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アテーナーの戦士たち  作者: ルト
第2章
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第10話 キャンプ

 田舎を走る直線のハイウェイを、アメ車は走っていく。


「しばらくこのまま道なりだな」


 ユウが運転しながら地図を見て()う。


「もうしばらく政府の駒がいるエリアには入らない。武器を置いても大丈夫だろう」

「そりゃあいいや」


 ショーイチが安全装置を掛けて、サブマシンガンを膝の上に置いた。ゴローもショットガンを脇に置く。


「あぁ、緊張したぁ……」

「俺もぉ……」


 ショーイチとゴローが、深くため息をついて云う。


「無理もないな。異世界に来て、本物の銃を持って戦うなんてまずあり得ないことだからな」

「私たちはもう慣れましたが、ゴローさんとショーイチさんは初めてでしたね」


 マリアが云う。


「そうだな。もう少し走ったら、どこかで休憩しようか」


 ユウはアクセルを踏み込んだ。戦闘機の計器類のようなスピードメーターの針が動き、タコメーターはレッドゾーンにまで針が動いていく。アメ車は速度を上げていき、オーバースピードで走って行った。



 しばらく走っていき、広い公園を見つけた。ユウは、誰もいないことを確認すると、アメ車を公園の中に乗り入れ、広場の真ん中でアメ車を駐車した。


「ふぅ、結構移動したな」


 ユウはパーキングブレーキをかけながら云う。


「大丈夫なのか? こんなところに駐車しても」

「いいじゃん。誰もいないし、駐車場もないんだし」


 ユウはそう云うと、アメ車のエンジンを切り、キーを抜いてアメ車から降りた。


「うーん。やっぱり長距離の運転をすると身体が痛くなるなぁ」


 大きく伸びをしながらユウが云う。マリアも続いて降りて、ショーイチとゴローもそれに続いた。


「じゃあ、この辺りでお弁当にしましょうか」

「そうだな。ずっと走って来たし、それにもう昼だな」


 ユウがアメ車のトランクを開け、マリアがトランクからピクニックシートを取り出して広げる。


「さ、座ってください」


 ショーイチとゴローが靴を脱いで座り、ユウもそれに続く。マリアがバスケットからサンドイッチを取り出し、広げる。すると、マリアはさらにカップも取り出した。


「サンドイッチだけでなく、スープも作ったんですよ」


 少し大きめの魔法瓶(まほうびん)を手に、マリアは云った。


「スープまで!?」


 魔法瓶を見て、ショーイチは驚く。


「はい。私が最も得意なスープを作りました」


 マリアはカップにスープを注ぎ、それを配った。少しの野菜が入ったスープからは、湯気が立っている。


「じゃあ、食べようか」


 ユウが云い、そして食事が始まった。


「うお! このスープ美味い!」


 ゴローがスープを飲んで、驚く。


「本当ですか? ありがとうございます!」

「すごく美味しいよ! おかわりっ!」


 ゴローが早くも空になったカップを差し出す。マリアは嬉しそうにカップを受け取り、魔法瓶からカップにスープを注ぐ。


「まだまだありますから、どんどん飲んでくださいね」


 マリアはそう云って、カップを手渡した。

 ショーイチとユウは、その様子を見て顔を見合わせる。


「まるで……」

「新婚だな……」


 二人はそう云い、少し強くサンドイッチにかぶりついた。

 その後、ゴローは三回もスープをおかわりし、マリアを驚かせた。



 昼食を終えると、少し休憩してから、再びアメ車で移動をはじめた。朝から襲撃があって疲れたのと、政府の駒がいないエリアということで緊張感が抜けたことから、ショーイチは大きくあくびをした。


