第2話 異世界への転移と目の色の変化
教室に着くと、ショーイチとゴローは自分の机に荷物を置き、椅子に座る。教室では、ほとんどの生徒が友達と夏休みの話題で盛り上がっている。今日は終業式。明日から夏休みだ。
「なぁ、ゴロー」
「ん?」
「夏休みの予定ってさ、なんかある?」
「なーんもないよ」
ゴローの言葉で、二人は笑い合い、そしてため息をついた。
「去年も今年も……変わんねぇよなぁ」
ショーイチは苦笑いを浮かべた。
すると、始業のベルが鳴った。それとほぼ同時に担任の教師が入ってきて、生徒たちは慌てて自分の席へと戻った。担任が出席を取り終える。
「よし、では、これから終業式のため、体育館に向かう。全員、廊下に並べ」
担任の一言で、生徒たちは廊下に並び、体育館へと向かう。体育館に入ると、そこには下の学年の生徒が座って待っていた。全校生徒が揃うと、終業式が始まった。
最初に校長の長い話が始まる。これは何かの行事があるたびに、毎回行われている。
「……であるからして……諸君は」
校長の対して面白くもない長話に、ショーイチは大きな欠伸をした。校長の長い話は、退屈そのものだった。見ると、ゴローも同じように欠伸をして、いかにも退屈そうだ。無理もないよなぁ、とショーイチは思いながら、体育座りから足を崩した。
その直後、大きな地震が襲ってきた。
ものすごい轟音と揺れで、学校中がパニックに陥り、生徒たちは立ち上がれずに這い回る。そして何かに押しつぶされるような重圧がかかり、生徒や教師が次々に気絶していった。
「うぐぐ……」
ショーイチは重圧に耐えながら、必死になって這いずり回り、まだ気を失わず重圧に耐えているゴローの所に行った。
「ショーイチ……」
「ゴロー……耐えるんだ……!」
二人は必死になって、謎の重圧に耐え続けた。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。重圧に耐えることに必死になっていて分からなかったが、気がつくと重圧は無くなっていた。地震も治まっている。
「あ……あれ……?」
二人は立ち上がり、辺りを見回す。生徒や教師は一人残らず倒れていた。普通にしているのは、ショーイチとゴローしかいない。
「いったい……何が起こったんだ?」
「分からねぇな」
ゴローが隣にいた生徒を揺さぶるが、起きなかった。
「どうやら、気を失っているみたいだ」
「とりあえず職員室に行こうぜ。職員室なら、誰か残っている先生がいるかもしれない。それでダメなら、職員室の電話で警察か消防に連絡しよう」
「よし、行ってみよう」
次の瞬間、二人は謎の光に包まれた。
「うっ!」
「わっ!」
二人は短い悲鳴を上げて、目を覆った。頭がボンヤリとして、意識が遠のいていく。いつしか、二人は眠っていくようにして意識を完全に失った。
光が消えると、そこに二人の姿はなく、他の生徒や教師はまだ気絶したままだった。二人だけが消えたのを見た人は、誰もいなかった。
二人が目を覚ますと、そこは先ほどまでいた体育館ではなかった。
どういうわけなのか、体育館であるはずの建物が、どこかの倉庫のようになっていた。ショーイチは隣で倒れていたゴローを起こす。
「ここ……どこ?」
「さぁ……」
二人は立ち上がると、ここがどこなのかを確かめるため、倉庫のような場所から出た。そこは見慣れない建物の中だった。いったいここはどこなのか、見当もつかない。
「俺達、どうしちまったんだろうな」
カチャリ。
そのとき、二人の背後で金属音がした。
「へ?」
二人が間の抜けた声を出して振り向くと、一人の少女が立っていた。
青い目をした銀髪の、どこかアクティブな印象を持つ少女だ。スタイルも良い。年も同じくらいだろう。
しかし、少女は何故か拳銃を握りしめて、二人に銃口を向けていた。ショーイチは、その少女をどこかで見かけたような気がした。
「動くな! 両手を上げろ!」
二人は云われるがままに、両手を上げて硬直する。そしてゆっくりと目を閉じた。幻覚か見間違いであってほしかった。
「ば……万事休す……かな?」
「ああ……」
二人は閉じた目を、ゆっくりと開いた。もしかしたら、夢を見ているのかもしれない。そんな期待を込めて。しかし、少女は相変わらずそこにいた。
やはり万事休すだ。ここは覚悟を決めよう。なんとも、短い人生だったなぁ。辞世の句も思いつかない。二人はそんなことを考え始めていた。
しかし、少女の様子が変わった。目を丸くしていて、明らかに何かに驚いている。少女の顔は、動揺している顔だった。
「お……お前達……」
「?」
二人は首をかしげた。
「そ、その目は……」
「はぁ? 目が何だって?」
ショーイチが云う。
「お……お互いの目を見てみろ」
少女に云われるがまま、二人は顔を見合わせた。
「なっ」
「にっ」
二人も少女と同じように目を丸くした。
「ゴロー、どうして左目が空色なんだ!?」
「ショーイチ、どうして右目が赤色なんだ!?」
二人の片目の瞳は、明らかに色が変わっていた。ショーイチの右目は赤に、ゴローの左目は空色になっていた。
いつの間に、色が変わったんだ?
「お前達……もしかして」
少女は拳銃を下ろし、ハンマーを元の位置に戻した。それを見て、二人は緊張を解いて両手を下ろす。肩の力が、ガックリと抜けていく。
「なぁ、ちょっと聞いてもいいか?」
「あ、ああ……」
ショーイチの言葉に、少女が応える。
「ここは、いったいどこなんだ? 日本なのか?」
薄々感じていた疑問を、ショーイチは口に出す。
「……ここは、バロッキニア。君達の世界から見れば、異世界だ。そしてここは、ユーフラテスという国だ。日本ではない」
少女の答えに、二人は顔を見合わせた。
バロッキニア。異世界。ユーフラテス。日本じゃ……ない?
「えぇ~~~~~っ!?」
二人は軽くパニックになった。
「落ち着け、二人とも!」
少女の言葉に、二人は言葉を飲み込む。
「とりあえず、近くで詳しく説明するから、ついてきてほしい」
二人は少女の言葉に従い、少女の後に続いて歩き出した。
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