第18話 着陸態勢
フライングマシンは、ゴローの操縦で順調にエリアHDにある『リベレーター』の本部に向かって進んでいた。
「まさか、ゴローがフライングマシンを操縦するとは驚いたなぁ」
ショーイチがコクピットで前方を見ながら云った。
「自分でも驚いてるよ。夢じゃないのか、って」
ゴローは前方と計器盤の計器類を見ながら、操縦桿をそっと動かす。
「これも、魔法の力なのかな……?」
「もしかしたら、そうかもしれねぇな」
すると、コクピットのドアが開き、マリアが紅茶の入ったカップを持って入って来た。
「ゴローさん、ショーイチさん、紅茶を淹れました」
「おっ、サンキュ!」
ショーイチがマリアからカップを受け取り、マリアはゴローにもカップを手渡す。
「ゴローさん、紅茶です」
「ありがとう、マリアさん」
ゴローはカップを受け取ると、1口飲んでカップホルダーに置いた。
「マリアさんの紅茶は美味しいね」
「ありがとうございます! そう云ってくれると、すごく嬉しいです!」
マリアは嬉しそうに云った。
すると、ドアが開いて、ユウがコクピットに入ってきた。
「みんな、ここにいたのか」
ユウはそう云って、前方を見る。青い空と雲が広がっており、眼下には大地が見える。
「……美しいな、世界は」
ユウは呟いた。突然の言葉に、3人は驚く。しかし、ユウは続ける。
「――こんなにも世界は美しいのに、私たちは今も戦いを続けている。いったい、いつになったら終わるのだろう? 早く戦いが終わって欲しいな……」
「……ユウ、今の言葉って?」
ユウは顔を真っ赤にして云った。
「――い、いや、ちょっと云ってみたかっただけだ!」
そんなユウを見て、ショーイチは思わず噴き出した。
「やっぱり可愛いな、ユウって」
「な、な――!」
ユウが顔を真っ赤にした。
「な、何を云ってるんだ! ショーイチ!」
「お、照れてる?」
「てっ、てっ……照れてなんか――」
そのとき、ユウのメッセンジャーバンドからアラームが鳴り響いた。
「あっ……ちゃ、着信だ!」
ユウはメッセンジャーバンドに指で軽く触れると、咳払いをしてメッセンジャーバンドに向かって話した。
「応答せよ、こちらはユウ・メンタスピカータ」
「応答せよ、こちらは『リベレーター』本部の管制官、ケルビス・ダンディリオンだ」
「こちらユウ。ダンディリオン管制官、お久しぶりです。どうぞ」
ユウがメッセンジャーバンドに向かって話す。
「誰?」
ショーイチが訊く。
「本部の管制官、ダンディリオンだ」
ユウが云うと、再びメッセンジャーバンドから声が聞こえてきた。
「こちらダンディリオン。久しぶりだな、ユウ。トラブルがあったと聞いたが、大丈夫だったか? どうぞ」
「こちらユウ。現在は手動にて順調に航行しています。どうぞ」
「こちらダンディリオン。フライングマシンを手動で!? 誰が操縦しているんだ? どうぞ」
「こちらユウ。現在フライングマシンを操縦しているのは、人間界から連れてこられた者です。どうぞ」
「こちらダンディリオン。例の少年たちか。こりゃたまげたな。よし、では本部上空に近づいたら、こちらから着陸をサポートする。また連絡してくれ。こちらからは以上だ」
「了解しました。以上、通信終わります」
ユウが云うと、通信が切れた。
「なんて……?」
ゴローが訊く。
「本部上空に近づいたら、ダンディリオン管制官が着陸をサポートしてくれる。そのことで連絡してきた。本部上空に近づいたらまた連絡するそうだ」
ユウが云った。
「ゴロー、着陸はかなり難しいらしいから、本部からの指示に従ってフライングマシンを動かしてほしいそうだ」
「わかった。その指示って、俺のメッセンジャーバンドからも聞けるのか?」
「聞けるはずだ。メッセンジャーバンドは、トランシーバーのようなものだからな。後で操作方法を教える」
ユウはそう云って、再び前方の景色を眺めた。
「……やっぱり、世界は美しいな」
太陽が、西の地平線に沈むころになり、空は茜色に染まった。
「ま、眩しい!」
操縦桿を握るゴローが云った。
「だ、誰かサングラス持ってない!?」
「えっ、さ、サングラスか?」
ショーイチが云う。
「眩しい! このままじゃ操縦できなくなりそうだ!」
「お、おう、待ってろ。確か、サングラス持って――」
そこまで云いかけて、ショーイチはサングラスを教室に置いてきたことを思い出した。
「だ、ダメだ! 終業式の時、教室に置いてきちまった!」
「しょ、しょーがない! こうなったら、我慢して……」
ゴローが云いかけたとき、後ろのドアが開いた。
「ゴロー、キャビンにパイロット用のサングラスがあったぞ。使うか?」
ユウが、サングラスを持って入って来た。
「おい、ゴロー! サングラスだ!」