「眠たいのか?」


 ユウが訊いた。バックミラーで後ろを見ると、ゴローとマリアは眠っていた。ゴローは眠っていても、ショットガンをしっかりと握りしめている。


「いや、ちょっとあくびが出ただけだ……」

「……眠りたいのなら、寝てもいいぞ?」


 ユウは少し笑って、カップホルダーに置いてあった缶ジュースを飲む。その缶ジュースはユウのお気に入りらしく、運転席の足元には空になった缶が転がっていた。


「いや、助手席で寝るのは、なんだか悪い気がするから」

「……そうか」


 アメ車がカーブに沿って曲がると、後ろのゴローとマリアがくっついて、寄り添うような形になった。どうやらシートベルトをしていなかったらしい。


「それにさ……」

「?」


 ショーイチは言葉を紡いだ。


「もしもユウに何かあったら……そのときは俺が運転代わる……からさ」


 ユウは少しだけ顔を赤らめた。

 ショーイチ、お前、ひょっとして……。


「……運転、できるのか?」


 ユウは、自分の本心とは全く関係のないことを訊いた。


「運転免許は持ってないけど……人間界にいた頃は、助手席で親が運転するところ、よく見てきたから……多分、ある程度はできると思う」


 ショーイチは答えた。根拠のない自信ではあったが、一人でずっと運転しているユウを少しでも助けたかった。


「だから、運転はいつでも代われるようにしておきたいんだ」


 それはショーイチの本心だった。


「……そ、そう。その気持ちは、嬉しい」


 顔を赤くしながらそう云うと、ユウはまた缶ジュースを飲んだ。



 日が傾いてきた。ユウはアメ車の速度を落とし、辺りをキョロキョロ見回す。ゴローとマリアはいつの間にか目を覚ましていたようで、普通に後部座席に座っていた。


「……ない」


 ユウが呟いた。


「ない……って、何が?」

「民家か民宿」

「……ということは?」

「……野宿(ビバーク)だ」


 ユウはそう云って、道路脇の広場でアメ車を停めると、パーキングブレーキを掛けてエンジンを切った。エンジンを切ると、辺りは静寂(せいじやく)に包まれた。


「まぁ、野宿(ビバーク)はいいとして、政府の駒は大丈夫なのか?」


 心配そうなショーイチの言葉に、ユウが地図を見て答えた。


「この辺りはまだ政府の駒がいないエリアだ。野宿(ビバーク)しても大丈夫だろう」


 ユウはアメ車のトランクを開けた。トランクから、キャンプ用の道具と携帯テントを取り出す。携帯テントを広げると、アメ車と並ぶくらいの巨大なテントになった。


「すげぇ……」


 ショーイチが大きさと便利さに驚いて云った。


「それじゃあ、夕食の準備に取り掛かりましょうか」


 マリアがそう云って、アメ車のトランクから非常食(レーシヨン)を下ろす。


「準備ができるまで、少し待っててくださいね」


 マリアは愛用の折りたたみ式ナイフを取り出すと、缶詰やパックを開けていく。


「ショーイチ、ゴロー」


 ユウが二人を呼んだ。二人は同時にユウを見る。


「この辺りに政府の駒はいないはずだけど、少し辺りを見てきてほしいんだ。念のためにな。私はこの辺りを見ておくから」

「わかった」

「じゃ、行ってくるよ」


 二人は銃を手に、辺りの様子を見るために歩き出した。

 見回りをしている途中、二人は夕陽がよく見える場所に出た。


「うお、すげー夕陽」


 ショーイチが思わず呟く。夕陽は地平線にゆっくりと沈んでいきながら、大地を真っ赤に染めている。


「日本じゃ、ちょっと見られないね」


 ゴローが云う。


「……なぁ、ゴロー」

「ん?」

「お前、マリアさんのこと、どう思ってる?」


 夕陽を見つめながら、ショーイチはゴローに訊いた。ゴローは顔を赤くするが、夕陽が当たってそれは分からなくなった。


「え……ど、どうって……」

「好きなのか?」


 ショーイチはゴローを見つめながら云う。


「……す、好きだ」


 少し震えた声で、ゴローは云った。


「なんだか、いつも近くにいてほしいと思うんだ」

「……そうか」


 ショーイチはそう云うと、再び夕陽に向き直った。


「俺も……好きなんだ」

「えっ!?」


 ゴローは驚いてショーイチを見る。


「ショーイチも……マリアさんのことが好きなのか?」


 不安を隠しながら、ゴローは訊いた。


「……バカ、ちげーよ」


 ショーイチは少し笑って云った。


「俺が好きなのは……ユウだ」

「え……そうなんだ……」


 ゴローはそっと、ため息をつく。


「俺は、いつもユウのそばにいて、ユウの力になりたいと思うんだ」


 二人は顔を見合わせる。


「……なぁ、これって運命なのかな?」

「……どうだろう?」


 すると、二人の背後から、呼ぶ声がした。


「おーい、まだ見回ってたのかー?」

「夕食、できてますよー!」


 ユウとマリアだ。

 二人はもう一度顔を見合わせると、夕陽を背にしてゆっくりと歩き出した。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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