間界で広く流通しているものとよく似ていた。ショーイチは、父親がタバコを吸うときに似たようなものを使っていたことを思いだした。


「親父が使ってたのとそっくり……」


 ショーイチはライターを眺めながら呟いた。


「予備のライターオイルも買っておこう。ライターの燃料以外にも、何かと役に立つ」


 ユウはそう云いながら、ライターオイルも手に取っていく。


「ライターオイルって、そんなに使えるのか?」


 ショーイチは不思議そうな顔をして訊いた。


「例えば……着火剤とか錆び止めとかだな」


 オイルの正しい使い方ではないが、そういう使い方もあることに、ショーイチは驚いて目をぱちくりさせた。そして次に、二人は携帯テントを見た。


「テントって、こんなに小さいの!?」


 1人でも楽に運べそうな大きさであることに、ショーイチは驚く。


「こっちの世界ではこんなもんだ」


 買うものをレジに持って行き、お金を払うと買ったものをアメ車まで運んだ。買ったものを運ぶのは、自動的にショーイチの役目になった。


「……重くないか?」


 ユウが少し心配そうに訊く。


「いや、そんなに……」


 そう答えるショーイチではあったが、少々身体が悲鳴を上げていた。しかし、女の子に重いものを運ばせることに、ショーイチは抵抗感があった。


「無理なら、半分私が持とうか?」

「いや、大丈夫。バイトでもっと重いもの運んだことあるから」


 そうは云うが、ショーイチはバイトでもここまで重いものは運んだことが無かった。バイトで運んでいた酒瓶の詰まったケースや、ダンボール入りのジャガイモを懐かしく思った。


「そうか……」


 ユウは少しだけ口元を緩めた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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