第12話 予感
朝が来た。
テントの外が少しずつ明るくなり、地平線から朝日が顔を出す。
「……ん~」
最初に目を覚ましたのは、マリアだった。
「ふわぁ……良く寝たぁ……」
起き上がったマリアは、大きく伸びをした。まだ少し眠い目を擦り、辺りを見回す。
「みんなまだ眠っていますね……あら?」
マリアは、ゴローが一人だけ自分の近くで座って眠っていることに気がついた。ユウとショーイチは、毛布を羽織って横になって眠っている。しかし、ゴローだけは座ったままだ。
「ゴロー……さん?」
ゆっくりと、マリアはゴローに語りかける。ゴローはショットガンを握りしめたまま、熟睡していた。
「どうして、銃を握ったままで……?」
「ん……んーっ」
すると、ユウが目を覚ました。
「ユウ、おはようございます」
「あぁ、マリアか。おはよう」
ユウはそう云って、大きく伸びをした。
「ユウ、ゴローさんだけ、なぜか座ったまま寝ているのですが……」
「……あぁ、ゴローか」
ユウは昨晩のことを思い出して、少し笑った。
「夜にちょっと用を足しに出て、テントに戻ってきてみたら、ゴローがマリアの前で銃を持ったまま眠っていたんだ」
「ゴローさんが……?」
マリアが目をぱちくりさせる。
「まるで、マリアを守っているみたいだったな」
「えっ……」
マリアは驚き、そして頬を赤らめる。私を、守っているようだった?
「ゴローさんが……私を……?」
「ん……んう?」
すると、ゴローが目を覚ました。
「あれ……? いつの間に寝ちゃったんだろ……?」
「ゴローさん」
ゴローはマリアの方を向く。
「あっ、おはよう、マリアさん」
「おはようございます」
マリアは笑顔で云うと、ゴローの手をそっと握った。
「わっ!?」
突然手を握られて、ゴローの眠気は吹き飛ぶ。ユウも驚き、目を丸くした。
「ま、マリアさん!?」
「ありがとうございます。ゴローさん」
突然の感謝の言葉に、ゴローは面食らい、頬を赤くする。いったい何が起きたのか、全く訳が分からない。ゴローの頭の中は混乱するばかりだった。
マリアも頬を赤くした。
「あの……今日も美味しい朝ごはん、作りますから!」
そう云うと、マリアはゴローの手を離し、テントの外に出て行った。ゴローは少し名残惜しそうに、自分の手を見つめていた。
「マリア……意外と大胆なのかもな」
ユウが呟いた。
「……ユウ、マリアさん、何かあったのか?」
少しボケーッとしながら、ゴローが訊いた。
「フフ……さぁな」
ユウはそう云うと、まだ眠っているショーイチを起こす。
「ショーイチ、もう朝だ。そろそろ起きろ」
「んー……」
ショーイチは少し動いただけで、起きなかった。
「おい、ショーイチ、そろそろ起きろ」
ユウが再びショーイチを起こそうとする。
「ん、あああ~」
ショーイチが変な声を出しながら、身体をくねらせる。
「もー少しだけ」
「ショーイチ」
「も、もう少し……」
すると、金属音がした。ショーイチが眼を開けると、ユウが回転式拳銃を持っていた。ハンマーが降りている。それは、いつでも射撃可能な状態であることを意味している。
「ひぃっ!」
短く叫んで、ショーイチは飛び起きる。
「ごめんなさい」
「……全く、やっと起きたか」
ユウは回転式拳銃が暴発しないように、ハンマーを元の位置にそっと戻した。そして回転式拳銃をホルスターに戻す。
「心臓に悪いなぁ……」
「さっさと起きないショーイチが悪い」
ユウはキッパリと云った。
「はぁぁ……」
ショーイチはため息をついた。
マリアが非常食で作った朝食を食べた後、四人はテントを畳み、荷物をアメ車に積み込んだ。いつまでも一か所に留まりつづけるわけにはいかない。
「忘れ物は無いか?」
ユウが荷物の入ったアメ車のトランクを閉めて訊いた。
「ないよ」
「ないぜ」
「ありません」
ユウ以外の三人が答える。ユウは頷いた。
「よし、じゃあ出発しよう」
ユウは運転席に飛び乗り、キーを挿し込んで回した。アメ車が力強いうなり声を出す。
三人が飛び乗ると、ユウはギアをドライブに入れ、パーキングブレーキを解除してアクセルを踏み込んだ。アメ車は一気に加速して、そのまま道路を疾走していく。
「しばらく道なりだが、途中でここを通らないとな……」
ユウが地図を見ながら云う。
「ここって?」
「この村だ」
ユウは地図のルート上にある一つの村を指さした。『クヌギ』という名前の村らしい。
「ここを通れば最短距離だ」
「政府の駒は、大丈夫なのか?」
ショーイチが訊いた。
「小さな村だ。一応政府の駒の勢力圏だが、きっと大丈夫だろう」
「そうだといいけどな……」
ショーイチは少し不安そうに云った。
「ビビってるのか?」
ユウが少し意地悪そうに訊いた。
「いや、ビビっているというか……緊張しているような感じだ」
正直にビビっている、とはさすがに云えなかった。ショーイチにも、一応そういったプライドはある。しかし、ただビビっているだけではなかった。何か、嫌な予感がする。どうしてそう思うのかは分からないが、ショーイチの中の何かが警告しているような気がした。
「……ユウは大丈夫なのか?」
「前にも云ったように……もう慣れたよ」
ユウはそう云って、アクセルをより踏み込み、アメ車をさらに加速させる。スピードメーターの針が動き、景色が先ほどよりも速く移り変わるようになる。
すると、トンネルに入った。コンクリート製の覆いが、人工的な光と共にアメ車を包み込む。トンネルの中に他の自動車はいない。
「……長いトンネルだな」
ショーイチが呟いた。トンネルは、思っていたよりも長く、出口が見えてこない。
「そうだな。こんなに長いトンネルは、私も初めてだ」
ハンドルを握るユウも、トンネルの長さに驚いているらしかった。
「マリア、ゴロー。後ろは大丈夫か?」
「今のところはね」
ゴローが答えた。マリアも頷いてそれに同意する。
「今は大丈夫です」
「よし。それなら安心だな」
ユウは新しい缶ジュースを開け、口をつける。
しばらくして、ショーイチが呟いた。
「それにしても……長すぎないか? このトンネル」
人間界にも長いトンネルはあったが、いくらなんでも長すぎるような気がした。
「そうだな。確かに、ちょっと長すぎるが……」
ユウがそう云いかけたとき、前方に光が見えてきた。
「おっ、やっと出口だ」
ユウはそう云うと、アクセルを踏み込んだ。一刻も早く、この長いトンネルから出たかった。
トンネルから出ると、辺りが一気に明るくなり、目が痛くなった。
「眩しいっ!」
ゴローが思わず云った。
「うお、広い!」
ショーイチが云った。目の前には、広い平野が広がっている。そして少し先に、小さな町か村が見えた。
「あそこがクヌギという村みたいだな」
ユウが地図と見比べながら云った。
「おー、あそこで休もうぜ!」
「それはいいですね」
ショーイチの発言に、マリアも同意する。
「いいね、いいね。休憩しよう」
ゴローも乗り気だ。
「そうだな。あそこで少し休憩しよう」
ユウもそれに同意し、クヌギ村で休憩することになった。
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