「天の助けだ!」
ゴローはユウからサングラスを受け取ると、サングラスをかけた。太陽からの光が大幅に弱まった。
「ありがとう、ユウ! 助かったよ!」
「どういたしまして」
ユウは口元を緩めて云う。
「そうだ、マリアさんは?」
「マリアは今、荷物の確認をしている。ゴロー、ずっと操縦させていて、申し訳ないな……」
ユウが云う。
「本当なら、私達が人間を保護しなくちゃならないのに、まさか人間に助けられてばっかりになるとは……」
「気にするなよ!」
ショーイチが云った。
「そんなこと、どうだっていいじゃんか! 俺達はもう立派な仲間だろ?」
「そうだよ! そんなこと考える必要は無いよ!」
ショーイチに続いて、ゴローも云う。
「二人とも……ありがとう」
ユウは二人に気づかれないように、目に溜まった涙をそっと拭う。
「もう少しで、本部があるエリアHDの上空に到着するな」
ゴローがモニターを見ながら云う。ショーイチがモニターを覗き込んだ。
「あと、どのくらいなんだ?」
「多分、2時間くらいだと思う。日没までには着陸できそう」
ゴローが云い、左手で紅茶を飲む。しばらく置いていたのに、紅茶はまだ温かい。
すると、マリアがコクピットに入って来た。
「あら、みんなここにいたんですね。荷物は大丈夫でしたよ」
「ということは……あとは無事に本部に辿り着くだけだ」
「俺の腕にかかっているのか。こりゃ責任重大だな」
ゴローが少し億劫そうに、しかしどこか楽しそうに云った。
「ゴローさん、私には今は何もできませんが、頑張ってください!」
マリアがゴローに云う。
「あ……ああ、大丈夫だ!」
ゴローが頬を赤くしながら云った。
日没が近くなってきた頃。
「あれだ!」
ユウが前方を指さして叫んだ。
「見えたぞ! あれが『リベレーター』の本部だ!」
前方に見える村のような場所を指さした。城のようなものも見える。
それと同時に、ユウのメッセンジャーバンドに着信が来た。
「応答せよ、こちらは『リベレーター』本部の管制官、ケルビス・ダンディリオン」
ユウはすかさず応答した。
「応答せよ、こちらはユウ・メンタスピカータ」
「こちらダンディリオン。南の方角に飛行物体を確認した。ユウか? どうぞ」
「こちらユウ。その飛行物体が私達の乗っているフライングマシンです。どうぞ」
「こちらダンディリオン。了解した。これより着陸の指示を行う。どうぞ」
「こちらユウ。では、操縦しているゴローに変わってください。こちらからは以上です」
すると、会話が途絶えた。
「ゴロー、すぐに管制官のダンディリオンから連絡が入るはずだ。ダンディリオンの指示に従ってフライングマシンを着陸させてくれ」
「わかった」
ゴローはそう答える。ゴローはふと、自分の腕が汗でびっしょりと濡れていることに気づいた。
怖い。航空機の着陸なんて、当然やったことがない。失敗したら、このフライングマシンに乗っている全員が死ぬだろう。マリア、ショーイチ、ユウ、そして自分。全員の命を、この俺が預かっているんだ。失敗は決して許されない。
必ず、成功させる!
「こちらダンディリオン。応答せよ」
ゴローのメッセンジャーバンドに着信が来た。
「こちらゴロー。フライングマシンを操縦しています。どうぞ」
「こちらダンディリオン。君がフライングマシンを操縦している人間だね。これから着陸の指示を出す。準備はいいか? どうぞ」
ゴローは生唾を飲み込み、口を開いた。
「こちらゴロー。はい、いつでもいけます! どうぞ」
「こちらダンディリオン。では、これからは、私の指示に従ってくれ。まず、滑走路の方向に機体を向け、そのまま維持してくれ。どうぞ」
ゴローはゆっくりと操縦桿を動かし、指示通りに地上に見える滑走路に向けた。
「こちらゴロー。滑走路に機体を向けました。どうぞ」
「こちらダンディリオン。では、着陸装置を出してくれ。どうぞ」
ダンディリオンから云われ、ゴローは着陸装置を出すためのスイッチを探した。さすがに着陸装置を出すためのスイッチの場所は分からなかった。
「あった、これだ!」
ゴローはスイッチを入れた。機体が少し揺れ、着陸装置が出たことを示すランプが点いた。
「こちらゴロー。着陸装置を出しました。どうぞ」
「こちらダンディリオン。では、これから私が誘導する。私の指示で、慎重に高度を下げていくんだ。できるか? どうぞ」
「こちらゴロー。はい、やってみせます! 誘導をお願いします! どうぞ」
ゴローの目には、強い光が宿っていた。
「こちらダンディリオン。分かった。では、誘導する」
ダンディリオンの言葉で、ゴローは高度をゆっくりと下げていった。
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