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アテーナーの戦士たち  作者: ルト
第2章
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第15話 空の上

 数時間後、4人と荷物を載せたフライングマシンは、エリアKNの支部から飛び立ち、進路を北へ向けた。目指すはエリアHDにある『リベレーター』の本部だ。


「おぉ~、本当に飛んでる」


 ユウがメインキャビンの窓から外を見て云う。


「こんな鉄の塊が……本当に空を飛ぶんだな」

「もしかして、空を飛ぶ乗り物に乗るのは初めてなのか?」


 ショーイチが訊いた。左腕には、カプシカムから(もら)ったメッセンジャーバンドをつけている。

 ショーイチは何度か、飛行機に乗ったことがあった。最初こそユウのように驚いたが、今ではさほど驚かなくなった。


「ああ。こっちの世界には、空を飛ぶ乗り物なんてほとんど無いからな。なんだか、すごく新鮮な気持ちだ」


 ユウの目は、生き生きとしていた。まるで何かに夢中になった子どものように、ユウは楽しそうに云った。


「そういえば、カプシカム司令官は?」

「カプシカム司令官は、転送(リコール)という手段で移動しているから、すでにエリアHDの本部にいるはずだ」

「え? なんだって?」

転送(リコール)と云ったんだ。一瞬にして遠く離れた場所に移動できる魔法だ」

「そんな便利なものがあるのか……」


 つくづく魔法は便利だなぁ、とショーイチは心の中で呟いた。しかし、その思いはユウの次の言葉によって否定された。


「しかし、この魔法は入口と出口の両方(りようほう)に魔法陣を敷かなくてはいけないから、どこへでも行けるってわけじゃないんだ」

「そ……そうか」


 ショーイチは、赤いテープのような道具で、移動に使うためのものがあったような気がしたが、思い出せなかった。

 ユウは自分の知識を披露(ひろう)できて嬉しかったのか、どこか生き生きとしている。


「……なんだか、可愛いな」


 お世辞(せじ)なく、正直にショーイチは云った。


「はっ、はあっ!?」


 ユウはみるみるうちに顔を赤くし、動揺(どうよう)する。


「そっ、それはどういう意味だ!?」

「いや、そのままの意味だけど?」

「――っ!」


 ユウは恥ずかしくなり、顔をそむけた。


 わ、私が……この私が可愛(かわい)いだって? そんなこと、今まで男性からは1回も云われたことが無い!

 な、なんだか身体が熱い。それに、胸が苦しい。

 こういうときは……どっ、どうすれば……?


「――そっ、そういえば、マリアとゴローは?」


 ユウは別の話題を切り出した。


「ああ、ゴローとマリアなら、確か後部の客室(キヤビン)のほうに行ったよ」


 ショーイチは後部に続くドアの方を見ながら云った。




 後部にある個室では、ゴローが簡易(かんい)ベッドに腰掛けて、窓の外を見ていた。雲が流れて行き、青い空がどこまでも続いている。ショットガンは手入れを終えて、机の上に置かれている。ゴローも、左腕にカプシカムから貰ったメッセンジャーバンドをつけている。

 空の青さは、こちらの世界でも変わらないんだな。

 ゴローがそう思いながら、空を見ていると、ドアがノックされた。


「ん? どうぞー」


 ゴローが云うと、ドアが開いた。


「あっ、マリアさん……」


 入って来たのは、マリアだった。服を着替えたらしく、マリアは動きやすいパンツ姿から、女の子らしいゆったりとしたスカートになっていた。


「ゴローさん、突然(とつぜん)でごめんなさい」


 マリアはそう云って、ゴローの隣に座る。


「どうしたの?」

「ちょっと……会いたくなってしまったので」


 マリアが恥ずかしそうに云い、ゴローの鼓動は早くなった。


「ゴローさん、ちょっと質問してもいいですか?」

「えっ……うん、いいけど、何を?」

「えーとですね……」


 マリアは顔を赤くし、ゴローの顔を見た。


「ゴローさんには、恋人はいますか?」

「えっ!?」


 マリアからの質問に、ゴローは驚く。

 しかし、マリアの問いに対するゴローの答えは、最初から1つしかない。


「……いないけど」


 ゴローに恋人はいない。今までに恋人ができたことは、1度たりともない。ずっと恋愛とは無縁(むえん)だった。そしてそれは、ゴローのコンプレックスであった。


「本当、ですか?」


 マリアが訊き返す。


「本当だよ」

「そう……ですか。それじゃあ、もう1つだけ、訊いてもいいですか?」

「どうぞ」

今朝(けさ)、どうして座ったまま眠っていたのですか?」


 ゴローは今朝のことを思い出した。


「ああ、あれね。昨日(きのう)の夜、ショーイチとユウが用を足しに行っちゃってね。もしも何か起きてマリアさんがやられたら大変だから、すぐに戦えるように座っていたんだ。そしたらいつの間にか寝ちゃって……」

