第10話 キャンプ
田舎を走る直線のハイウェイを、アメ車は走っていく。
「しばらくこのまま道なりだな」
ユウが運転しながら地図を見て云う。
「もうしばらく政府の駒がいるエリアには入らない。武器を置いても大丈夫だろう」
「そりゃあいいや」
ショーイチが安全装置を掛けて、サブマシンガンを膝の上に置いた。ゴローもショットガンを脇に置く。
「あぁ、緊張したぁ……」
「俺もぉ……」
ショーイチとゴローが、深くため息をついて云う。
「無理もないな。異世界に来て、本物の銃を持って戦うなんてまずあり得ないことだからな」
「私たちはもう慣れましたが、ゴローさんとショーイチさんは初めてでしたね」
マリアが云う。
「そうだな。もう少し走ったら、どこかで休憩しようか」
ユウはアクセルを踏み込んだ。戦闘機の計器類のようなスピードメーターの針が動き、タコメーターはレッドゾーンにまで針が動いていく。アメ車は速度を上げていき、オーバースピードで走って行った。
しばらく走っていき、広い公園を見つけた。ユウは、誰もいないことを確認すると、アメ車を公園の中に乗り入れ、広場の真ん中でアメ車を駐車した。
「ふぅ、結構移動したな」
ユウはパーキングブレーキをかけながら云う。
「大丈夫なのか? こんなところに駐車しても」
「いいじゃん。誰もいないし、駐車場もないんだし」
ユウはそう云うと、アメ車のエンジンを切り、キーを抜いてアメ車から降りた。
「うーん。やっぱり長距離の運転をすると身体が痛くなるなぁ」
大きく伸びをしながらユウが云う。マリアも続いて降りて、ショーイチとゴローもそれに続いた。
「じゃあ、この辺りでお弁当にしましょうか」
「そうだな。ずっと走って来たし、それにもう昼だな」
ユウがアメ車のトランクを開け、マリアがトランクからピクニックシートを取り出して広げる。
「さ、座ってください」
ショーイチとゴローが靴を脱いで座り、ユウもそれに続く。マリアがバスケットからサンドイッチを取り出し、広げる。すると、マリアはさらにカップも取り出した。
「サンドイッチだけでなく、スープも作ったんですよ」
少し大きめの魔法瓶を手に、マリアは云った。
「スープまで!?」
魔法瓶を見て、ショーイチは驚く。
「はい。私が最も得意なスープを作りました」
マリアはカップにスープを注ぎ、それを配った。少しの野菜が入ったスープからは、湯気が立っている。
「じゃあ、食べようか」
ユウが云い、そして食事が始まった。
「うお! このスープ美味い!」
ゴローがスープを飲んで、驚く。
「本当ですか? ありがとうございます!」
「すごく美味しいよ! おかわりっ!」
ゴローが早くも空になったカップを差し出す。マリアは嬉しそうにカップを受け取り、魔法瓶からカップにスープを注ぐ。
「まだまだありますから、どんどん飲んでくださいね」
マリアはそう云って、カップを手渡した。
ショーイチとユウは、その様子を見て顔を見合わせる。
「まるで……」
「新婚だな……」
二人はそう云い、少し強くサンドイッチにかぶりついた。
その後、ゴローは三回もスープをおかわりし、マリアを驚かせた。
昼食を終えると、少し休憩してから、再びアメ車で移動をはじめた。朝から襲撃があって疲れたのと、政府の駒がいないエリアということで緊張感が抜けたことから、ショーイチは大きくあくびをした。
「眠たいのか?」
ユウが訊いた。バックミラーで後ろを見ると、ゴローとマリアは眠っていた。ゴローは眠っていても、ショットガンをしっかりと握りしめている。
「いや、ちょっとあくびが出ただけだ……」
「……眠りたいのなら、寝てもいいぞ?」
ユウは少し笑って、カップホルダーに置いてあった缶ジュースを飲む。その缶ジュースはユウのお気に入りらしく、運転席の足元には空になった缶が転がっていた。
「いや、助手席で寝るのは、なんだか悪い気がするから」
「……そうか」
アメ車がカーブに沿って曲がると、後ろのゴローとマリアがくっついて、寄り添うような形になった。どうやらシートベルトをしていなかったらしい。
「それにさ……」
「?」
ショーイチは言葉を紡いだ。
「もしもユウに何かあったら……そのときは俺が運転代わる……からさ」
ユウは少しだけ顔を赤らめた。
ショーイチ、お前、ひょっとして……。
「……運転、できるのか?」
ユウは、自分の本心とは全く関係のないことを訊いた。
「運転免許は持ってないけど……人間界にいた頃は、助手席で親が運転するところ、よく見てきたから……多分、ある程度はできると思う」
ショーイチは答えた。根拠のない自信ではあったが、一人でずっと運転しているユウを少しでも助けたかった。
「だから、運転はいつでも代われるようにしておきたいんだ」
それはショーイチの本心だった。
「……そ、そう。その気持ちは、嬉しい」
顔を赤くしながらそう云うと、ユウはまた缶ジュースを飲んだ。
日が傾いてきた。ユウはアメ車の速度を落とし、辺りをキョロキョロ見回す。ゴローとマリアはいつの間にか目を覚ましていたようで、普通に後部座席に座っていた。
「……ない」
ユウが呟いた。
「ない……って、何が?」
「民家か民宿」
「……ということは?」
「……野宿だ」
ユウはそう云って、道路脇の広場でアメ車を停めると、パーキングブレーキを掛けてエンジンを切った。エンジンを切ると、辺りは静寂に包まれた。
「まぁ、野宿はいいとして、政府の駒は大丈夫なのか?」
心配そうなショーイチの言葉に、ユウが地図を見て答えた。
「この辺りはまだ政府の駒がいないエリアだ。野宿しても大丈夫だろう」
ユウはアメ車のトランクを開けた。トランクから、キャンプ用の道具と携帯テントを取り出す。携帯テントを広げると、アメ車と並ぶくらいの巨大なテントになった。
「すげぇ……」
ショーイチが大きさと便利さに驚いて云った。
「それじゃあ、夕食の準備に取り掛かりましょうか」
マリアがそう云って、アメ車のトランクから非常食を下ろす。
「準備ができるまで、少し待っててくださいね」
マリアは愛用の折りたたみ式ナイフを取り出すと、缶詰やパックを開けていく。
「ショーイチ、ゴロー」
ユウが二人を呼んだ。二人は同時にユウを見る。
「この辺りに政府の駒はいないはずだけど、少し辺りを見てきてほしいんだ。念のためにな。私はこの辺りを見ておくから」
「わかった」
「じゃ、行ってくるよ」
二人は銃を手に、辺りの様子を見るために歩き出した。
見回りをしている途中、二人は夕陽がよく見える場所に出た。
「うお、すげー夕陽」
ショーイチが思わず呟く。夕陽は地平線にゆっくりと沈んでいきながら、大地を真っ赤に染めている。
「日本じゃ、ちょっと見られないね」
ゴローが云う。
「……なぁ、ゴロー」
「ん?」
「お前、マリアさんのこと、どう思ってる?」
夕陽を見つめながら、ショーイチはゴローに訊いた。ゴローは顔を赤くするが、夕陽が当たってそれは分からなくなった。
「え……ど、どうって……」
「好きなのか?」
ショーイチはゴローを見つめながら云う。
「……す、好きだ」
少し震えた声で、ゴローは云った。
「なんだか、いつも近くにいてほしいと思うんだ」
「……そうか」
ショーイチはそう云うと、再び夕陽に向き直った。
「俺も……好きなんだ」
「えっ!?」
ゴローは驚いてショーイチを見る。
「ショーイチも……マリアさんのことが好きなのか?」
不安を隠しながら、ゴローは訊いた。
「……バカ、ちげーよ」
ショーイチは少し笑って云った。
「俺が好きなのは……ユウだ」
「え……そうなんだ……」
ゴローはそっと、ため息をつく。
「俺は、いつもユウのそばにいて、ユウの力になりたいと思うんだ」
二人は顔を見合わせる。
「……なぁ、これって運命なのかな?」
「……どうだろう?」
すると、二人の背後から、呼ぶ声がした。
「おーい、まだ見回ってたのかー?」
「夕食、できてますよー!」
ユウとマリアだ。
二人はもう一度顔を見合わせると、夕陽を背にしてゆっくりと歩き出した。
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