「そうなんですか……」


 マリアはそう云うと、ゆっくりとゴローの手を取った。


「まっ、マリアさん!?」

「ゴローさん……」


 マリアは頬を赤く染めながら、ゴローの手を優しく握る。


「私、すごく嬉しかったです」

「え……?」

「ユウが座って寝ているゴローさんを見て『マリアのことを守っているようだった』と云って、私の事を守ってくれる男の人がいたんだ……と思ったんです」


 ゴローは何も云わず、マリアの言葉に耳を傾ける。


「私、幼い時に両親を亡くしているんです。その両親からずっと云われてきたことがあります。『自分を守ってくれる男の人は大切にしなさい』って。……だから私、やっとその人に出会えて……すっごく嬉しいです」


 マリアはそう云うと、ゴローにゆっくりとその身体(からだ)を預けた。


「わっ! マリアさんっ!?」

「ゴローさん、しばらくの間、このままでいてくれますか?」


 ゴローは少し戸惑(とまど)ったが、すぐに答えを決めた。


「……うん」


 2人は身体を寄せ合い、何も云わず、ただお互いの温もりを感じる。

 マリアさんは柔らかくて暖かいなぁ。ゴローがそう思っていると、不意にマリアが顔を上げた。


「ゴローさん……」

「ん?」

「……キス、してくれますか?」

「えっ!?」


 突然の申し出に、ゴローは驚く。マリアは少し潤んだ目で、ゴローを見る。


「お願いします……ゴローさんのことが、大好きなんです」


 まさかこんなことを云われるなんて。ゴローは驚きを隠せずに、マリアを見つめる。


「本当に……俺でいいの?」

「ゴローさんだから……したいんです」

「じゃ、じゃあ……」


 ゴローは、心を決めた。ゆっくりとマリアの唇に、自分の唇を近づけていく。

 2人の唇はゆっくりと近づき、やがて零距離になった。

 2つの唇が重なったその一瞬、時が止まった。


「んっ……」


 ゴローとマリアはしばらくの間、唇を重ね合わせたまま、抱き合っていた。




「ショーイチ、食べるか?」


 振り返ると、ユウが銀のトレーを持って立っていた。トレーの上には、サンドイッチとジュースの入ったビン、2つのコップが乗っている。


「それは……?」

「……作ってみたんだ。後ろに、小さなキッチンがあって……それで、食べるか?」


 ショーイチの胃が鳴った。

 ユウは小さなテーブルにトレーを置き、コップにジュースを注いだ。


「……いただきます」


 ショーイチはそう云って、サンドイッチを一切れ手に取った。見た目はかなり不格好である。ユウは料理ができないと自分で云っていたが、あれは謙遜じゃなくて本当のことだったらしい。

 ただ、肝心なのは見た目ではなく、味だ。見た目も大事だが、不味(まず)くては食べる気にはなれない。 ショーイチはそう思いながら、サンドイッチを口に入れた。

 味は悪くない。いや、むしろかなり美味(おい)しい。マリアさんのほどではないが、美味しいことは確かだ。これを食べたら、きっとコンビニのサンドイッチなんて、もう食べられないだろう。


美味(うま)い! 美味(うま)いよ、これ!」

「ほ、本当か!? う、美味(うま)いか?」

「ああ、美味い! ユウ、けっこう料理できるじゃん!」


 お世辞なく、ショーイチはユウが作ったサンドイッチを絶賛する。

 ()められたためか、ユウは顔を赤くする。


「あ……ありがとう、ショーイチ」


 目を泳がせながら、ユウは云った。食べ終えたショーイチは、次のサンドイッチを手に取り、かぶりついた。

 ショーイチがサンドイッチを食べる様子を見て、ユウは不思議な気持ちになった。どういうわけか、ショーイチといると安心できる。こんな気持ちになったのは初めてだ。それに、いつもショーイチと一緒にいたい……。


「ユウ、どうしたんだ?」


 ショーイチの声に驚き、ユウは現実に帰る。


「なんだか、遠くを見るような目をしていたぞ……?」

「そ……そうだったか。いや、なんでもないんだ」


 ユウはそう云ってごまかす。


「美味かったぁ」


 ショーイチはサンドイッチを食べ終えて云った。


「ユウ、ありがとな」

「えっ!?」

「美味いサンドイッチ、ありがとな。また、作ってくれよ」


 ショーイチが云うと、ユウは顔を真っ赤にした。


「あ……ああ、ショーイチがそこまで云うなら……私もそう云われると、嬉しいし……」


 ユウは緊張した様子で云った。


「……ま、また作りたくなるからっ!」


 そう云って、ユウはコップに入ったジュースを飲み干した。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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